床に広がる次屋先輩の髪の毛を見つめる。
もふもふしている髪質は三年前の体育委員長を彷彿とさせた。

(七松先輩と滝夜叉丸先輩、元気かなぁ……)

ついそんなことを考えてしまう。
他の人からしたらとんでもない委員長だっただろうけど、それでも僕たち体育委員にとっては特別な存在だったのだ。
人を好き勝手振り回しているかと思えばふとした時に振り返ってくれた七松先輩。
そんな七松先輩に振り回されつつまだ幼かった僕と金吾を常に気にかけて、なおかつ次屋先輩を見付けるのが上手だった滝夜叉丸先輩。
誰がなんと言おうとも、二人とも大切で、敬愛する先輩だ。

(懐かしいな……ああ、でも。今じゃ誰よりも早く僕が次屋先輩の事を見つけられる)

驕りでも自慢でもなくて、ただの事実だ。

二年生まではただ単純に滝夜叉丸先輩が羨ましかった。
三年生ではただ羨ましいだけじゃいけないんだと痛感した。
四年生では滝夜叉丸先輩や富松先輩に頼らなくてよくなった。
そして、今。迷子の保護者の富松先輩も用具委員長になって多忙の身だからか必然的に次屋先輩を探し出すのは僕の役目になっている。

富松先輩や神埼先輩ほどじゃないけれどそれなりに次屋先輩と同じ時間を過ごした僕はある程度次屋先輩の行動が読めるようになっていた。
だからその法則にしたがって次屋先輩を探していけば早いのだけれど、いくら教えても他の人にとってはそれがわからないらしい。
それが不安であるけれど、嬉しいのもまた事実だ。

「ん……、しろ……?」

今までぐっすりと眠っていた次屋先輩が軽く身じろぎしたかと思うと僕の身体が作る影に気付いたのか薄く目を開けた。

「あ、起きましたか?次屋先輩。おはようございます」
「俺、どのくらい寝てた?」
「僕が来てから半刻くらいは」
「ん、そっか」

くぁ、とまだ寝足りないとでも言いたげな欠伸をする次屋先輩の手を引っ張って起こそうとすると逆に寝起きとは思えないような力で手を引っ張られた。

「う、わっ、」

いきなりのことで驚いて身体の均衡を崩してしまった僕は受け身もなにもとらずに次屋先輩の身体の上に倒れ込んだ。

「しろ捕獲」

そう耳元で囁かれると同時に次屋先輩の腕が僕の首に回った。
その囁かれた低い声にくらくらしつつも、ここで抗えなかったらどんな風になるのかなんて大体予測がつく。
だから必死で抵抗しようとするけど、耳にかかる吐息や、布越しに伝わってくる次屋先輩の体温で、思考が溶かされて、次第に抵抗なんて出来なくなっていっていた。

「次屋先輩は、ずるいです」

恥ずかしくて、顔が熱くて、そんな顔を見られたくなくて、次屋先輩の腕が僕の首に回っているのをいいことに逆に僕から次屋先輩の肩口に顔を埋めた。

「うん。知ってる。知ってるからしろ、顔見せて?」
「……嫌です」
「見せて」
「嫌です」
「見せてくれないと今夜覚悟してもらうことになるけど?」

まあ俺はそれでもいいけど、なんて付け加える声がさっきよりも確実に艶を増していて、これ以上逆らったら本当に明日が大変な事になると本能で悟っておずおずと顔を上げると、それで気をよくしたのか次屋先輩は破顔一笑した。

「しろはやっぱり可愛いな」

そう言いながら見せる笑顔が本当に次屋先輩らしくて、まださっきの恥ずかしさの方が勝ったけど、それでも僕も次屋先輩と同じように顔が綻んだ。

「次屋先輩はかっこいいですよ」
「うん、知ってる。しろの前ではかっこよくいたいし」
「別にそんなこと気にしなくても僕は次屋先輩の事好きですよ」
「俺も。しろがどんなんだろうとしろの事愛してる」
「はいはい」

どんなに恥ずかしいことを言われても、言葉を重ねるごとに一つ、また一つ、愛しさが募っていく。

「次屋先輩」
「ん?」
「僕、幸せです」
「俺も。幸せ」


どうかこの優しい時間がずっと、続きますように。


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