平気だよ(チルノ)
蛙を凍らせては水につけ生き返らせる。という遊びを一人で静かに行っていたチルノは、どことなく孤独感を感じていた。とある日に霊夢に言われたあの言葉、
――冷気を好む動植物はいないわ。何処に行ってもあんたは嫌われ者 という言葉が気になって仕方が無かったのだ。そこの動植物の中に彼は含まれているのだろうか、と考えてみると、手の中にいた蛙が砕け散った。
ううん。それでいいの。霊夢のように妖怪とか人間に好かれていたら、悪戯ができないもの。
彼女は珍しくうんうんと唸りながら思考を続けていた。いくらバカと言われていても、考えるだけなら誰でもできるものだ。
そう言えば、最強になった人は孤高?で孤独?とかなんとか聞いたことがある。つまり、やっぱりあたいは最強ね。
そこまで考えた時、チルノに影が落ちた。

「よう、チルノ」
「あ……夜月!」
「なんか元気ないね」
「そ、そんなことない! ほら、あたいは元気よ!」

チルノはくるりと回ってみせる。それを見て夜月はそうか、と頷いた。
彼女は夜月の前だと少し見栄を張ってしまう。その原因を彼女は知らない。胸のこの高鳴りが何なのか、チルノはまだ言い表すことができなかった。

チルノの周りはいつも寒く、夏以外は彼女の周りに近づく者は少ない。ましてや、彼女は人の温かさというものを知らなかった。が、夜月は冬でも夏でも構わずチルノに近づいてきて、話しかけてくれる。流石に触れることはなかったが、それだけでも彼女にとっては嬉しかった。

「ねえ夜月、あんた、あたいのこと嫌い?」
「え? どうしたんだよ急に。嫌いじゃないぜ?」
「ほ、ほんと?」
「本当だよ。嘘ついてどうするのさ」

目の前の彼は朗らかに笑う。なによ、霊夢の嘘吐き。霊夢の方がバカ。あたいは嫌われ者じゃないもん。いま、彼がそう言ったもの。
すると、彼は口を開き、爆弾発言をする。

「なあチルノ、抱き締めていいか?」
「え!? な、ななななんで!?」
「可愛いから抱き締めたい。当たり前だろ」
「だ、ダメダメ!」

夜月はなんで? と首を傾げる。彼はもしやあたいの性質を知らないのかな、と疑問に思う。チルノの近くにいるだけで寒いのに、抱き締めたりしたら凍傷を負ってしまう。
聡明な彼ならそれくらい分かるはずなのに夜月はじっとチルノを見つめている。

「ね、いいだろ?」
「ダメだよ、て、てーおんやけどしちゃうよ?」

いや、低温火傷なんかじゃ済まされない。チルノを全身で受け止めるということは、つまりそういうことだ。

「構わないよ。魔法でなんとかする」
「なんとかなるの?」
「あ、アグニシャインとか使えば……」
「あたいが死んじゃう!」

涙目で訴えるチルノ。あんな強力な魔法を使われたらチルノはひとたまりも無いだろう。夜月は冗談、と苦笑した。しかしすぐに真剣な顔に戻り、どうしてか彼は腕を広げる。

「キミに触れてみたいんだ。チルノも、寂しかったんだろう?」
「……!」

寂しいだなんて。そんな気持ち、とっくに凍っている。あたいは一人でいいの。そう言おうとしても、何かが喉に詰まったように苦しくて、声が出ない。目元が熱い。
彼の言葉が、少しづつ彼女の凍った気持ちを溶かしていた。溶けたそれは、自由な水になる。

「おいで」

その声に惹きつけられるように、チルノは夜月の腕の中へダイブした。


平気だよ



bkm
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