首都、シルキス。
全ての作業を終えた一行は、ウィリーから取り寄せた飛空艇を前に、最期の決戦へ向かう。
「皆、準備は良いな?」
ルナが皆を見渡して言う。
アルテスにはルナとジズも向かう事になった。
ステントルは各町の復興作業に当たっている。
「万端!」
「気が変わった奴いねーな?」
「今更」
「うし、行くか」
阿部の合図を機に、飛空艇に乗り込む一行。
そして、飛空艇はアルテスへと飛び立った。
飛空艇の離陸後、西広は操縦席を離れ、最後までロボットのメンテナンスをしていた。
「まだやんの?」
そこに現れたのは、巣山だった。
「お前運転もあんだから、少し休めよ」
巣山は西広の為に煎れて来たコーヒーを手渡し、休息を促す。
西広は出発までの2日間も夜通し修理を行っていた為、ほとんど眠っていないのだ。
「万が一動作不良あったら困るからさ」
ありがと、とコーヒーを受け取り、笑顔で答える西広。
だが、表情はどこか曇っている。
巣山はそれを見逃さなかった。
「落ち着かねーだけだろ」
「…やっぱバレる?」
苦笑いと共に眉尻を下げた西広は、正直に胸の内を明かした。
「…何かしてないと…不安でさ」
熱いコーヒーを啜りながら、西広は目を伏せた。
「オレ、戦闘要員じゃないし…こんくらいしか、出来ないから」
紡がれる言葉。
西広の胸中。
巣山は、ただ黙って西広の話を聞いている。
「役に、立ちたいじゃん」
不安なのは自分だけではない。
それが解っているからこそ、動かずにはいられない。
「…そーな。西広先生の発明が無かったら、オレ皆と会えてなかったしな」
肩を竦め、巣山が溜息混じりに口を開いた。
「十分、助かってるよ」
照れ笑いを浮かべながら、そう述べる巣山。
西広も釣られて赤くなる。
「もーちょい助けてもらうから、少し寝ろ」
台詞が気恥ずかしいのか、そっぽを向いた巣山は続けてそう言った。
そんな巣山の様子が可笑しくて、西広は思わず吹き出す。
「寝かしたい奴にコーヒー持って来るかなぁ」
「いーじゃん。旨いだろ」
「ん、んまい」
カフェインたっぷりのコーヒーを飲み干した頃、不思議と心も潤った気がした。
「栄口ーあのさー」
飛空艇の一室、栄口の部屋。
栄口は到着ギリギリまで、出来る限りの回復や補助アイテムを用意していた。
そこへ1枚の紙を持った花井が現れ、栄口は作業をしながら適当に返事をする。
「んー?」
「この説明書に書いてある…オプションって何?」
花井の左腕には、栄口特製の義手が装着されている。
魔力伝達回路と神経を繋ぐのは容易ではなかったが、それでも何とか2日以内に作り終えた。
その後すぐに栄口はアイテム作りに入った為、花井には簡単な説明書を渡しただけだったのだ。
「ボタン押してみた?」
「イヤ、まだ」
「押せば解るよ」
またしても適当な受け答えをする栄口。
きちんと説明されていない、得体の知れない機能を使うのは抵抗がある花井は、一応栄口の説明を受けてからが良かったのだが、栄口のこの態度では大した機能でもないだろう。
若干の不安は否めないものの、花井はとりあえず肘の部分にあるボタンを押してみた。
すると、
「どわぁ!?」
腕が、飛んだ。
「何やってんの花井ー」
「オメーが押せっつったんだろ!!」
「フツー手の甲から押すと思うじゃん」
「オメーの基準なんか知るか!!つかコレ何だよ!?」
「ロケットパンチ」
平然と、さも当然の様に。
栄口はニッコリと答えた。
花井は言葉も無く呆れ返っている。
「今度中指んトコ押してみー」
再び腕を装着した後、続けてボタンを押す様に促す栄口。
正直嫌な予感しかしないが、とりあえず花井は言われるがままに中指の付け根にあるボタンを押した。
「………何コレ」
出て来たのは、細長い棒だった。
「マドラー!これでコーヒー混ぜる時にスプーン要らない!」
「アホかぁ!!戦闘中に呑気にコーヒー飲むバカがどこにいんだよ!!」
「じゃー人差し指んトコ押してみなよ」
何ともどーでもいいオプションに花井が奇声を上げると、またも平然と次を促す栄口。
また要らんオプションじゃないだろうな、と栄口を睨みながら、ボタンを押す。
そして出て来たのは
「…殴っていいか」
ドライバー(+)。
「使えるじゃん!高速で回せばドリルにもなるし!」
「フツーにドリルにしろよ!!何でドライバーにする必要があんだよ!!万に一つドライバーで使ったとしてサイズ違ったら何の役にも立たねーじゃねーか!!」
花井は考えた。
もしこれが戦闘中だったら。
期待を持ってボタンを押していたら。
あぁ、恐ろしい。
「ちなみにね、小指んトコ押すと…」
うなだれる花井の左腕を取り、栄口がボタンを押す。
「水が出ます」
「要るかぁ!!!!」
ついに花井がキレた。
「人の腕でなに遊んでんだコラ!!空気読めよ!!」
「やだなぁ、ちょっとしたイタズラじゃん」
「時と場合を考えろ!!」
「考えてるよ」
相変わらずにこやかな栄口。
だが、妙に重みのある台詞に、花井は思わず固まった。
「リラックスしたっしょ?」
固まったままの花井に栄口は笑いかけた。
「花井、こっち来てからずっとピリピリしてたじゃん。腕失くして、皆がバラバラになりかけた時だって、1人で支えようとしてさ」
花井は言い返す事が出来なかった。
栄口は、穏やかな口調で言葉を続ける。
「あん時はオレも余裕なかったけど…花井が1人で抱え込む必要もないよ」
真っ直ぐに花井を見て、栄口は言う。
「オレを副主将に指名したの、花井じゃん。だから、もー少し頼ってくれても良くね?」
花井は言葉に詰まった。
栄口の真っ直ぐな瞳がどうにも恥ずかしくなって、フイっと目を逸らす。
そして、あー…と1つ唸った後、額に手を当て、口を開いた。
「……サンキュ」
「どーいたしまして」
栄口もニッコリと微笑んで答えた。
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