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お前の心臓くれるんだろうな


※木矢田と尾戸が学校を卒業する話
※付き合ってる前提。ほもです




「あー、いたいた」
「…なにしてんのこんなとこで」
「それはこっちの台詞ですーきやこそなにしてんの」
「んー。最後だし教室見納め?」
「夕焼けを背にひとり教室に残るとは、なかなかおセンチですな木矢田さん」
「今日くらいおセンチでいいんですよ尾戸さん…いやな、今日でもう卒業だなんてなんか不思議だなって」
「まあ確かにねーこうやって普通に教室にいると卒業したって気しないよね」
「あぁ。いまいち実感わかない」
「だよね」
「うん」
「……」
「……」
「あー、なんかさ!誰もいない教室に二人だけ残ってる状況ってアレじゃない?」
「どれだよ」
「もう、そんなこと聞くなんてきやったら野暮なんだからっ」
「きめぇ」
「え、ヒドイ」
「で、結局なに」
「告白だよ、告白!」
「……」
「ほらそこ、はあ?みたいな顔しないの」
「してないしてない」
「卒業しちゃって進路もバラバラになるし、告白する子も少なくないでしょ」
「まあなー」
「なんだかんだ言っても最後だからねー、今とか最高のシチュエーション」
「このセンチメンタル教室が?」
「あはは、そうそう」
「ふーん?」
「あ、そうだ。俺あれやりたい、あれ。『先輩の第二ボタン下さい!』ってやつ」
「ベタベタだな」
「いいじゃんベタで」
「てか俺お前の先輩じゃねーけど」
「いいの!」
「しかもうちブレザーだし」
「それもいいの!そこんとこは気持ちの問題でっ」
「お前けっこう適当だな」
「雰囲気が出せればいいってことで!…というわけできや、ちょっとそこ立って」
「面倒くせー」
「まあまあそう言わず」
「……はぁ。ほら、これでいいか?」
「ん、ありがと」
「へーへー。お早めにどーぞ」
「えーとではでは。……ゴホンッ」
『木矢田先輩、ずっと好きでした!俺に先輩の第二ボタン下さい!』
「………」
「………」
「………」
「…ねえ、なんか言ってくれないと恥ずかしいんだけど」
「いや、えーと、うん。出来ることならお前じゃなくて可愛い後輩の女の子に告白して欲しかったなーって」
「え、なにその浮気宣言」
「何言ってるんダ、愛してるのはお前だけダヨー」
「すごい棒読みなんだけど」
「いちいちめんどくさいやつだな。…と、ほらよ」
「わっ!ちょ、何…!」
「俺の貴重なボタンなんだから、落とすなよ」
「ボタン?」
「そ。言っただろ『ボタン下さい』って」
「てか何、ほんとにくれんの?」
「しょうがねえだろ、心配性の誰かさんの頼みなんだから。やらないわけにはいかねー」
「俺そんなに心配性かなー」
「どうだかなー」
「………」
「………」
「…ねぇきや」
「なに」
「もしかして、さっき俺がここにいたこと、知ってたの?」
「あぁ、まーな。てかお前の顔見りゃ、聞いてたんだろーなー、ってことくらいわかる」
「…俺、そんなに変な顔してた…?」
「ああ、してたね。すっげー変な顔してた」
「すっげー変な顔って…」
「人の告白現場覗くたぁ、お前も大概野暮なやつだぞ」
「………」


***


『あの、私…前から木矢田君のこと好きでした』



「………」
「呼び出されたんだよ」
「やっぱ、誰もいない教室なんて絶好の告白シチュエーションじゃん…」
「きちんと断った」
「…知ってるよ」
「だったら尚さらお前が気にすることじゃないだろ」
「気にするよ」
「あのなぁ」
「卒業してこれから進路もバラバラだし、もしかしたら、きやが誰かに取られるんじゃないかって…そんなことばっかり考える」
「誰も取りゃしねーよ、俺なんか」
「でも現に告白されてたじゃん!」
「……」
「俺はあの子みたいに小さくも可愛くもない。きやと同じ男だよ」
「……」
「相手が女の子だったら俺に勝ち目なんてないじゃん。不安なんだよ、俺はきやと結婚も出来ないし子供だって出来ない。それに、」
「……せぇ」
「え?」
「さっきからごちゃごちゃうるせぇって言ってんだよっ!」
「!?痛っ…!ちょ、何、え…!?なんでいきなり殴る…!?」
「おい尾戸」
「!?」
「そこに直れ」
「はいいっ」
「お前さ、さっきの告白が何で学ランの第二ボタン貰うか知ってるか」
「…へ?」
「だから第二ボタンだよ!」
「い、いや、知らない、です」
「あれな、第二ボタンが丁度心臓の位置にあんだよ。だからあなたの『ハート』を下さいって意味で第二ボタンなんだよ」
「そう、なんだ…?」
「あぁ」
「あ、だからブレザーは…」
「そうだよ。ブレザーだとボタンの位置がだいぶ下になるだろ。だからあれをブレザーでやると位置的に小腸とか大腸くれって言ってることになるわけ」
「小腸に大腸…」
「さっきお前にボタンやったよな」
「え、あ、うん」
「馬鹿みたいな例えだけどな。俺は、お前になら小腸だろうが大腸だろうがやったって惜しくねえし、なんなら五臓六腑だってくれてやっても構わない」
「……」
「わかるか?本当はお前にはボタンなんて必要ねえ。もとより俺はお前のもんだろうが。今さら告白やら進路やらそんなもんがどうとかこうとか、そんな次元の話じゃねーんだよ」
「そ、う、ですか…」
「そうだよ。18年も一緒にいてそんなこともわかんねーのか」
「……っ」
「だいたいな。お前自分ばっかり一方的に好き、みたいな言い方しやがって…想ってる長さだったら俺のがずっーと上だっての」
「……なにその負けず嫌い…」
「ほっとけ。…そもそもお前のせいなんだからな。50年後、同窓会で『実は昔お前のこと好きだったんだよ』って笑い話にする計画が台なしになったのは」
「50年後って」
「言うけどな、俺は本気だったんだぞ?わかる?男同士だとか結婚出来ねとか、子供作れねとか鼻っからわかってんだよ。それでもこうして俺とお前は一緒にいんだろ。覚悟ねーとこんなことできねーよ。俺は相当腹くくったんだ、別れるつもりは毛頭ねーよ。お前はそんなあーだこーだ悩む前にこんな俺なんかに捕まった自分の心配するんだな」
「…いいよ、それで。きやに捕まるなら本望だ」
「そーかい」
「……ああ、もう!」
「なんだよ」
「俺の恋人は男前だなーって思って!」
「…今さら気づいたのか遅えな」
「ふふ、きや、顔まっ赤だよ」
「…夕日のせいだバカヤロー」



***


(それにしたってボタンの意味は遠回しすぎてわかんないと思う)(うるせーよ)


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