犯人は?(てゐ)
※後味悪いかもしれない話。ちょっと閲覧注意。


魔法の森にとある青年が住んでいたそうだ。彼は魔理沙の実の兄で、彼女とは真逆の好感を持ちやすい性格で慕われていたらしい。別にこれは魔理沙のことを好感が持てない人間だと言っているのではないので勘違いはしないで欲しい。話が逸れたが、つまり彼は人間からも妖怪からも妖精からも好かれていたのだ。だから、彼が失踪したと噂が流れ始めた時は涙を流す者もいた。

彼、夜月が行方不明の音信不通となってから一週間が経った。最初は「そのうち帰ってくる」と笑顔を見せていた魔理沙も表情が曇り始めていた頃、そんな彼女の様子を見かねて、霊夢は魔理沙を神社へ呼んだ。

「夜月が何処に行ったのか知らないの?」
「……確か、執事にさせられたとかで紅魔館に向かったはずだぜ」
「手掛かりはあるんじゃない!」

霊夢は怒ったように魔理沙を睨み付ける。彼を心配しているのは彼女も同じなのだ。
どうして早く言ってくれなかったの、と言われているような気がして、魔理沙は必至に弁解しようとする。

「アリスの家に居ると思っていたんだよ。でも今日、聞きに行ったら来ていないって言うし……」
「そう……」

霊夢は目線を落とす。重い空気に耐えられなくなった魔理沙は「あー!」と声を上げ立ち上がる。

「こうしちゃいられないぜ。夜月をわざわざ探すなんて癪に障るけど、心配なことに変わりは無い」
「そうね。私も心配だわ、行きましょ」
「お、珍しくやる気だな」
「当たり前でしょ。妖怪退治とは訳が違うの」

二人の表情は、真剣そのものであった。



二人は全速力で紅魔館へと向かった。途中で現れたチルノさえ見えていないと言うように完全無視。それに対し怒る彼女を大妖精が慰めていたことは言うまでもない。
そして息切れを起こしながら紅魔館へと入ると、エントランスでオロオロとしている咲夜に出会う。話を聞くと、彼女も夜月の失踪説を心配しているらしかった。

「てことは此処には夜月はいないのか?」
「すみません、パチュリー様のお薬を取りに永遠亭に向かわれてから、戻らないんです」

そう言う咲夜の顔は曇り、声にも抑揚が無い。何処か疲れているようにも見えた。
霊夢と魔理沙は顔を見合わせる。次の手掛かりが出来たと内心ガッツポーズを決める。

「パチュリーは大丈夫なのか?」
「はい。夜月さんがお薬を取りに行ったあと良くなりました」
「それなら平気ね。じゃあ魔理沙、永遠亭へ行くわよ」
「おい霊夢、そう急ぐなって」

霊夢はだんだんと不安になってきていた。何か嫌な予感がしたのだ。永遠亭に行くには迷いの竹林を抜けなければならない。彼には箒があるし、妹紅やてゐとも面識があったはずだからきっと大丈夫だと思うけれど、胸に渦巻くモヤモヤとした何かは消えてはくれない。

紅魔館から出る。此処から永遠亭まで距離があるが、霊夢は休むことさえ忘れていた。神社から紅魔館まで飛ぶのにもそれなりの体力は必要なのに、そこからまた永遠亭まで飛ぶのだ。一旦紅魔館で紅茶でも飲みながら休んだりするのが最善策のような気もしたが、急ぐ彼女を魔理沙が止めることはしなかった。きっと魔理沙も、ただならぬ何かを感じているのだろう。

「でも霊夢、竹林はどうやって抜けるんだ?」
「妹紅か、てゐ辺りがいるわよ」
「無茶苦茶だな……」

不安を抱えつつ、二人は先ほどと同じように風を切った。



迷いの竹林の前に降り立つと、霊夢と魔理沙は同時に「あっ!」と声を上げた。竹林の入り口に、夜月の物と思わしき箒が真っ二つに折れて無造作に捨ててあったからだ。二人は息を飲む。やはり、ここで彼に何かあったのだと悟る。

すると、竹林の奥から人影が現れた。低い身長とその頭に兎耳が見えたので、それをてゐだと認識する。二人はこれで竹林を抜けられるなと安堵した。が、

「やっぱり来たのね」
「おいてゐ、夜月を知らないか?」
「え?」
「ここ最近、姿が見えないのよ」

てゐはそう聞くと、にやりと怪しげに笑う。その笑顔に、二人はぞくりと鳥肌が立った。霊夢も魔理沙も、このモヤモヤの正体が彼女である気がしてならなかったのだ。

「永遠亭では見ていないよ」
「本当か?」
「疑うならお師匠様にでも聞いてみたら? ……うーん。一体誰に、何処へ連れていかれたんだろうねえ」

てゐの目線が箒へと移る。
二人の顔が、みるみる内に青ざめていった。


犯人は? 私。



bkm
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