"生きること"
それは俺にとって必要最低限しなければいけないことであり、それ以上してはいけないことだった。
欲を持たず、深く人と関わらず、静かに、一種の操り人形みたいにただ"生きて"いくだけだった。
淡々と過ぎていく日々。いずれ妖怪に、この身に流れる血に俺の人格は取って代わられてしまうから余計な未練を残さないように。そう幼い頃から育てられて来た。俺に許されたのは食べることと寝ること。それだけだった。

志摩の家は代々直系にだけ伝わる言い伝えがある。「贄が再び現れし時、百目鬼も再び現れる」と。
その言い伝えはいつになるかはわからなかった。ただわかっているのは再び百目鬼が自分の血が流れる志摩の家の子の身体を乗っ取るということだけだった。だけどその言い伝え自体も時を経るにつれて段々軽く見られるようになっていた。長い時の中で一向に姿を見せない贄と百目鬼はただの伝説となり始めていた。
だけど、とうとうその言い伝えが現実になる時が来てしまった。それが俺だった。
俺が生まれた時、額に"しるし"が浮かんでいたらしい。それは普段は志摩の者にしか見えないらしく、特に騒ぎ立てられはしなかった。だけど、両親や親戚はこの額の"しるし"を見る度に怯え、俺ごと遠ざけようとした。
確かにいつか自分より早くいなくなってしまう相手に心を傾けるのは辛い。その気持ちはわかるから特に誰を攻めようという気はなかった。
だからこそ、今、俺の目の前で俺を思って泣いてくれるこの存在が不思議でたまらなかった。
この血に流れるもう一人の俺がこの目の前の存在になにを求めているのか、知りたい。これまで流されるばかりだった俺だけど、少しだけ抗ってみたいと、初めて思った。


(2013年ラヴコレクションin Summerでの無料配布物でした!)
(孝臣について考えすぎて出来上がってしまった代物)
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