not逆ハー | ナノ


▼ フラグがやってきた



 母から聞いた情報によれば、なんと今日は転校初日とのこと。しかも中学だそうだ。(一応三年らしい)
 いやまて、どういうことだ、と頭がまったく追いつかなかったが、とりあえずそういうことらしい。転校先の学校の名前を聞いたとき、なんの間違いだろうかと思ったが至極まじめな顔で母が言うものだから受け入れるしかなかった。
 立海大付属中学校、だとか。 知っているぞ明らかに顔と体型と技が中学生の域を超えたテニス部員がいる学校だろ、あの漫画に出てくる学校だろ、実際にはねえだろ、と心の中で叫び続けたが、地図を頼って歩いていざ学校についてしまうと、すっかり思考の波が落ち着いた。校門には、今朝母から伝えられた通りの学校名がはっきりと綴られていて、どーんと効果音をつけても差し障りないほどの大きな校舎が迎えてくれた。
「なにこれ、うっわ…つか、やられたわ」
 そして気づいた。階段からの落下の途中に思わず漏れた自分の夢、ハーレムがこの学校では達成が難しいのでは、と。なんといっても、イケメン(仮)集団がいるのだ。彼らは少なくとも半分ほどの女子の目を奪い、ついでにどこかの怪盗のように心までも盗んでいってしまうだろう。これではハーレムもなかなか成り立たない。

「はい絶望ーないわ、ないわこれ。なにここであと一年とか絶望しかないわ。無理無理」
「どうかなさいましたか?」
 背後から声がかかる。とても落ち着いた気品あふれるソプラノ。振り返ると、丸い眼鏡をかけた女性が立っていた。女性、と表現したが、よく見てみると自分と同じデザインの服を身にまとっている。つまり、中学生なわけだが、制服を無視すればどこの淑女だといいたくなるような容姿だった。長い栗の髪は後ろに団子のようにしてまとめられていて、前髪もきっちりと七三分けだ。
 思わずじろじろと観察してしまっているとあの、とまたも困惑したように声をかけられた。
「あ、いやーあの、今日から転入することになったんだけどさ、学校でかくてびっくりしちゃってた」
「そうですね、一応中学と高校とそれぞれ校舎がありますし、この辺ではかなり大きい方ですね」
「へえ高校の校舎もあるんだ」
「ええ。転校してきたばかりでよくわからないでしょうし、いろいろとご案内しましょうか?」
 ちらりと腕時計に目をやって、時間もまだありますしね、と彼女は小さく首を傾げて笑った。とても綺麗で少し見とれてしまった。余談だが腕時計もひかえめでありながらもとてもかわいらしいデザインであった。
 自分もつけている腕時計で時間を確認する。始業の鐘が鳴るのが八時三十分だというのに、まだ七時三十分だ。なんとまあ早く着いたことだろうか、とため息を吐きたくなるのをぐっとこらえた。道に迷って遅刻したら大変だから、と母に家を早くに追い出されたが迷わずにものの十分で着いたのだ。というか、家を出てからほぼ一直線に歩いて着いてしまったのだからなにをどうしたら迷うと思われたのか謎である。おかげでこれだけ時間が余ってしまった。
 しかし、なににしてもそのありあまった時間を彼女が付き合ってくれるというのだから、ありがたくお言葉に甘えるのが良いのではないだろうか。
「じゃあ迷惑じゃなければお願いしようかな」
「ええ、わかりました。ああ、そうでした、最初にテニスコートに寄ってもよろしいですか?」
「テニスコート?」
 はい、と頷いて彼女は肩にかかったバッグを背負いなおした。そのときはじめて彼女がその細い体に似合わず大きなテニスバッグを背負っていることに気づいた。と、同時に思いついた。
「もしかして朝練とかあったの?それならそっち出て良いよ!私なんかのために休んじゃだめだよ」
「いえ大丈夫ですよ。今日の朝練は自主練なので出なくても問題ないんです。ただ一応ダブルスの相方と約束していたので、出れなくなったことをお伝えしに行くだけですから」
「んー、本当に大丈夫?」
「ええ」
 歩き出した彼女に着いて行く。なんだか申し訳ない気がしてくるのだが、本人も良いと言ってるし良いのか、となんとか割り切る。綺麗にまとめられた栗毛の眺めながら自己紹介をしていなかったことに気づいた。少しでもお世話になるのだから名乗っておくべきでは、と思ったらもう横に並んで声をかけていた。
「そういえばさ、名前言ってなかったね。私は、浪川悟、三年だよ。よろしく」
「柳生比呂子です。同じく三年ですので、これからよろしくお願いしますね浪川さん」

 おや、とつい首を傾げてしまった。なんだか聞いたことのありそうな名前だった。
「や、柳生さん?」
「はい?」
「あの、そのさ、柳生さんにそっくりな名前の男子とかいる?同じ苗字でさ」
「いえ、少なくとも三年で柳生は私だけですよ」
「そっか!あははそうだよね、変なこと聞いてごめんね!あははははは」

 柳生比呂士じゃなかった。立海に来て柳生比呂士は居なくて比呂子という女子は居る、と。しかもその人はテニス部だと。しかもダブルスだと。でも女子なんだと。柳生比呂士じゃないんだと。

「まさか、ねえ」


 なんとなくハーレムの兆しが見えてきた気がした。
 




(13.8.22/ユエ)

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