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君が好きだった話


びど←きや

***

「きやには一番に知らせたくてさ!」

 尾戸がそう言って笑う隣には、嬉しそうにはにかむ小さな女の子。尾戸の「彼女」だ。
 部活のマネージャーの一年生で尾戸が現役のころから親しくしていた子だった。彼女がわざわざ三年の教室までやってきて尾戸と二人で仲良さそうに話をしていた姿は頻繁に見かけた。彼女が尾戸のことを好きなのは明白で。顔を赤らめながら一生懸命話す姿はとても可愛いかった。そんな彼女が尾戸に告白して晴れて付き合うことになったのは、つい昨日のこと。

 俺を前にして少し緊張した面持ちの彼女。それを見る尾戸の視線は、今までに見たことないくらい幸せそうで優しい。

「お前がこんな可愛い子捕まえるとか…まじ萎えるな」
「それ俺に対して酷くない…?」

 そう茶化すように言えば尾戸は落ち込んだと言わんばかりに大袈裟に肩を落として見せる。そんな俺達のやり取りに彼女はくすくすと笑った。どこから見てもお似合いのカップルだ。

 なんとなく、いつかこうなることはわかっていた。そもそも今まで尾戸が誰とも付き合ってこなかったのが不思議なくらいだ。明るくて面倒見の良い尾戸はよくモテた。

「ほら、きやは俺の親友だし?紹介しとこーかなーって」
「彼女いない俺への当てつけか。どんな嫌みだよ」

 そう溜め息をつくと尾戸は「そんなことないって!」なんて言いながら楽しそうに笑った。
 こいつの一番の友達で親友で幼なじみ、それが俺の場所だ。どんなに望んだってそれ以上には決してなれない。今までも。きっとこれからも。

「…よかったな、おめでと尾戸」

 今はただ、祝福を贈るこの声が震えていなければそれでいい。



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