腕にした時計をチラチラ見ながら小走りで、でも転ばないようにしながら約束の場所に向かう。
いつもより早めに起きたのに、家を出たのは約束した時間の五分前だった。
ようやく待ち合わせ場所が見えて、軽く視線を左右に向けると、すぐに終夜を見つけることができ、小走りのまま終夜の目の前まで行ってからようやく足を止めた。

「お、遅れて、ごめんなさい」

息切れをしながらなんとか謝罪の言葉だけ呟くと、終夜は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「おお、撫子。そなたが遅刻など珍しいから心配しておったぞ」
「ごめんなさい、終夜」
「そなたが無事ならそれでよい。それにどっちかというと私の方が遅刻をする事が多い。だから気にするでない」
「でも、それは仕事をしているからでしょ」
「遅刻は遅刻であろう」
「それに、今日は……」

言い淀んでいたら、いきなり終夜な顔が目の前に迫ってきて、そのまま、終夜の唇で私の唇を塞がれた。
ほんの数秒、だけど今は幸いにも誰もいないけれど、今この瞬間にも誰かが現れてもおかしくないようなところでいきなりキスをされて、私の顔は熟れた林檎のように真っ赤になった。

「どうしたのだ?撫子。何を真っ赤なっている。もしや風邪か?」

だから、顔を離したあとに私の顔をみて心配そうに問いかけてきた終夜に私は脱力したいような怒りたいような気分になって、結局脱力することを選んだ。

「やっぱり終夜には敵わないわ」
「む?なんのことだ?」

つい私が多少の笑いを含ませながら溢した言葉を聞いて、首をかしげて不思議そうにする終夜に「なんでもないわ」と首を降りながら答える。
それに対して「そうか。ならよいのだ」とほっとしたように微笑む終夜が愛しく思えて、昨日、会ったら真っ先に言おうとした言葉をありったけの思いを込めて告げる。

「誕生日、おめでとう。終夜。あなたと一緒に時を重ねれるのが本当に幸せで、日々がすごく愛しいわ。これからもずっと、愛してる」

私の言葉を聞いた終夜は一瞬、虚をつかれたような顔をしたが、すぐに顔を綻ばせて優しく私の腰をさらい、抱き寄せた。
だからここは公共の場よ、と言おうとしたら耳元で囁かれた言葉に思わず口を噤んだ。

「私もそなたと共にあれる日々がとても愛しいし、そなた自身も愛しい。だから、ずっと私の側にいてくれ」

そう囁く声が少しだけ震えているのに気付くと少しだけ呆れた。
私が、あなたから離れるわけがないのに。
そんな思いを込めて、たった一言だけ告げる。

「もちろんよ、終夜」

あなた以外の人なんて、考えられないのだから。


【終夜 Happy Birthday!!】

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