ぐるぐるとどす黒い感情が胸の中で渦巻く。
このどす黒い感情は一向に昇華されることなく、むしろ留まることを知らずに昨日も、一昨日も、それ以前からずっと、ずっと胸の中で渦巻いている。

どうしてなのかはわかっている。
でも、わかっていても俺だけでどうにかできることじゃない。
それにどうにかしようと思っていない。

「次屋先輩?」
「しろ。話はもう終わった?」
「はい。お時間とらせてしまってすいません」
「いいって。気にすんな」

しろに声をかけられて、先ほどまで抱えていた感情を一旦心の底に沈める。
ぽんぽん、と軽く頭を叩くように撫でればへにゃり、と目尻を嬉しそうに下げてしろが笑った。
(ああ、可愛い)
ここ数年でしろはよく笑うようになった。

例えば朝食の時。おはようございます、といいながらちょっと眠たそうに微笑む。
例えば廊下ですれ違う時。また会いましたね、と嬉しそうにいいながら微笑む。
例えば委員会が始まる前。今日も頑張りましょうね、と若干口元をひきつらせながら微笑む。
例えばしろを抱き締めてる時。あったかいのが幸せです、と本当に幸せそうな顔をしながら微笑む。
例えば寝る前。よく寝れるようにお互いがお互いの瞼に口付けたあとに、いい夢が見れますように、と頬を赤く染めつつ微笑む。

毎日しろが本当に可愛くて、一番しろを独占しているのは俺なのだと実感していた。
いや、正確には今でもしている。
前よりもしろがよく笑うようになったのと比例して、しろの周りに人が増えた。
別にしろの交友関係に口を出したいわけじゃないし、しろをどこかに閉じ込めたいわけじゃない。

ただ、不快なのだ。
しろにはしろの幸せがある。
だから俺の知らない誰かにしろのその笑顔を見せるのは全然構わないと、当たり前なのだとわかっている。

わかっているはずなのに、さっきみたいにしろが他の誰かと話しているのを見ると抑えようもない感情が渦巻いてくる。
しろが誰と話すのかなんて、しろの自由だ。
だから、これは俺にどうにかできることじゃない。
それでも、


「しろ」
「はい?」
「好き」
「えへへ、僕も次屋先輩の事大好きですよ」
「そっか」
「はい!」

それでも、この笑顔が俺の隣にある限り、俺の中のこの狂気にも似た感情が爆発することはきっと、ない。


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