白い恋人(幽々子)
雪の如く白い肌。桜色をした艶のある髪。彼女を初めて見た時の印象は、「美しい」以外の何物でも無かった。暫くおれは彼女の光を宿す眼をじっと見つめていた。そして彼女も、おれをじっと見つめ、「私の顔に何か付いているかしら?」と、そう言って笑ったのだ。おれは、そんな声さえも、耳に届いていなかった――

「夜月さん?」

はっとして、声の主を見る。妖夢がぶすっとした顔でおれを見つめていた。何してたっけ、と思考を現実へ戻すと、手に茶碗が乗っていた。ああ、そうだ。白玉楼で妖夢や幽々子さんと夕食を共にしていたんだった。

「夜月ったら、また私の顔に見惚れちゃって……」
「あれ? また見ちゃってました?」
「ええ」

幽々子さんは、あの時と同じようにくすくすと笑った。
幽々子さんの顔をじーっと見てしまうのは、おれの最近の止められない癖だ。気付いたら見てしまっているのだから、どうしても止められない。

「すみません……幽々子さん綺麗だから、つい」
「まあ、ありがとう」
「夜月さんってよく平気でそんなことを言えますね」
「本音を言っているだけだけど……」

そう言うと、妖夢は呆れたように溜め息を吐く。妖夢は普段本音を言ったりはしないのだろうか。

「うふふ、嬉しいわ〜。今まで生気が無くて気持ち悪いって言われて来たのよ」
「そんなことないです!」「そんなことありません!」
「あらあら」

おれと妖夢の声が重なった。透き通るような白さは、家にあった本(多分、魔理沙が盗んできた)に書いてあった白雪姫とやらを思い出す。確か彼女も世界で一番美しいとか何とか言われていた筈だ。つまり、幽々子さんは美しい。
貴女は綺麗なのだと伝えれば、幽々子さん恥ずかしそうにはにかんだ。どんな顔をしても、綺麗なのだと思うおれは、相当彼女に惚れこんでいるのだろう。


夕飯の後、おれは妖夢の皿洗いとか掃除を手伝った。彼女が風呂に入りに行くと、おれは幽々子さんに縁側へと呼び出された。
桜を眺めるように座る彼女の隣に腰を下ろす。

「今日は泊まっていきなさい」
「え? あ、はい」
「一緒に寝ましょうね〜」
「はい……て、ええ!?」

思わず立ち上がると、ニコニコと笑う幽々子さんは逃がさないとばかりに服の裾を摘んできた。おれが困ったように目を泳がし始めると、幽々子さんは冗談よと笑った。

「貴方は弄りがいがあるわ〜」
「それは褒めてもらっていると捉えていいんですかね」
「いいに決まっているじゃない」

あまり褒められた気がしない。彼女は通常運転だ。
はあ、と溜め息を吐くと、彼女は微笑む。その笑顔をじっと見たあと、目を閉じて幽々子さんの顔を思い浮かべた。これは、幽々子さんの顔を凝視してしまわない為の行動だ。
すると、何か冷たいものがおれの頬に当てられた。目を開けると、それは彼女の手だった。彼女の手は雪のように冷たい。しかし、それすらも心地よく感じた。

「幽々子さん?」
「夜月は温かいわね」
「ど、どうも……」

頬に当てられた幽々子さんの掌に、自分の掌を重ねる。おれの熱が伝わって、彼女の掌もじんわりと温かくなってきた。すると、彼女の手が離れる。
代わりに近づいてきたのは、綺麗な顔。

「へ……」

静かに、頬へ唇を落とされた。暫くの思考停止。その後に襲ってきたのは、現状理解の羞恥心だった。

「ゆ、ゆゆ……」
「ふふ、いつも私を褒め殺してくる仕返しよ」
「で、でも……その」
「唇が良かったかしら?」

おれは首を横にぶんぶんと振る。きっとおれの顔が真っ赤なのだろう、幽々子さんは「うぶねえ」とくすくす笑う。

「言っておくけど、貴方も綺麗なのよ」
「そ、そんなこと……」
「目。貴方の目が、好きだわ」

彼女は、おれを翻弄するように、にやりと微笑んだ。


白い恋人
「そう、食べちゃいたいくらいにね」



bkm
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