秘め事(アリス)
草木も眠る丑三つ時。魔理沙の言う「変な奴」とやらが生気を取り戻す時間に、アリス・マーガトロイドは「彼」から貰い受けた綺麗な布で、いつものように人形を作っていた。しかしその人形は、アリスが自分の為に作っているのではない。アリスが彼に頼まれて作っている、プレゼント用の人形だった。この人形を一体誰にあげるのだろう、と考えては、針が指に刺さりそうになって、アリスは少しイライラし始めていた。

妹である魔理沙? それとも霊夢? はたまた紅魔館のメイド……はあり得ない。
ちくり。と小さな痛みが人差し指に走った。

「ああ、もう。時間掛かりすぎよ」

彼が家にやってきて、人里で買った布が余ったからあげるよ、と言ってきたのがお昼頃。丁度布が切れていたからラッキーとは思ったものの、それで自分用の人形を作るのは悪い気がしたのだ。そう伝えると、彼は

「じゃあ、おれに人形を作ってくれないかな。プレゼントしたい奴がいるんだ」

と、そんな事を言った。それは彼に人形を作るんじゃなくて、プレゼント相手に作るようなものじゃない、とアリスが口にすることは無かった。
しかし、自分を慕ってくれている人間の頼みを、アリスが断ることはしなかった。相手を慕っているのは、彼女も同じだった。

作り始めたのがお昼頃であるのに、こんな丑三つ時まで時間が掛かってしまっているのは、やはりそのプレゼント相手が気になってしまっているのだろう。魔理沙であれば多少納得はいくだろうけれど、他の相手ならば彼とその相手の関係が気になって、益々人形作りは捗らなくなるに違いない。例え知っても知らずとも、結果は同じことであるような気がした。

彼はアリスの家に泊まっている。彼女が少し歩けば、寝ているであろう彼のところまで行ける距離にいる。それを自覚した途端、アリスの頬が緩んだ。
少し、休憩をしよう。そう思い立って、彼女は一旦立ち上がり、椅子に人形を置いた。


草木も眠る丑三つ時は、静寂に包まれる時間だ。たまに吹く風が眠っている木々を揺らし、草木がクレームをあげたりもするが、生憎風は吹かず、草木も彼も心地良さそうに眠っていた。
そんな静寂に紛れきれていない、足音。床を踏む度に、きい、と静けさを壊してゆく音に、アリスはハラハラとしていた。
彼の部屋へと続く廊下を忍び足で歩いて行き、ドアノブへ手を掛けた。ぎいい、と蝶番が悲鳴を上げる。

案の定、部屋は真っ暗であった。しかし、そこはいつも使っている部屋。家具の場所くらいはしっかり覚えている。彼を起こさないように、ゆっくりとベッドへ近づいて行くアリス。彼女が一体何をしたいのか、何のために彼の部屋に来たのかは彼女の無意識に聞いてみるといい。
彼女はそのまま、彼の寝ているベッドへ腰かけた。暗闇に慣れてきたのか、元々見えていたのか、アリスはうっとりとした顔で彼を見つめていた。
が、

「……ん、アリス……」
「……!」

急な彼の寝言に、アリスは驚く。自分の名前が聞こえた気がして、まさか幻聴まで聞こえるようになったのかと眩暈を覚えた。
しかし、呼んだのだ。彼が夢の中で、私の名前を呼んだのだ。そう思うと、途端に嬉しくなって、興奮する気持ちを必死に抑えた。

ぎしりとベッドのスプリング音が聞こえていないのか、彼女はそのまま彼へと身を寄せる。じっと見つめた後、アリスは夜月の額に唇を落とした。
そこで、はっとする。一体私は何をやっているの、と暗闇の中で羞恥心に襲われた。急いで立ち上がり、頭を抱える。バカバカバカ、と心の中で自分を責め立て、頭の中央を焦がす感覚を必死に追い払おうとする。
静かに振り返り、彼の寝息が聞こえたことを確認すると、彼女はまたゆっくりと扉を開き、蝶番の悲鳴を殺しながら廊下へと飛び出た。

その光景を、夜月が見ているとは知らずに。

秘め事



bkm
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