獄闘士と結界士



水谷と分かれて左の道に進んだ花井と泉。
見えない敵と遭遇した事で、今までよりも慎重に2人はフライヤーを進めて行く。
しかし水谷と分かれてすぐ、再び分岐点に差し掛かった。
流石にもう戦力は分散出来ない。
2人は暫く悩んだ後、右の道へとフライヤーを進めた。
そして更に奥へ奥へと進んで行くと、洞窟内に光が満ちた。
水谷のライトニングだ。
花井はすぐにこの明かりが水谷の魔法だと気付き、やはり道が繋がっている事にいくらか安堵した。


「コレ明かりの魔法なんか?」

「いや、雷電系だな。電気が網状に這ってって攻撃するヤツだけど、こーゆう使い方もあんのな」


魔法にはあまり詳しくない泉に尋ねられ、ライトニングの理屈を簡単に説明する花井だったが、こういった使い方は思いつかなかったようだ。


「でも持続性はねーからすぐ消えちまうな。オレはこの魔法使えねーから、敵と遭ったらコレ投げてくれ」


花井はそう言って、鞄から緑色の珠を取り出し、後ろに居る泉に手渡した。


「なにコレ」

「栄口が作ったヤツ。暗いトコで光る液体が入ってる」

「あー、祭りとかで売ってる腕輪!」


硬球と同じ程度の大きさの珠をポンポンと片手で弾きながら、懐かしーなーとケラケラ笑う泉。
祭りに行くと、大して要らないのに何故かどうしても欲しくなる一品だ。
子供の頃に行った祭りの思い出が蘇り、一瞬寂しくなった泉だったが、それと同時に強い決意を新たにした。

絶対帰るんだ。
みんなで、一緒に。

その思いは花井も同じだった。


ライトニングの明かりが消えたその後も順調にフライヤーを進めていると、前もって用心していた花井は手元に置いてあった魔力探知機の異常に気付く。
探知機が紅く染まり、近くに敵が居る事を示している。


「お出ましだぜ」

「おー」


ようやく現れた敵に、2人の瞳は緊張感と共に好戦的な色が宿る。
どうやらやる気満々らしい。

そして暗闇から2人に攻撃が放たれる。
だが2人は不意打ちの攻撃にも瞬時に対応出来る程集中力を高めていた為、紙一重の所で攻撃をかわした。
そして泉はフライヤーから飛び降り様に、攻撃が仕掛けられた方向に思い切り緑の珠を投げる。
珠が割れ、零れた中の液体は洞窟の岩を這い、徐々に光を増して行く。
蛍光液よりもずっと明るい光は、ついに敵の全貌をあらわにした。


「おーおー悪そうなツラしてやがる」


泉の感想通り、いかにも悪人顔の敵はどう見ても図体のでかいただの人間だった。
しかし、どんな敵が出て来てもおかしくないと覚悟していた2人には、あまり動揺は見られない。
2人の覚悟の程が伺えた。

すると、敵は2人を見てあからさまに不満げに溜息を吐いた。
そして、心底面倒そうにこう続ける。


「なんでェ、てめーらかよ。オレはヘリオスに当たりたかったのによ」


敵は気怠そうに頭を掻きながら、もう一度溜息をついた。
そんな敵の様子に軽くカチンときた喧嘩っ早い泉は、挑発とも取れる台詞を吐く。


「てめェみてーなザコはオレらで十分なんだよ」


フライヤーを停めた花井は泉の暴走が始まらないよう、隣でヒヤヒヤしながら構えている。
負けん気をつつかれると後先考えないのは、泉の悪い癖だ。
そして敵もまた、泉の台詞がカンに障ったようで鋭い眼光を飛ばしている。
暫く敵と泉の無言の睨み合いが続いたが、先に口を開いたのは敵の方だった。


「黒髪の童顔にフレイル持ちのハゲ…獄闘士と結界士だな」


敵の台詞に再びムカッ腹を立てる泉。
オルクスから特徴を聞いているのだろうが、『童顔』というフレーズがお気に召さないようだ。
花井は『ハゲ』という台詞に早くも精神ダメージを受けている。
対して敵は、2人の反応に大変満足した様子でニヤリと笑った。


「ま、お前らも十分厄介だって聞いてるぜ。だが残念だったな。お前らじゃあ、絶対にこのシーマ様には勝てねェ」


敵はそう言って、軽く肩を竦めた。
自身の名前を様付けで名乗る事から、かなり自尊心の高い性格と推察出来る。
更に余裕の態度と共に吐き出される挑発的な台詞に、泉はどんどん苛立ちを募らせる。
もうきっと、花井が止めても聞かないのだろう。


「ンなモンやってみなきゃワカンネーだろが!!」


泉は叫ぶと同時に敵に飛び掛かった。
花井はシーマの属性を見極め、効果的な補助魔法を掛ける為にサポート体勢を取っている。
泉は目にも止まらぬ速さで敵に渾身の拳撃を繰り出した。
しかし、シーマは微動だにせず突っ立っている。
泉のスピードに反応出来ない様子でもない。
泉は構わず攻撃を加えるが、その瞬間、敵の余裕の訳を悟る。


「んなっ…!?」


攻撃を受けた顔面部分はアメーバのようにドロドロした液体となり、首無しの状態で敵は尚も突っ立っている。


「キモ!!」


汚い物でも見るかのように泉はそう吐き捨てた。
しかし泉の感想ももっともで、シーマの肉体はアメーバ状になって弾けた頭部をにゅるにゅると再生した。


「言っただろーがよ。お前らじゃオレには勝てねェって。オレの体は全ての攻撃を無効化する。魔撃ならちっとは喰らうかもだけどな。オメーら、魔撃使えねんだろ?」


不適な笑みと共に、スラスラと言葉を連ねる彼は続けてこう述べた。


「直接攻撃しかできねーてめーらじゃ、オレにダメージは与えられねェ」


そう言い放った後、シーマは両手を再びアメーバ状に変化させ、泉を狙った。


「マ・シルド!!」


間一髪花井がシールドで防御するが、アメーバはシーマの体積を大きく超えて攻撃を仕掛けて来る。
それは時に刃状に、時にハンマーのように形を変え、花井と泉の2人を襲い続ける。
敵の猛攻にシールドが間に合わなかった泉は、紙一重の所で何とか攻撃を避けている。


「にゃっろぉ!!」


焦れた泉が攻撃のすり抜け、敵に飛び掛かり拳の連撃を加えた。
再生が間に合わないほどの凄まじい連続攻撃でシーマの肉体は粉々に弾け飛び、粉砕された肉体がそこら中に飛散した。


「ナメんなこの野郎」


泉はフン、と鼻を鳴らして勝ち誇った。
いくら実体がアメーバとは言え、これだけ砕けば再生は出来まい。
花井もお見事、と手を叩き、2人は勝利を確信していた。

しかし、やはり敵もオルクス直属の部下。
そんなに甘くはないらしい。

砕け散った肉体はうぞうぞと動き出し、破片同士がくっつき合って再び元の形状を取り戻した。
泉の攻撃は完全に無効に終わってしまったようだ。


「だーから無駄だっつってんだろ」


ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべてシーマは言う。
確かに打撃を無効化してしまう肉体である以上、魔撃の使えない2人での勝利は難しいだろう。

しかし泉に焦りは感じられない。
それは花井も同じで、最初と変わらず強い光を以て敵を見据えている。




「もっかい言うぞ」


「ナメんなこの野郎」




反撃、開始。



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