するりと指の間を髪が通り抜けていく。さらさらとして、でも少しくすぐったいこの感覚が心地いい。
玄奘様の御髪に触れるなんて恐れ多いかとも思った。それでも、俺のすぐ側で眠る玄奘様のその寝顔が愛おしくて、止まらなかった。
実は玄奘様が本当に寝ていらっしゃらないのは知っていた。寝息もまだ起きている人間のそれだったし、なによりまったく動かないというのが逆に起きているのを証明していた。
玄奘様が側にいると安らげると気付いたのはいつだっただろうか。最初はただ、ずっと待ち続けた崇高なる三蔵法師というだけだった。なのに今では敬愛の気持ち自体は変わらないとは言え、出会った頃には考えられなかった想いが俺の中には宿っていた。
最初はただ守らなければいけない、とだけ思っていた。だが玄奘様の人柄を知る度に少しずつ、守らなければいけないという思いに付随されて守られている、とも感じた。俺たち従者が玄奘様をお守りするのと同様に、玄奘様も俺たちの心を玄奘様自身も知らないうちに守ってくださった。
玄奘様が俺たちを頼ってくださる事がなにより嬉しかったし、それに応えるのも従者として誇らしいと思っていた。
そういったいくつもの思いが積み重ねられて、今この想いを抱いている。
玄奘様の笑顔を絶えさせない為にも、玄奘様をお守りする為にも、最大限の努力をしようと改めて自分に誓う。
「おやすみなさい、玄奘様。よい夢を」
俺が玄奘様の側にいて安らげるように、玄奘様も俺の側で安らげるように、願いを込めながらそう呟いた。


(2013年ラヴコレクションin Summerでの無料配布のものでした!)
(個人ルート分岐直前で、村に行って雨で一夜しのいだときのスチルの悟浄視点だとイイナです)
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