激写!(文)
最大火力で風を切る。時々後ろを振り返り、彼女がどのくらいまで近づいてきているかを確かめる。最近切っていないせいで伸びた髪が構ってほしいとばかりに顔に掛かって鬱陶しい。今、おれはそんなことを気にしてはいられないのだ。

「夜月さあああん! 待ってくださいよう!」
「おれは写真が嫌いだ!」

嗚呼、どうしてこうなったのだろう。
回想は大体5秒くらいで終わる。射命丸がおれに取材を申し込んできて、写真嫌いのおれはそれから逃げている。という、ただの追いかけっこである。
それより問題なのが、射命丸はこの追いかけっこを楽しんでいることにある。鴉天狗な彼女なら、おれに追いつくくらい余裕だろう。なのに追いついてこないということは、彼女は手加減をしているということだ。羽加減とも言うか。

「はぁ、はぁ……」

マズイことになった。体力がなくなってきたのだ。しかし、絶対に写真には写りたくない。おれは息切れを気にしないように、光になった気分で風を切る。
すると、急におれの横を黒いなにかが通り過ぎた。射命丸だ! 彼女はもう逃がさないとばかりに、おれの前でカメラを構える。
おれは急ブレーキを掛けて止まろうとする――が、勢い余っておれは箒から落ちてしまった。

「し、しまっ……」
「夜月さん!」

凄い速さで射命丸がおれを受け止め、にやりと笑った気がした。
そのまま彼女は急降下を続ける。こいつ、一体何する気だ。

「おい、しゃめっ……離せっ」

急降下が終わり、喋れるようになっても身体が動かなかった。急降下が身体の負担になったのだろう。すると、射命丸はそのままおれを地面に組み敷いた。

「お――おいおいおいおいおい! なにして」
「もう逃がしませんよ! 夜月さんのこんなセンセーショナルな顔、大スクープですからね!」

もうダメだ、と諦めると同時にパシャパシャと聞こえ始めるシャッターの音。恥ずかしくて、きつく目を瞑る。「ああ! いいですよ! その顔!」と変態のような発言をしながら、色んな角度から写真を撮っていった。
くそ……写真も、射命丸も、苦手だ畜生!

「ふっふっふ……いい写真が撮れました。夜月さん、一言コメントをどうぞ!」
「最悪だ……」
「では、文々。新聞をお楽しみに〜!」

何事のなかったかのように飛び去っていく鴉天狗。一人残され動けないおれ。
……本当、最悪だ。



後日、射命丸からお待ちかねの文々。新聞が届いた。そこには『激写! 霧雨夜月の貴重なデレシーン!』と書かれていた。デレてねーよ、これは追いかけっこで疲れて顔が赤いんだよ。歯をぎりぎり噛みながら下に眼を移すと、『夜月さんはこれに対して「最高だ……」と答えていました!」と書かれているのを見つけ、おれは新聞をぐしゃぐしゃと握りしめた。
――さて、今度はおれが追いかける番だ。


激写!
(貴方の色んな顔が見たいのです)



bkm
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