ここ最近はとにかく目まぐるしかった。
カスミの誕生日が目前に迫っているのを知ったと同時に電話のダイヤルを回したのはもうとうに久しい。
ただでさえつめていたバイトをさらに増やし、忙しさに追われ睡魔に負け学校では教師たちに毎時間頭を叩かれた。
それもやっと今日で終わる。
銀行から出てきたサトシには顔には溢れる笑顔、手には分厚い茶封筒があった。

しかしその笑顔は瞬時に青ざめる。
一体何を、買えばいいのだろうか。



ふたりは別々の高校に通っている。
会えないぶん、離れているぶん素敵なプレゼントを渡したい。
サトシはその一心でこの過密なスケジュールをこなしてきたのだけれど、終わってみればまた新たな試練が待ち構えていたようだ。
こうしちゃいられない!
彼はすぐに携帯電話を開いた。





えっ、誕生日プレゼント?
あたしならやっぱりモノより食べ物のほうがいいかもー。
ケーキなら10個はちょろいもんよ!

ありがとう、考えてみる、とだけ打ちこみ返信する。
確かにハルカらしいといえばらしいのだが。
聞くんじゃなかったと苦笑しているとまたバイブレーションが鳴った。



何でそんなことあたしに聞くのよバカサトシ。
あんた自身に尋ねなさいよ!

おおっと、予期せぬアドバイス。
それがわからないから聞いているんだろう、といささか眉間に皺を寄せる。
ハルカと同様、アクセサリーがいい!などとじぶんの趣向に基づいた内容が返ってくると思っていたから不意打ちだった。
自分自身に尋ねるってどういうことだろう、と頭を捻らせていると再び電話が振動する。
長いな、と思い急いで手にとるとそこにはメールを送ったうちの最後の名が表示されていた。





「久しぶり。
ちゃんと勉強してるか?
元気してたか?」
「…何か順序おかしくね?
まあいいや。
そういうタケシは?」
「相変わらずだよ。」
ははっと漏れる笑い声。

タケシはニビを離れ遠い地の大学に通っている。
久々に声を聞いた最初のうちは幾分大人びたな、とさらに距離を感じてしまっていたのだが、幼い頃から変わらないその笑い声にサトシはほっと胸を撫で下ろす。

それにしても、と話を切り出したのは向こうだった。
「カスミは元気か?
あいつ全然連絡くれないもんなあ。」
「ああ、口のうるささだけはさらにレベルアップしているけどな。」
それでも彼女か、とタケシは笑う。
「そんなあいつももう20才かあ。
どれ、おまえはどんなものを渡したいんだ?」



サトシはぽつりぽつりと話した。
バイトを頑張りたくさんの収入を得たこと、高校が違いなかなか会えないこと、カスミに言い寄る男がおり困っていることなど。
他愛もない話でもタケシは相槌をうちながら聞いてくれた。
ひとしきり話すとようやく彼は口を開く。

「つまりだな、おまえの渡したいものというものは、値段が高くて、おまえの存在を押し付けるようなものなんだな。」
「はあ?
別にそんなこと言ってないじゃないか!」
「いいや、そうとしか聞こえないよ。」
怯むサトシにタケシは言う。
「いいか、おまえの話を聞いていると、渡したいっていう気持ちが感じられない。
高価、あたかも彼氏が贈ったといういわば虫よけ、カスミの好み。
確かにどれも大事かもしれない。
しかしいちばん必要なのはおまえがあいつに渡したい、っていう気持ちなんじゃないか?」





人に頼るな、誰よりもおまえから、ということがあいつは嬉しいんじゃないかな。
おまえが選んだものなら何でも喜んでくれるさ。
そう言い残し電波の途絶えた電話を握りしめる。
そうか、おれはいちばん大切なことを忘れていたんだ。
サトシは唇を噛み締めた。



ハルカ、きみみたいにあいつは喜んでくれるかな。
ヒカリ、きみが叱ってくれなかったらおれ気付けなかったかもしれない。
そしてタケシ。
きみはどんなに離れていても、良きお兄さんだよ。

意を決し家を飛び出して行ったサトシ。
その行方を知るのは煌め輝く遥かな海と、このどこまでも続く空だけ。
明日にはきっと、満面の笑みを携える彼女に出会えるはず。










Dear.
今日という日に
めいっぱいのおめでとうと
何よりも大切なこの想いを
ただひとりのきみに















100111
HAPPY BIRTHDAY もゆさま!
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