「そういうことじゃから、カスミ。よろしくの」

「頑張りなさいよ。あのガキんちょの将来はあんたにかかってるよーなものなんだから」


真面目に向けられた校長と担任の目から冗談は見えず、伝えられた内容に数十秒固まった後、その場から勢いよく飛び出した。





「・・・・・」

物凄い形相で、廊下をギリギリ走っていないと言えるぐらいのスピードで歩く自身の姿は、すれ違う生徒達全員を振り返らせた、と思う。
もっと感情を抑えられればいいけれど、これでも十分抑えているつもりなのだから仕方ない。この怒りの行き場は原因の場所に行くしかないのだ。





(・・あのバカは、ほんっとーにどうしようもないんだから!)




ガラッ!

勢いよく開けたドアの音は結構なもので、色んな雑談が混ざりあっていた教室は一瞬で静まった。

それを気にする事もなく、目的の人物へと足を向ける。


「サトシっ!あんたまた隣の高校と喧嘩したでしょ!!」

「おう。ちゃんと勝ったぜ」

「ピースかまして笑ってんじゃないわよ、バカっ」
へらへら笑うサトシに握った拳を容赦なく振り下ろした。


「いっ・・・!すぐに手出すなよ!」
「っるさい!アンタがそうやってバカばっかり起こすから、あたしにまで災難がふりかかってきちゃったじゃない!」

「何だよ、災難て」

「今朝校長室に呼び出されたの。『彼が起こす数々の問題は教師や学校で更正させるには難しい。よって、彼と同じクラスであり幼馴染みである、優秀な君に、彼の指導者として付いてもらおうと思う』よ!?」
「彼って?」
「アンタしかいないでしょ!」








「・・・あの、校長。話が見えないんですが」

「つまりは、じゃ。サトシがこれから暴力等の問題を起こそうとした時、指導者として死力を尽くして止めくれんかの」

「教師が生徒に頼むこととして、それ以前に学校として問題ありますよね、それ」

「うむ。立場上確かに問題がある。これが外にバレでもしたらワシは校長を辞めざるをえないじゃろう。担任のムサシ先生もじゃ」
「でもね、ジャリガール。このままあのジャリボーイの起こす暴力沙汰をほっといたら、どっちみち問題になっておじゃんなのよ」
「・・・だったら、そうなる前に、より確率の高い方法で彼を更正させようと?それが、教師よりも同クラスで幼馴染みである私が適任と?」

「そういうことじゃ」

「お言葉ですが校長。仮に私がその役目を承諾したとしても、彼が拒否したら意味がありませんし、彼がわざわざ自分からこんな面倒なことを頷くわけないと思いますが」

「その点は心配無用じゃ。既に彼から了承は得ておる」
「え」

「一昨日また隣の高校と問題を起こしてな。本来の処分の代わりにこの『自分に指導者をつける』の提案を了承するなら、今回の件は目を瞑る、と話を持ちかけたんじゃ。彼は直ぐ様笑って頷いたよ」
「ただし、条件付きだったけどねー」

「条件?」

その条件を聞かされ、これでもかというほど目を見開いた。



そして冒頭に戻る。




「あ、あの時の提案、校長本当にやるんだ」
「よりによって、あたしを指名すんじゃないわよ。なにが“1つ条件、カスミを付けてくれなきゃ俺は誰の言うことも聞かないぜ”?アンタ校長に対してどれだけ上から目線なのよ」

「いや、ほら。どうせだったら馴染みの人間がいっかなーって」
「だったらシゲルだっているでしょ!」

「カスミちゃん。そこで僕の名前を出さないでくれる?」
「シゲルならサトシを止められるでしょ。隣の席なんだし」
サトシの小さい頃からのライバルであり、悪友であり、親友という立場の彼なら1番の世話係りになれるだろうに。


「・・席はあんまり関係ないと思うけど。サトシがカスミちゃんを選んだんだから仕方ないさ」

「つーかさ、シゲルも結構いい加減だから無理だと思うぜ」
ほら、あれ見てみろよ、と指差した方向はシゲルの持っている本。


「・・・『相手を完全に潰す方法』。ちょっと、それ何の本よ、シゲル」


「これかい?役に立つことがたくさん載っているんだよ。よかったら君も読んでみる?」

「読まないわよ」

そ、残念。と、さして残念でもなさそうに言うのだから質が悪い。



「ま、そういうことだからさ。頑張って俺を止めてくれよ、カスミ」
これからの苦労を想像させる満足気な笑顔は、心身のやる気を喪失させるには十分すぎるものだった。







不良少年と幼馴染みの女の子
(少女は少年の思惑に気づかない)

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