研究所にて、熱々のインスタントコーヒーを片手に話し込む若い男女の姿。
「シゲル。いつマサラに戻ってたの?」
「つい昨日だよ。カスミちゃんはポケモンの調整?」
「サトシから預かった水ポケモンを見せにね」
「確かサトシが今回行ったのは南の方か。僕もあとで研究させてもらうかな」
「どうぞ。 でも」
チラッと机に積まれた書類の束とファイルを見遣る。
「進化の石の論文と生態系の変化の分析と地形とポケモンの関係を照らし合わせて今回の調査レポートを纏めて後は、・・・暫く先になるかな」
山積みの仕事を前にやれやれと溜息を零したシゲルにカスミは苦笑した。
「そういえば、ヒカリは?」
「ヒカリなら、今頃コンテストで飛び回ってると思うよ」
「結婚しても変わらないわねー」
「それはサトシもだろ?」
「今は北の方だって。シンオウ飛び越えてもっと北を旅してるらしいわ」
「奇遇だね。ヒカリもそこら辺を回ってるらしいよ」
「じゃあ向こうで偶然ばったり会ってたりして」
まさか。笑いながらコーヒーを口につけた。
外はしんしんと降り積もる雪。
ここはとある地方のポケモンセンター。
「はい、サトシ。インスタントだけど」
「サンキュ。でも偶然だな。コンテストか?」
「もっちろん。サトシはジム巡り?」
「兼ポケモン調査。オーキド博士から頼まれてるからさ」
「ふーん。カスミは元気?」
「元気だよ。ジムにくる挑戦者達をみんな薙ぎ倒すからポケモン協会に設定レベルを下げろって言われてるくらい」
「クスクス。カスミらしい。でもサトシ、あんまりカスミを放って旅ばっかりしてると愛想尽かされるんじゃない」
「そっちこそ。シゲルがさみしーって泣きついてきたり・・・はないか」
「それはないけど、寂しいは言うよ」
「シゲルが?意外だな」
「久々に会った日なんかはずっと私はシゲルの膝の上だったり。離してくれなくて。なのに次の日にはケロッとして相手にしてくれないし、ほんっと、」
「カスミは口には出さないな。連絡なしに帰ると最初は機嫌悪いけど最後は俺の服の端っこ掴んで睨みつけてくる。本当に、」
カップを持つ二人の薬指がキラリと光る。
お互いの顔を見てニヤッと笑った。
「「素直じゃないんだから」」
「・・・・・・」
「・・・そんな偶然あるわけないか」
「世界は広いんだから、大丈夫よ」
「もし仮に会ってたら二人して要らぬことを話してそうで怖い」
「ストッパーもいないだろうし」
「あっはは、カスミってば可愛いー。それとね」
「いやあ、シゲルもなかなかだって。あ、あとさ」
「・・・でも、よく、世間は狭いって言うわよね」
「・・・・・・」
「なんか不安になってきた。シゲル、レポートの纏め手伝うわ」
「頼むよ。考えれば考えるほどドツボに嵌まってく気がする」
コーヒーはまだ冷めない
(この前サトシに会ったの)
(ヒカリがいたんだぜ)
((え゛?))
ボツになったもの。
せっかくだから拍手に。