光に生きる(パチュリー)
本を読み終えて表紙を閉じると、目の前に人の気配を感じた。また魔理沙が本を盗みに来たのかと思い、睨みつけようと顔を上げると、映ったのは予想外の人物。
暗い場所でもよく見える綺麗な金髪は、確かに彼女と似ているが、それは彼女より極端に短い。それは魔理沙の兄として知られる霧雨夜月だった。
私は驚き、思わず小さな悲鳴を上げてしまう。その声があまりにも情けないものだったから、羞恥心に駆られさっきの本で顔を隠した。すると、彼が本から顔を上げて、驚いた私に驚いたらしい。

「あ、ごめん。邪魔した?」
「邪魔と言うか、なんでここに居るのよ!」

彼が目の前に居るというだけで凄く恥ずかしくなって、声を荒げてしまう。この声を小悪魔が聞いたら飛んでくるだろう。それだけは避けたい。
夜月は思い出したように隣に積み重なった本を指さして、自分の読んでいた本をその山に重ねた。

「これ、パチュリーさんのらしいから、返しにきた」
「あ、ああ、魔理沙が盗ってったやつね。良かった、もう返ってこないかと思ったわ」
「いつもいつも悪いね。なんでもかんでも盗んでくる癖、なんとかならないかな」

彼は魔理沙とは正反対と言っても過言ではない性格で親しまれている。私のことも、敬意を払って「パチュリーさん」だ。私のどこに敬意を払っているのか問い詰めたところ、「おれはまだ魔法使いとして未熟だから」とのこと。別にそんな敬意はいらないから、普通に呼び捨てで構わないのに。それか、彼ならレミィのように「パチェ」でもいい。
でも、つまり私たちの関係はそれ止まりというわけだ。魔理沙が繋いでくれている縁と言ったところか。
魔理沙が本を盗らなくなったら――ということはきっとないけれど――私たちの関係はそれできっと終わるだろう。私は閉ざされた世界にいる魔法使いで、彼は眩しい幻想郷に住まう魔法使いである。
私とは違って、彼は色んな妖怪や人に出会うだろう。その中で彼が好きになる人や、彼のことを好きになる人がいたって不思議ではない。事実、私は彼に惹かれている。

「パチュリーさん?」
「え? な、なに?」
「いや、なんかボーっとしてたから」
「べ、別になんでもないわ」

寂しい。彼に会えないなんて、寂しい。魔理沙が本を盗るのを止めるわけがないけれど、でもいつか会えなくなる日が来る。もういっそのことレミィに彼の血を吸わせて夜月を人じゃなくしてあげようとも考える。でもそれはダメに決まってる。彼の人生を縛れるほど私は偉くないのだから。でもやっぱり――寂しい。

「ねえパチュリーさん」

彼が私を見る。直視できなくて、私は目を逸らしてしまう。彼の綺麗な手が目に映った。直視していないだけで、彼の表情はなんとなくわかる。今の彼は、朗らかに笑っている。

「おれ、もう一時間くらいパチュリーさんが本を読み終わるの待ってた」
「へ!? な、なら声を掛けてくれれば良かったじゃない!」
「でも邪魔はしたくないし、それに、声を掛けたら魔法で殺されるかと思って」
「わ、私はそんなに乱暴じゃないわ」

そうだよね、と彼が笑う。結局のところ夜月は何が言いたいのかしら。

「でも、集中して本を読むパチュリーさんの顔をじーっと見てたら一時間なんてあっという間だったよ」
「な!? な、な……!」
「だからさ、もう一冊、本を読んでいて。もう少し待っていたいから」
「ば、ばかっ!」

大事な本を投げつけた。それは彼の額に衝突し、夜月は椅子ごとひっくり返ってしまった。いま心配するのは本の安否か、彼の安否か。まあ、本は魔法をかけてあるから傷つきはしないだろうけれど。

「ご、ごめんパチュリー……調子に乗りました」
「……!」

初めて呼び捨てにされたことにビックリして、声が出なくなった。それはつまり、魔法使いとしてじゃなく一人の女の子として私を見てくれたという意味だということを、パニック状態の私はその時気づけなかった。

それに気づいたのは私が彼を無理矢理図書館から追い出した後。顔に熱が集中して、小悪魔が来ないことを必死に願った。扉に寄りかかって、私は頭を抱える。なんなの、あんな落とし文句、まるで最初から言うつもりだったみたいな。決められた台詞を読み上げるような。告白――のような。

私はそれから、彼との関係を少しづつ見直し始めることにした。彼はまた、来てくれるだろうか。

光に生きる




bkm
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