トントン カチャン
トントン カチャン
数枚の紙を揃えてホチキスで留める。誰もいない教室でそれを延々と繰り返していた。
「・・面倒臭い」
「だったら断ればいいのに」
「きゃっ! ・・サトシ、急に話し掛けないで」
後ろにいたならもう少し気配を出してよ!
「本来ならあの先生がやることだったんだから断ったってよかったんだぜ」
「頼まれたら嫌なんて言えないわ」
文句を言いながらもホチキスを持つ手は止めない。気持ちは早く帰りたくて仕方なかったが、先生直々に頼まれて断れる人は中々いないと思う。
(今日は見たいテレビがあったのにな)
「もう8時になるぜ。明日やればいいじゃんか」
「ダメ。明日使うって言ってたから、朝早く来なきゃになってそれこそ面倒よ」
「その分早く俺に会えるだろ。カスミが来たら俺もすぐに来るぜ」
「別に会いたいなんて思ってません」
「うわ、人が傷つくようなこと言うなよな」
「知ーらない。・・・終わったー!」
積み重なった大量のプリントにさっきまでの苦労を感じる。限界を訴えている親指を人差し指と擦り合わせて労った。
「ったく、カスミも損だよな。せめてジュースの一本でも奢らせればいいのに」
「いいの。頼まれたものを引き受ければ先生の好感度上がるから」
「・・・そんな思惑つきかよ」
纏めたプリント達を綺麗に並べながら当然、と返す。
教室のドアが開いた。
「お、何だまだいたのか。もう学校閉めるぞ。残ってるのはお前一人だからな、早く帰れよ」
「あ、はい。もう帰ります」
最後に並べ終えたプリントを見て満足そうに頷くと、鞄を持って教室の扉へ向かう。
出る時に振り返って机に腰掛けたままのサトシに告げた。
「それじゃ、サトシ。いい加減あんたも早く成仏しなさいよ」
「そのうちな」
彼は幽霊
(ただいまー!あ、もう始まってるじゃない、「幽霊成仏の方法」)
(カスミ、何でそんなの見たいの?)
サトシは学校に住み着く幽霊。
カスミはその学校の生徒。
サトシはカスミにしか見えない。だからサトシはカスミがお気に入り。カスミはどうしてサトシが見えるのか不思議で仕方ない。