闇に呑まれろ(ルーミア)
※ちょっと閲覧注意

今にも星が降り出しそうな綺麗で静かな夜空を、夜月は心地よさそうに飛んでいた。彼の服装は妹である魔理沙と同じように黒がベースとなっているので、ごく普通の人間が夜空を見上げても、箒が勝手に飛んでいるように見えて気味が悪いだろう。最も、危険な妖怪が現れる夜という時間帯に、夜空を見上げたりできる人間など居やしないのだけれど。
そして、夜に現れる妖怪の中にルーミアという少女が含まれていることを、夜月は知っている。

「魔理沙が不気味な液体を合成し始めたから咄嗟に家を飛び出して来ちゃったけど……あいつに見つかるのは時間の問題だよなあ」

そう独り言を呟き、彼は長い溜め息を吐いた。実を言うとルーミアは、彼の天敵である。ルーミアは人間を食べる妖怪、夜月はただ魔法が使えるだけの人間である。彼と彼女の間には、完璧な利害関係が築かれているのだった。
しかし彼は、ルーミアのことについて気掛かりなことがあった。それは少し前のこと、今日のように夜空を気持ちよく飛んでいた時のことだ。そこで、当たり前のようにルーミアに見つかった。

『あ! 夜月発見ー』
『よう、ルーミアか』
『ね、食べていいー?』
『ダメに決まってんだろ』

そんな会話を交わした後、いつもはルーミアが彼の周りを闇で囲い、襲おうとするのだが、しかし何故か彼女は寂しそうな顔で俯いたのだ。

『逃げる?』
『は? うん、まあ。食べられそうなら逃げるさ』
『そっかー。そーなのかー』

ルーミアは一人でうんうんと頷いて、わはーと笑って見せた。夜月はそんな彼女の様子に違和感を抱く。

『なんだ、今日は様子が変だな』

って、お前はいつも様子が変か。とその時の夜月はそれで済ませたのだが、今になってまた疑問を持ち始めた。
もしかして彼女はおれを食べようとすることを諦めたのか? まあアイツ、面倒臭がり屋だし。と答えを出す。しかし納得はいかなかった。なんだろう、彼女は一体どうしたのだろう。気になって仕方無い夜月だったが、少しばかり恐怖心も芽生えてきていた。その恐怖が何に対してのモノなのかは、彼にも分かっていない。ただ不気味に思えた。
毎回会う度に襲ってきた彼女が、前回襲おうとしなかった。変な質問を投げつけて、勝手に納得して帰っていったのだ。それに安心できない自分に、夜月は心の中で苦笑した。

「……帰るか」

魔理沙の作る不気味な液体は時に物凄い悪臭を放つけれど、今日は我慢して魔法作りに協力してやろう。と、飛行高度を下げた時だった。
ばっ、と急に、目の前が闇で襲われた。予想外の出来事に彼の心臓は飛び上がる。

「る、る……ルーミア」
「見いつけた」

暗闇のなかで妙に粘着性を帯びた声で囁かれ、ぶわっと全身に鳥肌が立つ。夜月はそれをルーミアなのだと察し、逃げようとスピードを上げて前へ進み光を探すが、何も見えない闇の中、彼に立ちはだかっていた木に夜月は思いっきり激突してしまった。

「―――!」

声にならない悲鳴を上げ、ずるずると木に沿って落ちていく。
ルーミアの姿が、見えない。

「夜月」
「う……」

酷く愛おしそうに彼の名を呟くルーミア。
暗がりの中、夜月は誰かの温もりを感じた。ルーミアが彼を抱きしめたのだ。ズキズキと痛む頭で、ルーミアもおれの事が見えないはずなのに、と呑気にそんなことを考えていた。ああ、もうおれルーミアに食べられてお終いなのかな、と。

「夜月、私、夜月のこと食べるつもりは無いよ」
「……えっ」
「宵闇にも、光は必要なの」
「ど、どういう」
「私、夜月のこと好きー」

いまいち成り立たない会話を交わす。しかし、もし会話が成り立っていたとしても、今の状態の彼には理解できなかっただろう。
彼女の「好き」が一体どういう形の愛情なのか分からないまま、何となく夜月はルーミアの背中に腕を回した。

闇に呑まれろ
(貴方は、私の光だから)



bkm
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