トトムス・2



武器を構えた2人の視線の先には、長い黒髪の少年。


「あれがオルクスか…?」


水谷は目を細めて確認する。


「いや…違う。似てるけど顔も違うし、オルクスの魔力はもっとキツかった」


今でも十分、震えがくる程の魔力を少年は放っている。
本物はこれ以上なのか、と、巣山は頬を引き攣らせた。

すると、水谷は構えを緩め少年に近付いて行く。


「おい水谷!」

「だってオルクスじゃなかったもん。いくら強くたって、子供とは戦えねーよ」


確かに、相手が人間であるならば話が出来る。
なぜこんな子供が街を襲い始めたのか、理由も聞かねばならない。


「ね、キミ、どっから来たの?誰かに言われたの?」


少年に近付いた水谷は、少し屈んで目線を合わせて尋ねる。
だが少年は黙ったままだ。

水谷の様子を、巣山は少し遠くから眺めている。

どうも腑に落ちない。

ふと、先程投げた鞄が目に入った。
急いで放り投げてしまった為に、中身が散乱してしまっている。

片付けるか、と鞄を拾い上げた所で、巣山は気付いた。




小型探知器が、紅い危険色を発している。




「水谷!!離れろ!!」




え?と水谷が振り向いた瞬間、少年の右手から雷撃が放たれた。




「水谷!!」




雷撃は水谷の脇腹を貫通し、直撃を受けた水谷は吐血する。


「……っが…!」


すかさず巣山は弾丸を放つ。
だが、命中した筈の少年は表情一つ変えない。
巣山はすぐにアイテムで水谷の傷を塞ぐ。


「水谷、あいつモンスターだ!!」

「うそ…」


どこからどう見ても普通の子供だ。
いくらモンスターだと言い聞かせても、攻撃するのは気が引ける。


「…っ戦えねーよ…!」

「そんな事言ってる場合か!!」


少年は再度右手をかざし、二撃目を放った。

すんでの所で躱し、巣山はパルス砲を連射する。
だが、少年はいとも簡単に全弾掻き消してしまった。


「物理攻撃じゃないとダメか…!」


巣山はもう一度弾丸をセットし、銃はマシンガンへと変化した。
そして少年に向かって銃撃を浴びせる。

命中すれば少年は血を流し、確実にダメージは蓄積している。
それでも眉一つ動かさない。


「ゾンビみてぇな奴だな…」


水谷は、巣山の後方で困惑していた。
やはり、こんな子供を攻撃するなど、自分には出来ない。
その間にも少年は2人に魔撃を放って来る。


「レシルド!!」


水谷は自分と巣山にシールドを張る。
だがこのままでは防戦一方だ。
巣山のダメージも着実に蓄積されている。

そして疲労の溜まった巣山が、ほんの一瞬体勢を崩した時、少年の雷撃が巣山を貫通した。


「巣山!!」


水谷は直ぐさま治療に入ろうとするが、少年は水谷に向かって雷撃を連射してくる。


「マ・シルド!!」


水谷はシールドを張って防御するが、雷撃は止まない。


「待って…!ねぇ待ってよ!すや、巣山が死んじゃう!!」


涙声で必死に訴えるが、少年には届かない。
回復アイテムは先程水谷の傷を塞いだのが最後だった。
水谷が回復してやらなければ、巣山は死んでしまう。

そこへ、少年の頭蓋に弾丸が撃ち込まれた。
巣山が倒れたまま弾丸を放ったのだ。
雷撃が止んだ一瞬の隙に、水谷は巣山の元へ駆け寄る。
直ぐさま治療を開始するが、少年は2人に向かって右手をかざした。
そして、今までより大きな雷撃が放たれる。

シールドが間に合わない。

巣山は水谷の胸倉を掴むと、思い切り投げ飛ばした。


「巣山ぁ!!」


雷撃は巣山に直撃した。


「巣山!!巣山!!」


水谷が必死に呼ぶが、反応は無い。
少年は倒れた巣山にゆっくりと歩み寄る。
そしてとどめを刺そうと右手をかざした時、




「リジェクト!!」




水谷は巣山に一切の魔撃を拒絶するシールドを張った。




「ゴメンな巣山…すぐ治すから…!」




水谷の瞳に、もう迷いはなかった。


「アースクエイク!!」


水谷が叫ぶと、大地は形を変え少年に襲い掛かる。


「スターダスト!!」


連続で魔撃を放つ水谷。
上空に輝く無数の石が現れ、大地に埋もれた少年に降り注ぐ。
少年は竜巻を纏ってつぶてを弾き飛ばすと、水谷に向かって雷撃を放った。


「ミラーウォール!!」


水谷の前に現れた壁は雷撃をそのまま反射し、少年に撃ち返した。

少年はもう魔撃が効かないと悟ったのか、体の周りに竜巻を発生させた。
それは徐々に大きくなっていく。


「トルネード!!」


水谷も竜巻で相殺させようとするが、少年の竜巻に飲まれ結果更に大きくなってしまった。
水谷は溜息を吐いて呟く。




「使っちゃダメだって言われたんだけどな…」




目の前には既に巨大な竜巻があり、辺りはどんどん吸い寄せられていく。
それでも水谷はあまり動じていない。
そしてゆっくりと目を閉じ、詠唱を始める。




「蒼天の彼方、漆黒の礎、流星の音色を牙城に満たせ」




白い光が水谷を包み、空はだんだんと暗くなっていく。




「流浪の星を下天に刺し出し、万象以て砕屑に帰す」




詠唱を終えた水谷が魔撃を放つ。




「メテオストライク!!」




すると上空から巨大な隕石が現れ、次々と降り注ぐ。

普通、魔法を使うのに詠唱は要らない。
精神統一の為に詩を詠む者もいるが、それはほんの気休めだ。

水谷が使ったのは禁術。
星そのものを破壊しかねない、最強の魔法。
危険過ぎるこの魔法はルナから教わった。
ただし決して使う事のないように、と。

そして隕石の雨は見事竜巻を消し去り、直撃した少年も霧散して消滅した。












「巣山!!」


隕石の衝突によって、辺りの地形は豹変している。
水谷は土に埋もれてしまった巣山を何とか見つけ出し、直ぐさま治療を開始する。




「間に合え、間に合え…!」




巣山はもう虫の息だ。
シールドに守られていた為隕石によるダメージは無いが、それでなくても既に瀕死の重傷を負っていた。

残りの魔力を全力で込める。




「起きろよ巣山…頼むから…!!」




傷は完治したものの、巣山が目を覚ます事は無かった。



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