あたしはママとパパが大好き。
でもわからずやなママとパパは好きじゃないの。

だって、あたしが旅をしたいって言っても、ダメの一点張り。

どうして?って聞いてみても、お前がまだ小さいからだって言って認めてくれない。

でもソラはもう5才だし、あたしはもうすぐ10才になるんだもの。もう小さいからなんて言わせないわっ!
だからあたし、決めたの!!


「ね、ソラ。ウミねぇがいなくなったら寂しい?」
部屋に遊びにきているソラに訊いてみた。ソラはきょとん、として訊き返した。

「ウミねぇ、いなくなるの?」
「あたしね、今回ママとパパにどうしても旅に出たいって頼んでみて、それがダメだったら家出しようと思ってるの」
「いえでって?」
「ん〜。もうここに戻ってこないつもりで家を抜け出すことって言えばいいのかな」

「ウミねぇにもうあえなくなるの?」
眉を八の字に曲げた弟を見て咄嗟にフォローの言葉を返す。
「いや、たぶん、それはないと思うけど。いつかは帰ってくると思うわよ、ちゃんと」
「だったらへいきー」
ニコニコとさっきまでの不安そうな顔はどこへやら。ソラはまた遊びはじめた。

(一生会えないのは嫌だけど、いつか会えるならいいって?)
正直すぎる弟の言葉は少し痛い。

「・・ハッ!気落ちしてちゃだめだ、これからが勝負なんだから!」
ソラからは旅立ちの許可を得た(と思う)。あとは両親だけ。
部屋を出て、何故か慎重に階段を降り、そっとリビングでテレビを観ている両親を覗いた。


(仲良く二人でソファーに座っちゃって、いつまでたってもラブラブなんだから)
そんな関係ないことを考えつつ、いざ決心を固めて勢いよく二人の前に立ちはだかる。
「ママっ、パパっ」

「どうしたの、ウミ?」
「テレビが見えないけど」
「あたし、旅に出たいの!」
半ば叫ぶように言うと、二人は一度顔を見合わせ、口を揃えて言った。

「「いいんじゃない?」」
「なによ!そんなにダメって言うならあたしにだって考えが・・・って、え?いいの?」

ニコニコと笑う二人の顔はさっきのソラの顔とそっくり。やっぱり親子って似るんだな、なんて考えちゃう。

じゃなくて!


「えっと、今までダメだったのに、どうして?」

許しを得たことが嬉しい筈なのに、それ以上に許してもらえた理由が気になって素直に喜べなかった。

「それは・・・―――」





「シィイゲェェエ兄ぃい!!」

「ウミ?そんなに息切らしてどうしたんだい?」
オーキド研究所にシゲ兄がいることを期待して駆け込んだら見事的中。昨日から一夜漬けでやっていた調べ物が一段落したらしく、コーヒーを入れていたんだとか。
でも興奮が冷めないあたしにはそんなの関係なくて。

「パパとママから許可貰えた!」
「早いな、ウミももう10才になるのか」

「ぅえ!?シゲにぃは知ってたのっ?10才になったらポケモン取り扱い免許がもらえて旅に出れるようになるって!」
「・・・そりゃ、僕も10才の頃に旅に出たし。というか、常識じゃないか、これ」
「あたし知らなかった!パパもママも教えてくれなかったもんっ」


「言うのを忘れてたんだろうな」
「あーもー!誕生日が待ち遠しいよお」
じたばたと騒ぐウミにシゲルは目を細めた。
「今研究中だから、程々に帰ってくれよ」
「あ、うん。叫びたかっただけだからもう行くよ。またね、シゲにぃ、研究頑張って」
元から長居するつもりはなかったので早々に研究所を後にした。

「・・・またね、か」
昔の母と同じように左上に結んだ髪を揺らして走る後ろ姿。
違いはそれが肩につくほど長いこと。髪を伸ばす理由が写真で見た人魚姿の母に憧れているから、というのを知っているのは自分だけ。
「あと少しで、暫くはあの"シゲにぃ"が聞けなくなるのかな」
よく懐いていた分、寂しさは残るものだな、と自分に言いながらシゲルは研究に戻った。



研究所を後に向かった先は人目につかない林に隠れた湖。
ポケットから本当はまだ勝手に持ち出しちゃいけないと言われているモンスターボールを湖に向かって投げた。

「ラプラス!」
「クゥン」
ボールから出てきたのは小さい頃からずっと一緒にいた、友達とか仲間とか、そんな言葉では言い表せないほど大切な存在。
鳴きながら擦り寄ってきたラプラスに自分も頬を擦り寄せる。そして額をくっつけながら話した。
「あたし、もうすぐ旅に出れることになったの」
「クゥン!」
「わかってくれる?あたしはいつもあなたに言ってたものね、旅に出たいって」
嬉しそうに鳴いたラプラスは、乗れ、というように背を向けてきた。あたしも慣れたように背中に乗る。
澄んだ水と生い茂った草花が咲くこの湖は、何年か前に見つけてあたしとラプラスの秘密の場所になった。あたしはラプラスの背に乗って水の上にいるのが嬉しくて、ここに来る度こっそりラプラスを連れて乗せてもらっていた。

「10才になったらね、カントーではフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメのうち、一匹がもらえて、その子と旅に出るのよ」
「・・ゥン」
「そんな悲しそうな顔しないで、話しをちゃんと最後まで聞いて」
明らかに寂しそうな顔を向けるラプラスに苦笑する。
この子はあたしが旅に出るなら自然と“そうなる”と思っていたらしい。

「あなたと幼い頃から一緒にいて、嬉しいことがあったら二人で笑って、怒られたら二人で落ち込んで、あたしは、あなたと離れるなんて考えられない」
「・・・・」

「ラプラス、一緒に旅に出よう」
「クゥン!」
パッと顔を輝かせたラプラスは、嬉しさを表現するようにくるくると回った。

「わあ!ラプラスっ、危ないよっ」
それでもニコニコと笑って喜ぶラプラスを見ると、自分もいつの間にか笑っていた。


色んな場所に行って
たくさんの人に会って
自分の知らない世界を見に行くの

あなたと一緒に


「これからもよろしくね!ラプラス!」



君と世界を見てみたい

(色んな壁を乗り越えて)
(最後は一緒に笑っていよう)



――――――――

これだけだと説明不足なことが多いですよね。
いつも反対されてるとことか、ラプラスと一緒にいるとこだとか、シゲルとウミの小話だとか。色々補足がいる気がします。

ちなみにウミはシゲルっ子。実はこっそり4、5才くらいでは初恋(憧れ)のお兄さんでした。
ついでにそんなウミが可愛くて仕方ないシゲルです。
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