「やっと思い出した!どっかで聞いたことある名前と顔だと思ってた朝の口悪女じゃねぇか!」


私が吐いた嘘の話を皆が信じ、どんよりした空気を変えようと他の雑談をしつつ食べ終わったお弁当を片付けていると、一つ年下の切原くんが急に大声を出す。
大人しいからピンと来なかったけどあんた朝俺とぶつかった奴だよな?と少し睨みながらちえを指さす。
あぁ、私も知らないはずの彼を見て何故か知っているような気がしたが、今朝廊下で起きた事件の犯人はこの切原くんだったのか。
まさか一緒にご飯を食べている相手がそうとは思っていなかったちえも、今朝のことを思い出したのか急に顔を真っ赤にさせぷるぷると震えだす。


「ん?田中さんと赤也はなんかあったのか?」

「朝遅刻しそうでやばかったんで走ってたらぶつかったのがこの人だったんすよ!
もう痛いわこの人に怒鳴られるわ、HRに間に合わなくて先生に怒られるわ散々だったんすよー!」

「…赤也…?」

「貴様は何をしとるのか!廊下を走った所か、人に迷惑をかけるなんぞ…たるんどる!」

「やべっ…違うんすよー!不可抗力っすー!」

「何がだ!お前が遅刻しそうなほどちんたらとしたからそんなことが起きたんだろうが!
もっとシャキっとせんか!」

「だってこの人も周りをちゃんと見て行動したらぶつからなかったんすよ!
俺だけが悪い訳じゃないっす!この人が鈍くさかったから!」

「…黙って聞いてれば、あんた本当に何なのよっ…!まこさんに怒られて解決したことをまたぶり返す訳!?
しかも何で私に責任転嫁するのよ!」

そうまるで噴火した火山のように怒りだしたちえを見て、しまったという顔する切原くん。きっと朝ちえに怒鳴られたこととまこに説教されたことを鮮明に思い出したのだろう。
そしてそんなちえを見てあまりのギャップに吃驚しているのか目を見開いて固まっている他の人達。
さっきまで切原くんに怒鳴っていた真田くんでさえ思わず口をぽかんとさせている。なんだこれ、面白すぎる。


「ちょ、ちょっとちえちゃん…」

「まこさんは黙って!まこさんだってこいつに腹立たないの!?
説教したのにこいつ全然反省してないんだよ!
しかも私の方が年上なのに口悪女とか言ってるし!この生意気男!!」

「ぶっ…!」


堪えようと思っていたがちえの生意気男という言葉に思わず吹き出してしまう。
そんな私にキッと睨みつけるちえに、切原くんと同じようにしまったと顔が引きつる。
また朝のときのようになってしまったら機嫌を直すのが大変だ。
どうちえの機嫌を直すべきかと考えていたら突然丸井くんが大きな声で笑い出した。


「あはははっ!!!!お前ら面白すぎだろぃ!何だその夫婦漫才!」

「「夫婦じゃない(っす)!」」

「ははははっ!やべー!声まで揃った!超面白い!」

「おい、それぐらいにしとけブン太っ!」

「はぁー…めっちゃ笑ったわ…。ちえちゃん凄い大人しそうだと思ってたけど面白いな!」

「それ馬鹿にしてるでしょ!」

「いやいや、褒め言葉だって!そんな風に自然な雰囲気出してる方が俺は好きだぜ?」


笑い涙が出たのであろう丸井くんは目尻にたまった涙を拭いながらそう言うと、ちえは怒りで真っ赤にしていた顔を今度は照れてしまったのか恥ずかしそうな表情をしながら真っ赤にする。
一瞬でちえの機嫌を直した彼に心の中で感嘆する。


「田中さんは人見知りらしいので、今のように徐々に素を出せていくといいですね。
…まぁ…切原くんが失礼な態度を取ったので本来の田中さんを引き出せているのかは少し分かりかねますが。」

「普段はちえちゃんもこんな風な態度は取らないんだよ。
ちょっと朝の事件が事件なだけに口うるさく聞こえたかもしれないけど…普段はすごく温厚だからね。」

「まこさんなんか言い方酷い…!…
けど、取り乱して、ごめんなさい。雰囲気悪くした…よね、ごめんなさい。」

「元々は赤也が悪いからのう。気にせんでよか。」

「寧ろあそこまで赤也に言い返す女の子いないし面白かったから大丈夫!」

「田中さん、俺の後輩が失礼な態度取ってごめんね。…ほら、赤也も謝って。」

「…ごめん…なさい。」

「こっちも、ごめん。」


そう二人がお互いに謝ると、幸村くんはいい子だねと二人を褒める。
なんだか朝のまこに見えてきっと幸村くんは飴と鞭を上手に使い分けられる人間なんだと認識した。
そしてきっと彼が女性だったらまこみたいないいお母さんになるんだろうなと想像してしまい、また少し面白くなって笑ってしまった。
それを感じ取ったのか、まこがまた失礼なこと考えてるでしょと私に少し強い口調で話してきて、あぁもう、まだあんな短い期間を一緒に過ごしてきただけの私のことを理解しだしてきたのかと少しだけ嬉しくなってしまった。

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