約束の旗



「お、あの子かわいい」

「あの3人組?」

「そう。右の髪長いの」

「巣山好きそー」

「栄口は?」

「オレねー、真ん中」

「栄口はショートかー」

「髪型っつーか、ユルそーな感じが」

「癒し系」

「それ」


とある昼休み。
教室の窓から外を見下ろす1組ズ。
何の話かと思えば、可愛い子観察をしているようだ。
思春期丸出しの会話である。


「栄口は年下にモテそう」

「それ花井にも言われた」

「だって面倒見いーじゃん」

「そーでもないけどなー。放っとけないのはあるかも」

「三橋とか?」

「あれはまた別じゃない?」

「なんか守りたくなるよな」

「背中はね」

「あ、試合の話?」

「違うの?」

「イヤ、三橋が女子だったら守ってやりたくなんねー?」

「巣山…」

「違う。そーゆーイミじゃない」


今ひとつ会話が噛み合っていない事に気付いた巣山。
しかし、栄口に誤解されそうになって必死に軌道修正した結果、話題は
『野球部員達が女になったら』
という話になった。


「とりあえず三橋はあのまま女子になっても通用すると思う」

「そこは同意」

「栄口こそ癒し系でイケんじゃね」

「いや癒し系は沖だろ」

「あー、そーだなー」

「西広は秀才お姉様」

「女生徒会長とか」

「ぶはっ!似合い過ぎる!」


無駄に発達した想像力によって、女生徒会長になった西広を思い浮かべた栄口は思わず吹き出した。
何となく失礼だ。


「で、会計が阿部で」

「あっはっは!予算が〜とか細かそー!」

「アイツは女子になっても無愛想なんだろなー」

「んで副会長あたりに花井が居てさ」

「ぶはっ!アリ、アリ!」


人をネタにして好き勝手な想像を膨らませる2人。
留まる事を知らない高校生の妄想力をフルに発揮し、誰が何系だ何だと盛り上がる。


「じゃあ西広と花井が秀才お姉様、栄口と沖が癒し系。阿部は…生意気な後輩あたりで」

「うんうん。じゃー巣山はねー…何だろなー」

「オレ女になったらめちゃめちゃ色気出すぞ」

「キモイキモイ!」

「世の中の男はみんな巣山尚子の虜よ」

「あはは!!やーめーてー!!」


突然オカマ口調になった巣山。
ウケ狙いなのか本気なのか、栄口は相当ツボにハマったらしい。
何だよ尚子って。


「あはっ…は…っ…じゃーさ、尚子ちゃんが色気担当ならさ、泉とか小悪魔タイプっぽくない?」

「ああぁ、っぽいな。男を手の上で転がしてほくそ笑んでんだぜ」

「No.1ホステスになれるよ」


酷い言われようである。
2人は泉が腹黒いとでも思っているのだろうか。


「逆に田島は天然小悪魔っぽいよね」

「無邪気に男心を弄ぶタイプだな」

「てか、田島なら今でもやってそーな気がする」

「え、男に?」

「イヤイヤイヤ。田島って女子にも分け隔てなく接するじゃん。勘違いする子も居ると思う」

「悪気のカケラもねーからなー」

「男のままでも天然小悪魔だね」

「んで、それにまんまと引っ掛かるのが水谷だ」

「あはは!言ってやるなよー」


男でも女でも、水谷の扱いは変わらないらしい。
これも信頼の証なのだろうか。


「でも水谷が1番女子っぽくなりそーだよね」

「バッチリメイク決め込んでな」

「ギャル系だ」

「それ。流行りモンに目がない感じ」

「でもアイツ意外と見る目あるからなー。変な男には引っ掛からないと思う」

「水谷ん家って姉ちゃん居たっけ」

「確か」

「姉妹だけだとさ、逆に男に幻想持ったりすんのかな」

「いやー、どーだろう。しのーかに聞いてみれば?」

「『男に幻想持ってる?』って?聞けるか!」

「そらそーだ」


確かに突然そんな質問をされた方は困るだろう。
何より失礼極まりない。
相手が野郎ならまだ良くとも、やはり篠岡とは男女の壁がある。


「篠岡が男だったら聞けんだけどなー」

「それじゃ意味ないよ巣山君」

「あ、そか」

「でもさー、しのーかも男だったら自分で野球やりたいだろーね」

「だなー。ヘタな男より根性あるし、オレらもレギュラー危なかったかもな」

「もしかしたらモモカンも」

「あの人が男だったらプロになれたと思う」

「女子はどー頑張っても公式戦出れないもんね」

「オレらさ…男ってだけで出場資格あんだよな」


先程のバカ話から打って変わって、巣山が核心を突く。
2人共言葉を発する事が出来ず、暫く無言の時間が続いた。
数秒後、先に口を開いたのは巣山だ。


「…甲子園、行こうな」

「うん」

「優勝旗、プレゼントしてやろうな」

「完勝でね」


窓の柵に突っ伏しながら、うつろぐ景色を眺める2人。
穏やかな表情とは裏腹に、瞳には強い決意の色が宿る。




狙うは日本一。


目指したからには全力で


手に入れてみせるのが男ってもんだろう。




→あとがき





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