昼食を終え、ユニフォームに着替えた部員達は受付場所である野球部のベンチに集合した。
シュンは先に説明を聞いているので、既に校内で浜田達とスタンバっている。


「みんな揃いましたかー?それじゃ説明しまーす」


篠岡は人数を確認すると、部員達の注目を集めて説明を始めた。
部員達も篠岡の話に耳を傾ける。


「えーっと…まず、ゲームの概要から説明します。参加者には、自分の名前を書いた、布によくくっつくタイプのシールを渡してあります。それをみんなのユニフォームに貼ったら捕まえた事になります。タイムアップまでに捕まえた人数が多いほど、景品のランクが上がる仕組みです。同時に、貼られたシールが1番多い人が罰ゲーム、少ない人がスペシャルおにぎりとなります」

「ひゃっほう!!」

「焼肉がいいなー!」

「イークーラ!ハーラース!」

「あはは!それじゃ次にルールです。前半90分は校内と第一グラウンドでのかくれんぼになります。人が多いので、走らないで下さい。小さい子も参加してるのでお願いします。その間は、みんなも遊んでて大丈夫です」

「はーい」

「阿部はもー遊んだからいーよなー」

「うるせェ」

「それから、前半が終わったら校内放送で集合を掛けるので、もう一度第二グラウンドに集まって下さい。後半90分だけ第二グラウンド全体使える事になったので、ここから本格的な鬼ごっこになります」

「うおお…て事は90分走りっぱなし?」

「うわー足ツリそー…」

「ふふふっ。じゃあ、みんな頑張ってね!」


いよいよお待ちかね、本日のメインイベントのスタートである。


「みはしー!祭りいこーぜ!」

「うんっ!まと あて!」


どうやら前半の間、田島と三橋は3組の縁日に向かうようだ。
三橋に的当てをやられたら、景品はごっそり攫われていくのだろう。
西広と沖はクラスメイトを想い、静かに合掌した。


「あーあー、9組の女装見たかったなー」

「写メ撮ったぞ」

「マジ!?見して!!」

「たこやき」

「ちっ、リアリストめ」


女装の写メをネタにたこ焼きを要求した泉は、水谷と共に屋台に向かった。


「花井はどこ行くの?」

「オレ?視聴覚室。軽音のライブ観に行く約束してんだ」

「あ、オレもー。ブラバンとコラボするヤツでしょ?」

「マジ?オレも行く」


そして栄口、花井、沖、巣山の4人は視聴覚室へ。


「西広はどーすんだ?」

「オレは妹が来てるから、一緒に回る。阿部は?」

「オレはもう見て回ったからいーや」

「えー?でも…」


校内のどっかに居ないと、ゲームにならないんじゃ。
阿部は西広の言葉を最後まで聞かず、ユニフォームの上着を脱いで受付に座っている篠岡に歩み寄った。
そして自分の上着をバサ、と篠岡に放り投げ、


「受付代わる」


と言った。


「え…?え?」


阿部の行動が理解出来ない篠岡は困惑した。
しかし阿部は、篠岡の様子を気にする事なく言葉を続ける。


「途中参加もアリなんだろ?前半だけ受付代わる」

「え?で、でも…私がシールいっぱい貼られたら、阿部くん後半不利だよ?」

「そーなったらそーなったでいーよ」


言い終えて、阿部は受付の椅子にドカッと腰掛けた。
これ以上問答を続ける気はないらしい。
1日中働いてくれた篠岡を思いやってなのか自分が午前中遊び回ったからなのか、真相は定かではないが、篠岡は与えられた90分の自由時間を大いに喜んだ。


「阿部くんありがとう!!」


篠岡はとびっきりの笑顔で礼を言い、校内へと走り去った。


「やっさしー」

「うるせー」


一部始終を見ていた西広はイタズラっぽく笑い、彼もまた校内へと向かって行った。

そして校内放送の後始まった、白熱の後半90分。
参加人数は30人を超え、部員達はほぼ袋のネズミ状態で走り回る結果となった。
始めは見物だったギャラリー達も、あまりの白熱ぶりに次々と途中参加し、最終的にはただの袋叩きだった。

90分後、タイムアップの笛が鳴り響き、部員は再びベンチに集合する。


「みんな!お疲れ様ー!」

「ハァ…ハァ…っ、か、かんとく…?」

「なんで、いるんスか…?」

「何でって、ビリには罰ゲームの約束でしょう!」


恐ろしいセリフとは裏腹の、眩しい笑顔に気圧される。


「集計して参加者に景品渡し終わるまで、ちょっと休憩しててね!」


部員達は束の間の休憩を、ある者はワクワクしながら、ある者はビクビクしながら過ごした。
そして、運命の結果発表。
皆、篠岡の言葉を固唾を飲んで待つ。


「それじゃあ、発表します!まず1位!泉くん!!」

「うおっしゃああ!!」

「ぎゃー!!勝ったと思ったのにいい!!」

「ちっくしょー!!」


見事1位を獲得した泉は歓喜の雄叫びを上げ、他の面々は大いに悔しがった。
全員、体中がシールだらけの接戦だったのだ。


「そして…残念ながら最下位は…」


篠岡は俯き、どこか申し訳なさそうに名前を呼んだ。


「阿部くん、です…」

「……」

「マジでか!!」

「おめでとーう!!」

「おめでとう阿部!!」

「おめでとう!!」


薄情な連中である。
最下位を免れた部員達は、罰ゲームを獲得した阿部に祝福の言葉を連発する。
阿部にとってはめでたくも何ともない。


「あのう…ゴメンね、前半代わってもらっちゃったから…」


篠岡が申し訳なさそうだったのは、この時の負い目を感じていたからだ。
しかし、そのせいでビリになったとは言い難いし、自分から申し出た手前、阿部に篠岡を責める道理は無いし、そのつもりもない。
阿部は単純にビリだった事がショックで放心しているだけだ。
当時の様子を知っている西広が、阿部の代わりに篠岡に声を掛ける。


「ヘーキだって。後半捕まりまくった阿部が悪い」

「う〜…でも…」

「だいじょぶだいじょぶ。阿部も自分でいいって言ったんだし」


西広に大丈夫、と繰り返され、篠岡は今度こっそりおにぎりを大きくしてあげよう、と決める事で詫びの印とした。


「はい!それじゃあお待ちかね!阿部くんには罰ゲームをやってもらいましょう!」

「はいはい!!カントク!!阿部にやってもらいたい罰ゲームがあります!!」


モモカンが罰ゲームを発表しようとした所で、田島が提言する。
阿部はもう、イヤな予感しかしない。


「なあに?やってもらいたい罰ゲームって」

「はい!!あのですね──…」


果たして、田島がリクエストした罰ゲームとは。


「あはは!いいよ、それでやろう!」

「監督!?」

「だははは!!阿部しっかりやれよ!!」

「マジで勘弁してくれ…」

「阿部ー!!キメろよー!!」

「皆さーん!!カメラの用意はいいですかー!?」

「おっけーでーす!!」

「バッチコーイ!!」


全員ゲラゲラと大笑いしながら、携帯のカメラを阿部に向け、スタンバイ完了。


「阿部さーん!!ニッコリ笑ってー!!」

「それでは皆さん、ご一緒にぃ!!」

「せーのぉ!!」








『LOVE注入








阿部はこの日

一生のトラウマを背負ったという。





→あとがき












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