with love



今日という 特別な1日に

君という 特別な人へ












「いってきまーす!!」


夏よりも少しばかり太陽の起床時間が遅くなった10月。
冬の準備を始めた木々が老いた葉を散らし、銀杏特有の香り漂う通学路。
だが日の出が遅くなろうとも、朝練に待ったなど皆無。
いつもの様に元気良く家を飛び出した田島は、たった1分の距離を颯爽と風を切って走った。

いつもと同じ、繰り返される日常。
幸福過ぎる日常。

ただ、今日は少し違った。
やたら上機嫌な田島の口は、いつの間にか曲を奏でていた。
しかも鼻歌どころではない。
既に熱唱の域だ。
古くなったタイヤが、田島の歌声に合わせてコーラスをする。
1分足らずの合唱はグラウンド到着と共に消え去ったが、代わりに田島の騒がしい足音がドラムに入った。
合わさる様に聴こえる、風と木々の音色。
老いて色付いた枯れ葉が、土を目指して舞い踊る。

まるで
誰もが彼を祝福するように。


「ちわー!!!!」

「あ、た たじまくん!」


田島のやかましい挨拶に1番に応えたのは三橋だった。
そして挨拶を返すよりも先に、何か言いたげな三橋は大きく息を吸い込んだ。

田島が上機嫌な訳である。
だって今日は

なんたって今日は




「誕生日おめでとぉ!!」




田島の16回目の誕生日なのだ。

三橋の祝福に大満足の田島。
にしし、と笑って、こちらも大声でありがとー!と返した。


「おー、来たか田島。誕生日おめでとー」


無駄に大声のやり取りで田島の到着を知った阿部も、トンボを持ちながら祝福の言葉を贈った。
若干ぞんざいに聞こえるのは、この際お構いなしだ。


「ちーす!田島誕生日おめでとー!」

「おめでとー!」


気付いた栄口と沖も、口々に田島を祝う。
田島より後に到着したメンバーからも祝福され、田島の1日は最高の幕開けとなった。
そのせいかどうかは謎だが、朝練の調子はいつにも増して絶好調だった。
爽快な打球、抜群のキャッチング。
モモカンも大満足で朝練を終えた。

だが今日はこれで終わらない。
着替えてタル過ぎる授業に向かう足取りも、放っておいたらスキップをしそうな勢いだ。
3人仲良く教室に入ると、いつもは綺麗に清掃されている筈の黒板が小宇宙と化していた。


「たじまー!誕生日おめでとー!!」


犯人は言うまでもなくクラスメイト。
所狭しと黒板に並べられ、カラフルにアートされた文字は
『HAPPY BIRTHDAY』
クラスメイト達の粋な計らいである。
祝福を受けた田島が礼を述べるのとほぼ同時に、完全にタイミングを間違えたクラッカーが鳴り響き、盛大なブーングと爆笑が狭い教室に渦巻いた。


ありがとう。

ありがとう。

今日はいい日だ。

何度言っても足りないくらい
ありがとう。


田島は何度も感謝を述べた。




「田島の弁当…何人前?」


そして、ようやくお祝いラッシュも落ち着いた昼休み。
西浦では一端の有名人となっていた田島は、女子からお菓子、男子からもパンやおにぎりを贈られ、いつもの様に早弁をする事もなく楽しみにしていた弁当を開けた。
その中身を見た浜田が、驚いた様な呆れた様な表情で尋ねる。


「それ…重箱じゃねーの?」


言いえて妙。
田島の弁当箱はガッツリ3段重ねてあった。
しかも午前中だけで散々プレゼントを食い散らした後に食べる量ではない。
浜田の表情にも納得である。


「だって誕生日だもんよ!今日は俺の好物ばっかなんだぜ!!」


いや、好物なのはまぁ良いだろう。
大家族なら好物が食卓に並ぶ事は少ないだろうし、誕生日だし。
問題は量だ。


「ナスうっまー!!」


浜田の思考など知ったこっちゃない田島は、箱いっぱいに敷き詰められた料理達を大喜びで平らげていく。
朝練で使う体力がいかほどであるかが容易に想像出来た瞬間だった。

だが、この食欲なら後の事を考えても問題ないだろう。
浜田が三橋に視線を向けると、三橋はイタズラっぽくフヒッ、と笑った。
泉もそんな三橋を見て穏やかに笑っていたのを、大好物に夢中な田島は知らない。

そんな幸せな昼休みを終え、待ちに待った放課後。
田島は終始上機嫌なまま三橋達と一緒に夕練へ向かう。
朝に消費した体力は昼休みの間にたっぷりと充電した為、夕練も絶好調で終えた。


田島は幸福だった。
みんなに祝ってもらって
みんなが祝ってくれて。


あとはいつも通りコンビニ行って
帰りに三橋と寄り道して
家着いたらソッコー風呂入って
晩飯の後にはきっと姉ちゃん達がケーキ作ってくれてる。


考えただけで頬が緩んでしまう。
とりあえず早く、早く


「コンビニ行こーぜ!!」


考える前に欲求を口にする田島。
しかし着替え終わっていち早くバッグを担いだ所で、三橋が待ったを掛ける。


「た じまくん!あ、のさ…」


続けて何かを言い掛ける三橋だが、田島相手にもなかなか言葉が出て来ない。


「どしたー?」


問い掛けてみても、三橋の口は変わらずモゴモゴしたままだ。
いつもの三橋と違う様子に違和感を覚え、周りの皆を見遣るが他のメンバーも三橋の言葉を待っている。
阿部ですら、大人しく。
おかしいと思った田島が三橋に続きを催促すると、大きく息を吸い込んだ三橋がようやく口を開いた。








「田島くん!誕生日おめでとぉ!!」








それ 朝 聞いた。






一度聞いた台詞を再度言われた田島は一瞬呆けたが、何度も祝ってくれる三橋の気持ちが嬉しくて、自分ももう一度大きな声で礼を言った。




「さぁ!今日のメインイベントだよ!!」




そこでモモカンがパンッ、と手を叩き、皆の注目を集めた。
だが台詞の意図が不明である。
モモカンにも篠岡にもシガポにも、朝のうちに十分過ぎるほど祝福の言葉を貰った。
田島は頭にハテナを浮かべていると、他の奴らはキャッホーイ!待ってましたぁ!などとはしゃいでいる。
そしてベンチの向こうから、篠岡と浜田が大きなある物体を持って来た。


「みんなー主役は田島君だからねー」


練習後とは思えないテンションの上がりように、篠岡が困り顔で釘を刺す。


「三橋君と浜田さんと私で作ったんだよ!」

「飾り付けは篠岡の腕でーす」


2人が持って来たのは、特大の誕生日ケーキだった。

家に帰ってからの楽しみだった筈のケーキ。
ついさっき立てた田島の計画は、まさかのサプライズで崩れ去った。


「…マジで?マジで!?いーの!?」


驚いた田島の声が、徐々に歓喜に満ちる。


「まだあるぞー」

「マジで!!」


次に声を掛けたのは花井だ。
ホイ、と差し出されたのは、小綺麗で大きめの紙袋。


「開けていい!?」

「どーぞ」


中にはおもちゃ箱を思わせるプレゼントの数々。
中身を見た田島は歓喜の色を隠せない。


「スゲー!福袋みてー!!」


大はしゃぎでプレゼントを開ける田島。
中には、巣山と栄口からのスポーツタオル。
西広と沖からの湯呑み。
水谷と花井からの駄菓子詰め合わせ。
阿部と泉からの………パンツ。


「ぶわははは!!何コレ!!」

「いつかの勝負の為に」

「ブリーフでも笑えると思ったけどなー」

「うははゼッテーやだ!!」


田島は2人のウケ狙いによるプレゼントが大変お気に召したようだ。
スポーツタオルも運動部にとっては何枚あっても足りない物。
非常に助かる1品だ。
敢えてマグカップでなく湯呑みを選んだ所も、田島らしさを良く解っている。
駄菓子に至っては紙袋の半分が埋まっている。
田島の胃袋にはちょうど良い量だろう。

皆が自分の為に用意してくれたプレゼント。
それ以上に、祝いの気持ちを形にしてくれた事を、田島は大いに喜んだ。




「それじゃあローソク付けて!歌うよー!!」

「あっざーす!!」

「せーのぉ!!」








日も暮れたグラウンドに響く、とびっきりのバースデーソング。


誕生日 おめでとう。


生まれてきてくれて ありがとう。


親愛なる君へ 愛を込めて。




→あとがき





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