『ごめんな、カスミ。まさかリーグ中に重なるなんて・・』

「平気よ。その代わり、こっちが気になったから試合に集中できなくて負けました、なんて言ったら怒るわよ」

『あったりまえだろ。優勝カップ片手にすぐそっちに向かうよ』


無邪気にそんなことを言うものだから余計心配になる。

「だぁから、」
「そんなこと言ってるとあしもとすくわれちゃうよ!」
「あら、ウミ」
言おうとした言葉を隣にいた娘にとられてしまった。


『ははっ、わかったよ。元気にしてるか、ウミ?』
「うん!パパは?」

『めちゃくちゃ元気だよ。な、ピカチュウ』
『ピッカ!!』

「・・もう。とりあえず、明日にはこっちに着くのよね?」
『ああ。明日の朝一で船に乗るから、昼前には着くよ』


「そう、それじゃ、決勝戦頑張ってね」
「がんばってね!!」

『おう、絶対優勝だぜ!カスミも頑張れよ。ウミ、ママを頼むな。それじゃ』


ガチャ


「あんなこと言っちゃって、本当に大丈夫なのかしら」
今はもう彼を映していない電話画面を見て思わずため息をつく。

「パパならきっとだいじょうぶだよ、ママ」
にっこりと笑って言う愛娘を見ていると、大丈夫かも、なんて考えてしまう自分は親バカなのだろうか。


「うーん・・やっぱり親バカよね」
「カスミちゃん」
背後から聞き慣れた声に呼ばれて振り返った。

「ママさん!わざわざ来てもらっちゃってすみません」
「いいのよ。カスミちゃんが分娩室に入ったら、ウミちゃんが1人になっちゃうものね」

「こんにちは、ハナコおばあちゃん!!」
「こんにちは、ウミちゃん。まったく、うちの息子は自分の子供が産まれるって時にまで大会なんて、間が悪いというか何と言うか・・」

「あはは。でも頑張ってるみたいですよ。今日が決勝戦で、勝ったらまた次のリーグにも出場できるみたいです」

「子供の成長は母親の老化ね。サトシが成長していくに連れてシワが増えていく気がするわ。さ、病室に戻りましょうか」
「はい」

「おばあちゃんはいつもきれいだよー」
「あら、嬉しいわー。ありがとう、ウミちゃん」
「ママさんは昔から変わらず綺麗じゃないですか。羨ましいなぁ・・・ぁ」


部屋に戻りがてら、ふいに窓に目がいった。
窓からは雲ひとつない空が広がっている。

この空の下に、あいつもいるのだ。



「どうしたの、ママ」

「・・何でもないわよ」






サトシ

頑張ってね・・・―――











ガチャ



「・・よし、あそこまで言ったからには優勝しかないよな、ピカチュウ」

「ピカチュッ!」


「サトシ、そろそろ時間だぞ」
「今行く。悪いな、タケシ。今回は一緒に来てもらって」
「気にしなくていいよ。試合中に病院から急な連絡が入っても出れないからな」

「たぶん大丈夫だと思うけど、何が起こるかわからないから、一応な」


本当は側にいて励ましてやりたいけど、今回はそれができないから。ならばその分の成果をあげるしかない。

「優勝、狙ってこいよ」
グッ、と目の前に作られた拳にサトシは自分の拳を当てる。

「もちろん!!行くぜ、ピカチュウ!」

外から光が射してきている入り口に向かって足早に駆けていく。そこを潜ればポケモンマスターに近づくための扉がまたひとつ開かれた気分だ。




ワァァァァ!!!


会場内に響き渡る歓声が、体中を駆け巡って痺れさせた。


『さぁ、始まります!ポケモンリーグ決勝戦!!見所は何といっても連覇が懸かっているマサラタウンのサトシ選手!!果たして今日はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!!!』



「連覇」

確かにそれも重要だが、今はそれよりもカップを手に早く家族の元へ帰りたい気持ちがある。



「今の俺は無敵だぜ」



「それでは・・試合、始め!」






ワァァァァアアア!!!・・・―――










――――・・・






「・・ハァッ・・ハァッ」
息切れが激しい。
さすがに足を着けるところ全て最初から最後まで走りっぱなしはキツいか。

「病院内は走らないで下さいっ」

「っ、すいません!!」

注意されて返事はしたものの、足の速さは変わらなかった。






昨日は大会が終わってTVや取材が入って結局連絡できずに終わった。

タケシは特に連絡はなかったと言っていたし、どうせなら直で行くのが一番と、船着き場からずっと足を止めることはなかった。



そしてやっと目的の場所へ辿り着いた。


「ハァ、ハァ・・・っ、ハァ・・ハッ・・・ふー」



深呼吸しながら、よし、とドアを軽く叩く。そしてゆっくりと開けた。
 



「・・カスミ?」

そっと名前を呼べば、家族は笑顔で迎えてくれた。

「サトシ・・おかえりなさい」
「パパ!あのね、うまれたのよ!わたしのおとうと!!すごくうれしいの!!」
喜びで胸いっぱいという風に足に抱きついてきたウミ。

「ああ、そうだな。俺もすごく嬉しいよ」
ウミを抱き上げてカスミの元へ近づいた。


「・・ありがとう、カスミ」

カスミの腕に抱かれている小さな小さな命。今は静かに息をしながら眠っている。

自分達のかけがえのないものがまた1つ増えた。

「この子は、俺似かな?」
「そうね。顔つきがよく似てるわ。タケシは?」
「今日はニビに帰って、明日来るってさ。あ、ちゃんと持って帰ってきたぜ、ほら」
仕舞っておいた優勝カップを取り出してカスミに渡した。

カスミはそれを少しの間見つめると、喜びを噛み締めるように称えてくれた。
「・・おめでとう。これでまた、あなたの夢に近づいたわね」
「辿り着くにはまだまだだけどな」
「パパ、おめでとう!」
「ありがとう、ウミ」
和やかな雰囲気が場を包んだ。



「ねぇ、サトシ、この子の名前は決まった?」
カスミがずっと待ち望んでいたかのように切り出す。


「ああ。・・・ソラ」
ウミを床に降ろしながら言った。
「空?」
「そらってなまえなの?パパ」

家族から不思議そうに向けられた目を、窓から見える空へと誘導した。


「どこまでも高く自由で、青く澄みきっているあの空みたいに、この子には育ってほしいから。この名前にしようって、ずっと前から決めてたんだ」


「空・・ソラか。ソラ、生まれてきてくれて、ありがとう」
カスミは嬉しそうに決まった名前を呼び、囁いた。そしてそっと、優勝カップをソラの横に置いた。



コン、コン

ガララ...


「カスミちゃん。・・あら、サトシ、帰ってきたのね」

「母さん、来てくれてありがとう。俺はさっき着いたんだ」

「そうなの?それならウミちゃん、私達は行きましょうか」

突然言われたウミはきょとんとしていた。
「どこに?」

「そうねぇ、今日は私が夕御飯作るから、その材料買いにいきましょう」
「おばあちゃんがつくってくれるの?」
「カスミちゃんはまだここにいなくちゃいけないからよ。ウミちゃんは何が食べたい?」

「ウミ、ママよりか美味いぜ、絶対」

「・・サートーシー」
念がこもっていそうな声に危機を感じて、嘘です、と反射的に言葉を返した。

「んー、じゃあね、オムライスが食べたい!!」
「いいわねー。それじゃ、行きましょうか。買い物が終わったらまた戻ってくるわね」

いってきます、と元気よくウミと母さんは病室から出ていった。




久しぶりに帰ってきた俺に気を遣ってくれたのだろうか。それはそれで嬉しい。
(ソラの名前を教える前に行っちゃったけど)


今がチャンスとばかりに、ベッドの端に腰掛け、カスミに軽い口づけを贈る。

「ん・・・サト」
「本当はさ、ソラって名前にした理由、もう1つあるんだ」
突然のキスにカスミは頬を染めて名前を呼ぼうとしたが、それを遮った。
「?・・まだあるの?」


「これはウミの時にも考えた理由だけど。海と空って青いだろ」
「ええ。青いわね」
「青色はさ、俺にとってお前のイメージなんだ」

「あたし?」



ずっとずっと見てきた


澄みきった青い青い水の中を踊るように泳ぐ姿。

水の中にいるのが当たり前のように感じさせる程に、それは自然と溶け込んでいた。

まるで本物の人魚のように。


青は、人魚が生きるために必要な色。

「大事な子供達だからこそ、カスミのイメージカラーをいれたくなっちまうんだよな」
お前が何よりも大切だから。



少し照れ臭いな、と笑って言えば、カスミは初めて知った理由にソラを抱いたまま真っ赤になって固まっていた。



blue and blue
(生まれてきてくれてありがとう)
(みんな絶対幸せにしてやるからな)




―――――――――

「空」という名前はSpiral管理人のスクエア様に考えていただきました><!!かわゆいー!!
突然の無茶ぶりにも関わらず快く引き受けて下さったスクエア様に感謝感激です(°∀°)

図々しいヤツで申し訳ない↓orz
しかも後悔してないあたりがまた質悪い私です←


私にとってカスミちゃんのイメージカラーは青で、サトシは赤です。

そしてソラくん誕生の話なのにソラくんの出番があまりない件について´∀`←

赤ちゃんの話し方がよくわからなかったんだい!!だから寝てることにしたとか秘密...((逃げ



スクエア様、この度は本当にありがとうございました!
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