『後悔先に立たず』
『飛んで火に入る夏の虫』
『ミイラ取りがミイラになる』


頭の中で後悔するようなことわざがぐるぐる回っていた。


とりあえず、どうしてあたしはあの時無理にでも引っ張ってアイツを連れ戻さなかったのだろうか。


「そりゃ、カスミがサトシを好きだからじゃないの?」


ガタガタガタ!!

驚きすぎて派手に椅子と一緒に転んだ。周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。


「そこ、静かに」

「す、すいません」
先生に注意され、あまりの恥ずかしさに顔を伏せたまま後ろに倒れた椅子を戻した。


皆がまた授業に集中し始めたころ、隣のハルカに小声で抗議する。

(ちょっとハルカ!何言い出すのよ急に!!)

(本当のこと言っただけかも)


(何であたしがあいつを好きってことになるのよ!)

(だって普通は一緒になって寝ないでしょ、屋上で、しかも授業をサボってまで)

(だからそれは前日に勉強してたし、)
(天気がよかったから?言い訳は見苦しいんじゃない、カスミ?)

(だーかーらー!)
キーンコーン カーンコーン

授業の終わりを告げるチャイムに言葉は遮られた。


「じゃあ、今日はここまでだなー、号令」

きりーつ、礼、とやる気なさげに係りが号令を掛ける。
納得がいかないまま渋々と立ち上がるあたしに、ハルカは苦笑いして言った。

「別に、好きっていう言葉で片づけなくていいとは思うけど。もし、屋上にいたのがサトシじゃない男の子だったら、何をされても言われても連れ戻したんじゃない?」
さてと、わたしはヒカリに会ってこよー、とハルカは席を立って教室を出て行ってしまった。



「・・・そりゃ、サトシ以外の男だったら、ね」
ただ、サトシが好きだからつい一緒にサボってしまった、という理由だと自分に納得がいかなかった。恋心に振り回される自分なんて想像したくない。ましてやその相手がサトシだなんて、本当にありえない。



「カスミー」

「なによ、サトシ」
「さっき転けたのおもしろかったな」


わざわざあたしの席に来て言うことがそれか。

「あんたのせいでしょうが、あんたの!」
「は!?俺?」

サトシは急に言われて理不尽極まりないだろう、しかしあたしにとってはそうなのだ。

「というか、それを言うために話し掛けてきたの?」
「違うに決まってるだろ、ほら!」

ほら?ホラー?手を出されながら言われた言葉に理解できずにいた。

「お前、バカだな」
「なんでサトシにそんなこと言われなきゃいけないのよ、っ!」


グッと腕を掴まれると、小さな痛みが走った。

「やっぱり擦りむいてる」
呆れたように言われ、自分の肘辺りを見てみると、成る程、確かに擦りむいてる。しかも少し血が滲んでいる。

「お前さ、転ぶならもう少し上手く転べよ。保健室行くぞ」
「そんなの無理に決まってるでしょ。これぐらいなら放っといても大丈夫よ」

今までは痛みを感じなかったが、人間不思議なもので、意識し始めるとジーンと痛くなってきた。

「ダメ。怪我は甘く見てるとバイ菌入って危ないんだぜ」
「バイ菌って・・・、あんた仮にも不良でしょ。バイ菌と不良って全っ然合ってわないわよ」

「ほっとけ。ほら、行くぞ」

連れていく気満々なサトシに仕方ないと席を立つ。こういうサトシには何を言っても無意味だ。




「・・・そうやって諦めてるから屋上でついつい許しちゃったのよね」
「何か言った?」
あたしの1歩前を歩くサトシは振り返った。


「別に。あんたのせいで体育祭の種目半分以上出ることになっただなんて言ってないわよ」
「おい。それ完璧に言ってるだろ」
「サトシがあの時起こしてくれてたら、体育祭ももう少し気が楽だったんだけどねー」

気づいたら眠っていた屋上の出来事。起きた時には授業は勿論のこと、下校時間さえも当に過ぎていた。焦る気持ちと掛けられていた上着といつのまにかいない隣の温もりに頭は混乱したものの、すぐに金網に寄りかかって景色を眺めている姿を見つけた。聞けば彼は1時間以上前から起きていたららしい。

一応先生に報告しようとめんどくさがる男を引っ張って職員室に行くと、当たり前だが怒号が室内に響き渡った。そして罰として言い渡されたのが、

“体育祭種目の半分以上出場”


元々人数が少ないクラス。2、3種目は当然皆出るが、半分以上となると5、6、下手すると7種目は必ず出ることになる。
でも、別にそれはいい。動くことは嫌いではない。納得がいかないのはそれがあたしだけの罰だということ。

「なんでサトシは“体育祭に必ず参加すること”なのよ。参加するなんて当たり前じゃない!」
「いや、たぶん先生は体育祭前に問題起こしたら謹慎処分にするから、問題を起こすなって言いたいんじゃ」
「問題だって普通は起きないわよ!」
「まあまあ、仕方ないだろ。先生が決めたことなんだから」
宥めるように両手を上げるサトシが余計に気に障る。

「だからあの時起こしてくれれば間に合ったかもしれないのに」
「気持ちよさそうに寝てる奴を起こせって言う方に無理があるって」
「叩き起こしなさいよ!」
「そんなことしたらお前怒るだろ」
「当たり前でしょ!!」
「当たり前なのかよ!」

ワケがわからなくなる会話も目的地に着くと収まった。


「せんせー。こいつに消毒してやって」
「あら、今日はサトシくんじゃないのね、珍しい。どうしたの?カスミちゃん」
「少し擦りむいちゃって」
いつも喧嘩ばかりするサトシを保健室に連れてくるのはカスミ。今回はその逆なのね、と保健室兼務のジョーイさんは笑って言った。


「ちょっと滲みるわね。・・・はい、これで終わり」

「ありがとうございました」
「これで安心だな」
簡単に済んだ治療でも、サトシは満足そうにしていた。
「別にこんな少しの怪我、放っとけば治るのに」
「だから、それじゃバイ菌が入るって言ったろ」
「そんな心配しなくても大丈夫よ」
「てかさ、何で椅子と一緒に転んだんだ?」
「それは・・・あ、あんたには関係ない話しよっ」
言えるワケがない。あたしがサトシを好きなんじゃないのか、と言われて驚いたからだなんて。

「なんだよ、それ」
「気にしなくていいの!」
また言い合いが始まりそうな雰囲気は、ジョーイさんが間に入ったことで防がれた。

「ふふ。カスミちゃん、サトシくんが擦り傷でもカスミちゃんを保健室に連れてきたかった理由はね・・・」

「へ?」
「げっ」

「カスミちゃんの体に傷を残したくなかっ」
「わーッ、先生! カスミ。もう授業始まるから行くぞ」

「? 先生、聞こえなかっ、わっ」
サトシに腕を引かれて席を立ち上がる。そのままドアの方へ引っ張られていった。

「ねえ、先生なんて言ったのよ?」
「別に、大したことじゃない」

クスクスと笑みを零しているジョーイさんと挙動不審なサトシ。保健室を出るまで二人を見比べていたが、その理由がわかることはなかった。







体育祭までの道程
罰は幸か不幸かどちらに転ぶ?


(先生。あまり余計なことは言わないでほしいんだけど)
(ふふ、サトシくんが慌てる所っておもしろくて)




――――――――――

前回の『予測可能な行動パターン』のAfterでもあり、次回の体育祭の繋ぎでもあります。
だから短い上にこれといったオチなしなお話になりました。

不良少年はシリーズだけど連載っぽく次に繋がっていくストーリーでいけたらいいなっていう目標。



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