蒸し暑くて寝苦しい夜だった。
本当に寝てられないほど蒸し暑くて作兵衛に後で行儀が悪い、と怒られるかもしれないと思いつつ俺はのそのそと部屋の外に出て、縁側に寝転んだ。
縁側のひんやりした感触と少しだけど吹いてくる風が心地よかった。
これで今度こそ眠れそうだと再び訪れた眠気に従って瞼を閉じようとすると、とたとたと軽快な聞き覚えのある足音が聞こえてきた。

「……四郎兵衛?」
「っ、つぎ、やせんぱ、いっ!」

首を軽くもたげて、足音から予想した名前を呼ぶとその声が聞こえたのかその足音の主は俺の名前を呼びながら俺が寝ている場所に思いっきり飛び込んできた。

「うっ……四郎兵衛? どうした?」

いっそ清々しいほど綺麗に俺の鳩尾に四郎兵衛の頭が入った。
苦しいのを我慢して、何とか四郎兵衛にそう問いかけると、ぐりぐりと追い打ちをかけるように俺の鳩尾に頭をこすり付けていた四郎兵衛は俺の方に顔を向けた。

「悪夢を、見たんです……」

そう言って悪夢の内容を思い出したのか元々涙目だった四郎兵衛の目に再び涙がじわりと浮き出してきた。

「……そっか。怖かった?」
「はい。……すごく、すごく怖かったです」

「そっか。大丈夫。もう大丈夫だからな、四郎兵衛。俺が四郎兵衛の側にいるからもう悪夢なんて見ないからな。四郎兵衛がいいならここで一緒に寝るけど、どうする?」
「お願いしても、いいですか?」

恥ずかしいのか顔を赤くしながらまだ若干涙の名残がある目で上目遣いでそう言う四郎兵衛が可愛くて、愛しくて、思わず目尻に残る涙の後をぺろりと一舐めしていた。

「次屋先輩!?」
「あ、ごめん。四郎兵衛が可愛くて、つい」
「ついってなんですか! つい、って!」
「ごめんって。ほら、寝るんだろ? 腕枕するからそれで許して」
「うーっ。もうっ!」

さっきよりも顔を真っ赤にしながら、それでも俺の腕に頭を乗せる四郎兵衛。
ああ、本当にどうしてこうも可愛いんだろう。

「おやすみ、四郎兵衛。今度こそよい夢を」
「おやすみなさい、次屋先輩。次屋先輩もよい夢を見れますように」

微睡むように四郎兵衛が眠ったのを確認してから、優しくくるむように四郎兵衛を更に抱きしめてつつ、俺も今度こそ寝るためにそっと瞼を閉じた。



(2012年8月26日十忍十色尾張の段其の四での無料配布物)
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