真夏のクールサービス



恐らく大半の高校では、体育の授業は2〜3クラス合同で行うものだろう。
それはここ、西浦高校も例外ではない。


「よっ!1組!」

「よーす。今日テニスだって?」

「らしいよー。巣山達ペア?」

「おー。お前らもだろ?」

「もちー」


どうやら本日の体育種目はテニス。
ダブルスの試合を行う為、1組と3組の4人は野球部同士でペアを組んだらしい。


「テニスいいよね。両手で振ればバッティングの練習にもなるし」

「ははっ!すっかり野球中毒だな西広」

「おかげ様で」

「やーいい事だよ。抜かれないよーにしなきゃなー」

「おーいお前ら!授業始めんぞー!」


それまで他愛のない野球談義で盛り上がっていた4人も、体育教師に呼ばれクラスごとに整列し集合する。


「えーそれじゃ、今日のテニスはダブルスで試合を行う。名前呼ばれた奴から準備しろー。まず1組、栄口、巣山!」

「おぉっ、イキナリ」

「がんばれーっ」


小声で沖がエールを送る。
栄口と巣山はさっさとラケットを取りに行った。


「次!3組!沖!西広!」

「んんっ?」

「えっ、マジで?」


何の因果か、1組野球部の対戦相手は3組野球部となった。
奇しくも野球部同士の対決である。
そうして4面あるテニスコートで、始めに選出された8組のペアが初戦を行う事となった。


「テニス部は審判なー。それじゃ始めろー」


教師の合図で、それぞれのペアはコートに向かう。


「まるで計ったかのような組み合わせだね」

「な。まさかあいつらとは」

「どっちにしても」

「「負けねーけど」」


1組はやる気十分だ。
イタズラに笑い、コートに立つ。


「よゆーだなー向こう」

「めっちゃ笑ってる」

「よし、決めた」

「「絶対勝ってやる」」


こちらも気合い十分。
何に対しても負けん気の強い野球部員達の、白熱のテニス勝負が始まった。


「サーブは沖ねー。いくよー、始め!」


ピッ、と笛が鳴り、沖のサーブが1組コートに入る。
それを後衛である巣山が華麗に打ち返し、3組コートに返って来たボールを前衛の西広がボレーを決める。
しかし、栄口が再びそれを拾い、ラリーは続けられた。

そんなこんなで、テニス部員より上手いんじゃないかという野球部員達の試合は大いに盛り上がり、1セットのみの試合は終盤に差し掛かった。


「てぃっ!!」

「沖!」

「あいよ!」


栄口のレシーブは後衛の沖によって再び返され、巣山がまた拾う。
いちいち長いラリーが続く為、4人共既に体力は限界だ。
しかし勝負の最後はあっさりと決まった。


「とぉーりゃ!!」

「げっ!!」


左右に揺さぶられた巣山は西広のスマッシュを拾い切れず、ボールはワンバウンドの後コートの外へと転がって行った。


「ゲームセットー!沖、西広組の勝ちー!」


審判の笛が鳴り響いた。
結果は3組の勝利である。


「ぷはー!負けたー!」

「はっ、はー疲れた…!」

「西広性格ワリーよー」

「あはは、ごめんごめん」


試合を終えた4人は次のチームにコートを譲り、誰が言い出した訳でもないが水道に向かった。


「汗やば」

「あーフロ入りてー」

「やる?ホースあるぞ」

「やめーっ」


イタズラっぽくホースを手に取り、先端をこちらに向ける巣山を沖が止める。
水浴びしたいのはやまやまだが、ジャージごとびしょ濡れになる訳にはいかない。


「あ、でも頭洗いたいかも。やっぱ水出してー」


そう言って沖はホースを受け取り、巣山に水を出してもらうよう頼んだ。
あいよーと巣山は蛇口に手を掛けるが、同時に何かを思い付いたようで、うしし、と笑った。


「出したぞー」


何食わぬ顔で蛇口を捻り、沖を見遣る巣山。
ホースを頭に構え、水が出るのを待つ沖だったが、いつまで経っても水が出て来ない。


「出て来ないよー」

「んな筈ねーよ。ちゃんと捻ったぞ」

「えー?何か詰まってんのかな」


あれー?とホースの中を覗く沖。
巣山の手元を見て、何故水が出ないのかを知っている栄口と西広は、必死に笑いをこらえている。

そして巣山はホースを覗き込んでいる沖を確認すると、パ、とホースをつまんでいる手を放した。


「うわ!」


滞っていた道を開け放たれた水流は、見事沖の顔面に命中した。


「あはははは!!」

「すーやーまー!」

「にっしっし」

「あははは!気付けよ沖ー」


頭だけ流すつもりだった沖は、結局ジャージごとびしょ濡れになった。
水も滴るいい男の完成だ。


「こんにゃろ!」

「うお!?」


反撃、とばかりに沖はホースの先端をつまみ、圧縮した水流で巣山を狙った。
自分のやった事を棚に上げて、自分がびしょ濡れになるのは勘弁な巣山は沖の水攻めから必死に逃げ回る。
そんな2人の様子をゲラゲラと笑いながら眺めている栄口と西広。
そして巣山が2人の前を横切った時、巣山を追い掛けていた水流はギャラリーだった栄口と西広にも被害を与えた。
水も滴るいい男、3人目。


「あー、ごめーん!」

「あーあ、いけねーんだ沖ー」

「元は巣山のせいだろ!」


被害を被った2人に軽く謝った後、再び水の掛け合いを始めた沖と巣山。
ポタポタと水が滴り落ちる栄口は頬を引きつらせ、西広はポカン、としている。


「…西広、バケツ」

「よしきた」


ちゃっ、と側にあったバケツを取り、水を溜め始める。
そして




ばっしゃーーーーーーーん




どや顔で沖と巣山に水の塊を投げつけた。


「つめてー!!」

「ちょっ、何すんだよー!」

「それはこっちのセリフだー!」

「仕返しだコノヤロー!」


結局、4人全員で水の掛け合いが始まってしまった。
水を含んで重くなったジャージは泥をよく吸い込んでくれる。
4人は水浸しどころか、泥まみれになって夢中で遊んでいる。

しかし、忘れてはならない事もある。




「何やってんだ野球部ー!」




今は授業中だった。
体育教師の呼び声にハ、とした4人だったが、既に手遅れ。
言い訳も何も成り立たない。


「授業終わったらお前らで片付けやれよ!」


てっきり職員室に呼ばれると思っていた4人は、体育教師の寛大な処置に内心ガッツポーズを決めた。
片付け程度の罰で済んで良かった。
しかし、2組を含むクラス中のいい笑い者となった4人は、赤面を隠し切れない。


そして授業後

誰のせいだ何だと言い合う4人はまた遊んでしまい、次の授業に遅刻して

結局職員室に呼ばれるのであった。



→あとがき





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