「サトシが、重体?どういうこと、シゲル」


「いつもの無茶をやらかしたんだ、どうやら・・・カスミ、落ち着け」
今にも走り出しそうなカスミの腕を掴んだ。

「離してっ!サトシは今どこにいるのっ!!」
「・・・集中治療室だよ。今は行っても無駄さ」
カスミは目に涙を浮かべて言葉を詰まらせる。
無駄と言われて、確かに何もできないことは事実で、それが悔しかった。

「何で、今回の任務は、そんな難しかったの?」
「任務は完遂してる。期限まで資産家の令嬢の護衛だ。期限最後の日に金目当ての盗賊が襲撃してきたらしいが、無事サトシが捕えた」
「じゃあ!」

「ただ、そのあと火事が起きたらしい。原因はコックの火の不始末。屋敷にいた者は避難した。全員ね。 でも急に、令嬢が屋敷に戻ろうとしたんだ。火の出所の上が自分の部屋で、そこに亡くなった母の形見を置いてきてしまったから、と言って」


「・・・まさか、」

そのまさかだよ、さっきまでと違い、今度は困ったように微笑んでシゲルは話した。

「火の勢いを見て、最終的には令嬢も諦めた様子だったと聞いたけど。あいつが、“まだ人がいるってことだろ。だから助けに行く”って周りの反対を振り切って飛び込んだらしい」
「・・・それで、どうなったの」
「ボロボロになって2階の窓から落ちてきたそうだ。勿論、母の形見を持ってね」



「・・・馬鹿じゃ、ないの。少しは、自分のことも、考えッ」
そう言いながら、大切な母の形見が無事で良かったと思ってしまう自分がいて、どうしようもなかった。
俯いて涙を零すカスミにシゲルはハンカチを差し出した。

「家はほぼ全焼。けれど金融関係は全て別の場所にあったから、これからの生活は何とかなるって。事情を聞いた最後に、思い出は全て失くなったけど、家族は“皆”無事だったから良かったって言ってたそうだよ」

「・・・・・」

「意識がないまま運ばれていくサトシに、何度も何度もお礼を言ってたって」

「・・っ・・」

シゲルが話す言葉を、カスミはただ頷いて聞いていた。


そして



「暫くすれば目を覚ましますよ」
「はい。ありがとうございます」医者が出ていくのを見届け、ベッドで眠っているサトシに体を向ける。


シゲルから話しを聞いた後、無事に命を取り留めたサトシ。あとは麻酔が抜けて目を覚ますのを待つだけ。


手から伝わる確かな温もりに安堵感は隠せない。
ただ、確かに鼓動の音はしても、まるで死んだように眠るサトシを見てると胸が押し潰される気持ちになった。
巻かれている包帯や、所々覗く傷跡が痛々しい。
どんなに無茶しても、サトシがここまで怪我をするなんて滅多にないのに。


「死にそうになる程の無茶なんてしてほしくないのに。こっちの身にもなってほしいわよ」
ギュッとサトシの手を握って頬を寄せる。

「でも、それがあんただもんね」


そのままでいいから。
きっとあんたに怪我しないでと言っても意味ない。
目の前のことにいつでも全力を尽くす奴だから。
だから、無茶を直せなんて言わないから


「あたしを独りにしないでね」



返事をするように微かに動いた指先は、きっと勘違いじゃない。






そんな話し。
サトシ喋ってないがな。


 
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