兄のエドワード・エルリックは弟のアルフォンス・エルリックを偏愛していた。愛は愛でも兄とか家族だからというのを超越し、もはや一種の狂気といっても過言ではなかった。弟が鎧だろうが何だろうが、愛しくて愛しくてそれはもう食べてしまいたいぐらいであった。

 その弟は今日も己と自分の体を取り戻す手掛りがあるのではと、大きい体を小さくして一生懸命読書に励んでいた。そんな弟を尻目に起きたばかりの兄は別の(といっても弟のことなのだが)を考えていた。しかし何も食べていないせいか、空腹が思考を邪魔する。何か食べ物はないかと視線を彷徨わせていたら、弟の背中が目に入った。
 そして兄は何を思ったのか「食べてしまいたい」と思ったことは何度もあるが、実際に食べてみたことはないなと寝起きだからなのか、それとも空腹のせいかそんなことを考えた。ならば丁度いいから今食べてみようと突拍子も無いことにまで思い至った。
 愛しい弟のことだからきっと旨いに違いないと妙な自信さえあった。アルフォンスの性格から考えて砂糖菓子のように甘い筈だろう、と。

 しかし食べるのはいいが堂々と食べようとする訳にもいかないので、味見も兼ねて後ろからこっそり近づき一舐めしてみた。舐めてみて兄は予想とは違う味に顔をしかめた。もちろん本当に甘いとは思ってはいなかったが、アルフォンスならいい意味で期待を裏切ってくれるのではと思っていたのだ。
 分かっていてもやり切れない兄に対し弟は読書中に頬を舐められことに吃驚していた。「急に何をするのさ!」と。寝ていたのを知っているので「寝ぼけてるの」と聞いてきた。流石に兄も「お前を食べてみようと味見をした」とは言えないので「どうやら寝ぼけていたうえに腹が減っていた」のだと嘘をついた。
 兄の気持ちを知らない弟は、その嘘に「しょうがないな」とため息を吐いた。本を置いて席を立つと「ご飯を取りに行って来るから、その間に顔を洗って目を覚ましてよね」と言って(指を指して「ちゃんと洗ったら顔拭いてよ」と念入れしてから)弟は部屋を出て行った。

 兄は弟が居なくなってしまってはこれ以上どうしようもないので、頭を二、三度掻いて仕方なく顔を洗うおうと洗面所へと向かった。
 その間兄は『味は甘くなくとも、やはりアルならどんな味でも食べれる気がする』と常人では理解し難いことを考えていた。

「もし食べる時は何一つ残さず綺麗に食べてやるからな」

 そう呟いてエドワードは目を覚ますべく顔に水を掛けた。








62.舐める




100316

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鎧を舐める兄さんを書きたかった^q^








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