初陣



首都、シルキス。
各町へ向かったメンバーを見送った後、西広は研究室に三橋を連れて行き、魂の結合を分離する方法を模索していた。

しかし、何度やっても結果は分析不可能。


「三橋、疲れた?」

「へっ、ヘーキ…」


三橋は平気だと言うが、無数の管に繋がれ、何時間も身動き取れない状態はストレス以外の何物でもない。


「ちょっと休憩しよ。オレも疲れた」


三橋の体を気遣う言い回しでは逆効果な為、自分も休憩したいと強調して三橋を休ませる。


「何か食べよっか」

「食っ…べる!」


なんて現金な子犬だろう。
西広は笑いを堪えられない。


「解った、ちょっと待ってて」


クスクス笑いながら西広は部屋を後にする。

だが、呑気に笑ってもいられない。
皆を見送った後の三橋の様子。
あれ以降特に目立った変化はないが、西広は嫌な予感を否定出来ない。

アルトの魂が、三橋を浸蝕しつつある。
それはアルトの記憶が三橋の夢に表れる事からも明らかだ。
これ以上三橋を弱らせる訳にはいかない。

西広は精の付く料理を選んで研究室に戻った。




「三橋ー、お待た…」




扉を開けた西広は目を疑った。
三橋の体が白い光を纏っている。


「三橋!!」


慌てて駆け寄る。
目は虚ろだ。
必死に体を揺らすが、反応は無い。


「一か八か…!」


西広は心肺蘇生用の器具を取り出し、三橋に電気ショックを与えた。
すると光は収まり、徐々に三橋の瞳に光が戻ってくる。


「…にし、ひろくん…?」

「良かった…!三橋、大丈夫?」


西広は胸を撫で下ろした。


「オ…レ、…今…?」

「何でもないよ。ほら、ご飯持って来たから」


食事を目にした途端、目を輝かせる三橋。
そして勢いよくがっつく。




西広は確信した。
時間が無い。

一刻も早くアルトの魂を取り出さなければ、三橋は三橋でなくなってしまう。

幸せそうに食事を口に運ぶ三橋を見ながら、西広は事態を憂いた。

すると、追い打ちを掛ける様に研究室内に警報が響く。




「大師!!」




大きな音を立てて扉が開いた。
研究室の警備兵だ。


「何があったの!?」

「モンスターです!!とてつもなく巨大な!!」


最悪のタイミングである。
戦闘員は出払い、首都の警備も手薄。
暫くモンスターの襲来は無いと踏んでいたが、甘かった。


「ステントルさんを呼んで!!オレが出る!!」

「了解しました!!」


ステントルは現在国王の元に行っている。
5分と掛からず到着出来るだろう。


「西広く…っ」

「大丈夫だから。三橋は、絶対出て来ちゃダメだよ?」


まるで小さな子供に言い聞かせる様に、西広は言う。
三橋の不安を煽ってはいけない。
あと一度でも扉を開いたら、今度こそ正気を失ってしまう。

泣きそうな三橋の頭を撫でながら、西広は何度も言い聞かせた。


「すまない、遅くなった!」


ようやくステントルが到着した。


「すいません、三橋をお願いします」

「承知したが、君は戦闘員では…」

「大丈夫。策はあります」


ハッキリとした口調で言うと、西広は部屋を去って行った。


「さぁ、君はシェルターへ…」


ステントルに導かれ、後ろ髪を引かれる思いで三橋は研究室を後にした。












「…でっかいなぁ」


目の前にはティラノサウルスの様な姿をした、巨大なモンスター。
だが、ライトキャンドルの外へ出た西広は呑気に呟いた。

武器も無く魔撃も使えない西広が、どうやって戦おうというのか。
しかも、たった1人で。
前回は7人掛かりでも苦戦を強いられたのだ。
勝率は極めて低い。


「光線以外は物理攻撃タイプかな」


唯一手に持っているのは、ルナの森でも使った球体。
カチカチと素早くコードを入力し、最後にEnterキーを押す。




「プログラム、始動」




すると、ライトキャンドル頂上に停泊している、ウィリーから乗って来た飛空艇から無数の物体が降りて来る。
西広の前に集まり始めた物体は徐々に形を整え、あっという間に巨大なロボットが完成した。

西広はコックピットに乗り込み、内部にぶら下がっている魔力伝導装置に球体をセットする。


「動いてくれよ…!」


西広が魔力を込める。
すると、全体に魔力が行き渡ったロボットが立ち上がった。


「よし、動いた!」


そしてまた球体を操作し、作動確認を行う。


「魔力伝達回路異常無し、全魔撃砲充填完了、モニター接続オールグリーン…!さすが栄口!」


このロボットもまた、ヘリオスの神殿にあった古代兵器。
万が一西広と栄口に戦闘を強いられた時の為に、改造して持って来た物だ。


「初陣がぶっつけ本番じゃ心許ないけど…!」


魔力を込めて魔撃を放つ。




「エクスプロード!!」




特大の爆撃がモンスターに命中した。


「完璧…!」


ロボットが魔撃を撃てたのは、事前に水谷と花井の魔法をインプットしておいた為だ。
これならシールドも使え、巨大なモンスターとも対等に戦える。

だが、やはり万能ではない。
この巨大ロボットを動かすには、莫大な魔力を必要とする。
本来なら、補助動力として魔力を溜めた珠をコックピット内部に浮かべて使用するもの。
西広1人では、持って5分が限界である。
西広の魔力が尽きたら、そこで勝負がついたも同然なのだ。


「打撃だけで何とかしないと…」


光線を防ぐ為のシールド用にも魔力を残しておかねばならない。
先手必勝とばかりに西広はロボットで突撃する。
そしてモンスターも向かって来た為、激しくぶつかり合う。


「ってぇ〜〜…」


巨大なモンスターとロボットの激突。
コックピット内部への衝撃も半端では無い。

だが、怯んでいる暇も無い。
西広は続けてモンスターに拳の連打を浴びせた。
モンスターがビルに衝突し、崩壊する。


「ここじゃ危な過ぎる…」


西広はモンスターに掴み掛かり、力いっぱい投げ飛ばした。
そしてモンスターは光線のエネルギーを溜め始める。


「リフレクト!!」


シールドはモンスターを包み、中で暴発する。
これで光線は効かないと悟ってくれれば、物理攻撃のみで戦える。
案の定、モンスターは再度ロボットに向かって突進して来た。
西広は見事受け止め、もう一度投げ飛ばす。
何とか街を離れなければ、被害は拡大する一方だ。

そして、更にもう一度投げ飛ばそうとモンスターに掴み掛かった時、




ロボットが止まった。



[*前] [次#]


[Book Mark]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -