武器を構えた2人の視線の先には、長い黒髪の少年。
「あれがオルクスか…?」
水谷は目を細めて確認する。
「いや…違う。似てるけど顔も違うし、オルクスの魔力はもっとキツかった」
今でも十分、震えがくる程の魔力を少年は放っている。
本物はこれ以上なのか、と、巣山は頬を引き攣らせた。
すると、水谷は構えを緩め少年に近付いて行く。
「おい水谷!」
「だってオルクスじゃなかったもん。いくら強くたって、子供とは戦えねーよ」
確かに、相手が人間であるならば話が出来る。
なぜこんな子供が街を襲い始めたのか、理由も聞かねばならない。
「ね、キミ、どっから来たの?誰かに言われたの?」
少年に近付いた水谷は、少し屈んで目線を合わせて尋ねる。
だが少年は黙ったままだ。
水谷の様子を、巣山は少し遠くから眺めている。
どうも腑に落ちない。
ふと、先程投げた鞄が目に入った。
急いで放り投げてしまった為に、中身が散乱してしまっている。
片付けるか、と鞄を拾い上げた所で、巣山は気付いた。
小型探知器が、紅い危険色を発している。
「水谷!!離れろ!!」
え?と水谷が振り向いた瞬間、少年の右手から雷撃が放たれた。
「水谷!!」
雷撃は水谷の脇腹を貫通し、直撃を受けた水谷は吐血する。
「……っが…!」
すかさず巣山は弾丸を放つ。
だが、命中した筈の少年は表情一つ変えない。
巣山はすぐにアイテムで水谷の傷を塞ぐ。
「水谷、あいつモンスターだ!!」
「うそ…」
どこからどう見ても普通の子供だ。
いくらモンスターだと言い聞かせても、攻撃するのは気が引ける。
「…っ戦えねーよ…!」
「そんな事言ってる場合か!!」
少年は再度右手をかざし、二撃目を放った。
すんでの所で躱し、巣山はパルス砲を連射する。
だが、少年はいとも簡単に全弾掻き消してしまった。
「物理攻撃じゃないとダメか…!」
巣山はもう一度弾丸をセットし、銃はマシンガンへと変化した。
そして少年に向かって銃撃を浴びせる。
命中すれば少年は血を流し、確実にダメージは蓄積している。
それでも眉一つ動かさない。
「ゾンビみてぇな奴だな…」
水谷は、巣山の後方で困惑していた。
やはり、こんな子供を攻撃するなど、自分には出来ない。
その間にも少年は2人に魔撃を放って来る。
「レシルド!!」
水谷は自分と巣山にシールドを張る。
だがこのままでは防戦一方だ。
巣山のダメージも着実に蓄積されている。
そして疲労の溜まった巣山が、ほんの一瞬体勢を崩した時、少年の雷撃が巣山を貫通した。
「巣山!!」
水谷は直ぐさま治療に入ろうとするが、少年は水谷に向かって雷撃を連射してくる。
「マ・シルド!!」
水谷はシールドを張って防御するが、雷撃は止まない。
「待って…!ねぇ待ってよ!すや、巣山が死んじゃう!!」
涙声で必死に訴えるが、少年には届かない。
回復アイテムは先程水谷の傷を塞いだのが最後だった。
水谷が回復してやらなければ、巣山は死んでしまう。
そこへ、少年の頭蓋に弾丸が撃ち込まれた。
巣山が倒れたまま弾丸を放ったのだ。
雷撃が止んだ一瞬の隙に、水谷は巣山の元へ駆け寄る。
直ぐさま治療を開始するが、少年は2人に向かって右手をかざした。
そして、今までより大きな雷撃が放たれる。
シールドが間に合わない。
巣山は水谷の胸倉を掴むと、思い切り投げ飛ばした。
「巣山ぁ!!」
雷撃は巣山に直撃した。
「巣山!!巣山!!」
水谷が必死に呼ぶが、反応は無い。
少年は倒れた巣山にゆっくりと歩み寄る。
そしてとどめを刺そうと右手をかざした時、
「リジェクト!!」
水谷は巣山に一切の魔撃を拒絶するシールドを張った。
「ゴメンな巣山…すぐ治すから…!」
水谷の瞳に、もう迷いはなかった。
「アースクエイク!!」
水谷が叫ぶと、大地は形を変え少年に襲い掛かる。
「スターダスト!!」
連続で魔撃を放つ水谷。
上空に輝く無数の石が現れ、大地に埋もれた少年に降り注ぐ。
少年は竜巻を纏ってつぶてを弾き飛ばすと、水谷に向かって雷撃を放った。
「ミラーウォール!!」
水谷の前に現れた壁は雷撃をそのまま反射し、少年に撃ち返した。
少年はもう魔撃が効かないと悟ったのか、体の周りに竜巻を発生させた。
それは徐々に大きくなっていく。
「トルネード!!」
水谷も竜巻で相殺させようとするが、少年の竜巻に飲まれ結果更に大きくなってしまった。
水谷は溜息を吐いて呟く。
「使っちゃダメだって言われたんだけどな…」
目の前には既に巨大な竜巻があり、辺りはどんどん吸い寄せられていく。
それでも水谷はあまり動じていない。
そしてゆっくりと目を閉じ、詠唱を始める。
「蒼天の彼方、漆黒の礎、流星の音色を牙城に満たせ」
白い光が水谷を包み、空はだんだんと暗くなっていく。
「流浪の星を下天に刺し出し、万象以て砕屑に帰す」
詠唱を終えた水谷が魔撃を放つ。
「メテオストライク!!」
すると上空から巨大な隕石が現れ、次々と降り注ぐ。
普通、魔法を使うのに詠唱は要らない。
精神統一の為に詩を詠む者もいるが、それはほんの気休めだ。
水谷が使ったのは禁術。
星そのものを破壊しかねない、最強の魔法。
危険過ぎるこの魔法はルナから教わった。
ただし決して使う事のないように、と。
そして隕石の雨は見事竜巻を消し去り、直撃した少年も霧散して消滅した。
「巣山!!」
隕石の衝突によって、辺りの地形は豹変している。
水谷は土に埋もれてしまった巣山を何とか見つけ出し、直ぐさま治療を開始する。
「間に合え、間に合え…!」
巣山はもう虫の息だ。
シールドに守られていた為隕石によるダメージは無いが、それでなくても既に瀕死の重傷を負っていた。
残りの魔力を全力で込める。
「起きろよ巣山…頼むから…!!」
傷は完治したものの、巣山が目を覚ます事は無かった。
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