「カスミー。サトシ君いるわよ」
「サトシが? 今行くー」
プールまで呼びにきたサクラ姉さんに礼を言って体を水から引き上げた。

少し前に旅から帰ってきたサトシ。帰省祝いにと、皆で些細なパーティーを開いてからは会ってなかったが、まだ新しい旅に出ていなかったのかと少し感心してしまう。
タオルで水気を取り、上着を羽織ってから玄関の扉を開けた。

「急に来るなんて驚くじゃ、あれ?」
予想していた人物が扉の向こうにいない。念のため隠れているんじゃないかと外を見回したがやはり姿はない。
変に思ってサクラ姉さんに聞こうと振り返ると、ちょうどアヤメ姉さんがこっちを見て言った。
「何してるの?サトシ君待ってるのよ、カスミの部屋で」
「え。・・・あたしの部屋!?」
「あら、カスミ。だから言ったじゃない。サトシ君、カスミの部屋にいるわよって」
アヤメ姉さんの横からひょいっと顔を出したサクラ姉さんの言葉に青ざめる。

「あたしの部屋だなんて一言も言ってないわよ!」
叫びながら姉達の横を通り抜け、自分の部屋に向かう。バンッと爽快にドアを開けると、本当にサトシがそこにいた。
「お、カスミ。パーティー以来だな」
「パーティー以来だな、じゃないわよ。何レディーの部屋に勝手に入ってるのよ!常識知らず!」
ズカズカとサトシの元へ詰め寄る。しかしサトシは反省の色も見せずに言った。
「俺は玄関で待ってるって言ったのに、カスミのお姉さんたちがここまで連れてきたんだぜ」
「は、姉さん達が?」
「せっかく来たんだから上がっていけって、リビングかと思ったらカスミの部屋だから驚くよなー」

「・・・ありえない」
本っ当にありえない。
普通、つき合ってもない男を妹の許可なく部屋に連れていく?というか、初めからもう少し説明が欲しものだ。

「なんか無駄に疲れた。あたし着替えてくるから、部屋のもの、あまり触らないでね」
今更リビングに連れていっても姉さん達にからかわれるだけ、と諦めてこの場にいさせることにした。

あいつがじっとして待ってるなんて考えられないため、変に漁られる前に行かなければ、と手早く着替えて髪を乾かし、急いで部屋に戻る。

「お待たせ。・・・あんた、何してるのよ」
忠告したはずのに、本人は全く聞くつもりはなかったらしい。
「『たからばこ』って、何が入ってんの?」
サトシが手にしていたのはピカチュウよりも少し大きい箱。その箱には『たからばこ』と、ひらがなでラベルが貼ってあった。

「それ、あたしが小さい頃から大切なモノを入れてる箱よ。昔はその箱に入りきらないぐらい宝物を見つけるんだって意気込んでたらしいわ。だから今でもたまに何か入れるもの」

「へー。開けていい?」
「別に大したモノは入ってないからいいけど」
海で最初に見つけた貝殻だとか、記念にブルーバッジを一つ入れたりとか、そんなモノしか入ってないはずだ。
1番最後に入れたのは、サトシがホウエン地方に出てから少し経った後、入れたモノは、・・・確か、アレだ。

「やっぱりダメ!!」
半分開きかけた蓋を上から押して無理矢理閉じ、サトシの手から箱を奪った。
箱をギュッと抱きしめ、中身を思い出してよかったと一息をつく。そんな態度が急変したカスミにサトシは怪訝な顔で聞いてきた。

「そんなに見られちゃまずいモノでもあんの?」
「あ、いや、ほら。小さい頃の宝物なんて些細なモノだし。サトシが見て喜ぶようなモノは入ってないわよ」
「ふーん。・・・でも見てみなきゃわからないよな」
「あ、ちょっと!」
一瞬見せた諦めた様子に油断して手を緩めた瞬間だった。隙を見て瞬時に奪い返したサトシはパカッと箱を開け・・・固まった。

「あー、もう」
自分の熱が高まっていくのがわかる。どうしても見られたくなかったのに、よりによってその宝箱の中に入ってたら、言い訳のしようがない。


「なんで、コレがカスミの部屋にあるんだ?」
「・・・サトシのママさんから、前に遊びに行った時、貰ったの」

箱の中からサトシが手にしたモノは、彼のトレードマークでもあった赤い帽子。サトシとあたしとタケシの三人で旅してた頃の帽子だ。
「何で俺の帽子を『たからばこ』に?」
「そ、れは」
これでもかというほどに顔を紅潮させたカスミを横に、サトシは懐かしんでまじまじと眺めたり被ってみたりと楽しんでいた。

「そんなに俺の帽子が大切なんだな。というか、俺のこと」
「な、に言っ」
言葉に詰まる。本当に恥ずかしくて仕方ない。
自ら大切なモノを入れてる箱と言って、その中から目の前にいる相手のモノが出てきたら、そんなの、堂々と好きだって言ってるようなものだ。

「べ、別に、ただ旅の思い出に貰っただけよ。何だったらそれ、持って帰っていいわよ。あんたがハガキ1000枚送って当てた大事な帽子なんだし」

「いや、いいよ。カスミが持ってて」
目を見開いてサトシを見た。てっきり返せと言われると思ってたのに。


「俺は殆ど家にいないから誰かが大事にしてくれてた方が嬉しいし」
ぽすん、とサトシの頭からあたしの頭へと帽子が乗っけられた。
「カスミが持っててくれたら尚更そう思う」
そんな嬉しそうに笑って言われたら、こっちはただ頬を染めて頷くことしかできない。

「これ、俺のことが好きってことだろ」

「・・・・」





秘密の宝箱
(今が素直になるチャンス?)
(俺の喜ぶモノ、入ってるじゃん)



―――――――――

サトシがキャラじゃなーい(汗)
サトシはもっと鈍感で鈍くてヤドン並のはず。

帽子見つけたら
「そんなに俺達との旅が楽しかったんだな」
って言うはずだよ!書いてて楽しかった!ぇ

サトシの初代帽子はママさんの手からカスミに正式に渡されてたらいいのに、って希望。
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