リゼル



それぞれが向かう先は

阿部と栄口がカーム
泉と沖がコンガ
花井と田島がリゼル
巣山と水谷がトトムス

となった。

準備を整え、持てる限りのアイテムを揃え各町の救援へ向かう。
三橋と西広は、各フライヤーが見えなくなるまで見送った。




「三橋、戻ろう。みんなが帰って来るまでに、何とか結晶を取り出してみよ?」




西広が声を掛ける。
だが三橋の反応が無い。
しかも、徐々に目が虚ろになってきている。




「三橋!!」

「ぅえ!?あっ、ゴメ…」




焦った西広が大声で呼ぶと、いつもの三橋に戻った。




「ごっ、ゴメ…聞ーてなかった…」

「イヤ…いいんだ。戻ろ、三橋」




時間が無いかも知れない。
西広は直感的にそう思った。












シルキスから東の1番近いリゼルに向かった、花井と田島。
全速力で飛ばした甲斐あってか、1時間足らずで到着した。

そこは、まさに惨劇。

町の原型など、ほとんど残っていなかった。
家は一軒残らず崩壊し、火の手が回ったのか辺り一面焼け野原と化している。


「ヒデェ……」


悲痛な表情で田島は呟く。


「…とにかく、生きてる人間を探そう」


既に白骨化した焼死体が、あちこちに散乱している。
生死を区別して人を探すなど、飛んだブラックジョークだ、と花井は思った。


「花井!あそこ!」


田島が指差した先は雑木林。


「今ちらっと人影が見えた!」

「…人だといいな」


とにかく確認する外はない。
2人は雑木林に向かう。




「誰かいませんかー!!」

「バッ…!田島!!」


到着するなり田島が急に叫んだので、花井は慌てて制止する。


「モンスターが出て来たらどーすんだ!!」

「戦えばいーだろ!どーせ倒さなきゃずっとこのまんまなんだぞ!!」


正論である。
惨劇の原因であるモンスターを倒さねば、いくら生存者を見つけた所で焼け石に水。
臭いの元は根本から絶たねば意味が無いのだ。

そこへ、雑木林から1人の女性が現れた。


「あんた達、何してんだい!早くこっちへおいで!」


40代くらいの女性が2人に手招きをしている。
花井は生存者が居た事にホッと胸を撫で下ろした。
2人は女性の元に駆け寄る。


「俺達シルキスから救援に来ました。他に生存者の方はいらっしゃいますか?」

「おぉ、そうかい、ありがとうね。町の生き残りはみんな林の奥に避難してるよ。2人共、モンスターが来る前に中へお入り」


2人は女性に案内されるままついて行く。
林の奥には岩が重なり合って出来た洞窟があり、町人はそこへ避難している様だ。
花井は直ぐに怪我人の治療に当たる。


「おばちゃん、ここを襲ったモンスターってどんなヤツだった?」


田島が尋ねると、襲われた当時の記憶が甦り、町人は皆恐怖に震える。


「そりゃあ恐ろしいモンスターだよ。10メートルはあろうかってくらい大きくてね、牛みたいな角を持ってる。そしてその怪力で次々に家をひっくり返して行くのさ」


余程怖かったのだろう。
モンスターの襲来を思い出して、小さな女の子が泣き出してしまった。


「10メートルくらいか…花井と2人で何とかなんな」


女性の話を聞いた田島は、あまり危機感を感じていない。
今まで大型戦艦より巨大なモンスターと対戦して来たのだ。
もはや10メートル程度ではあまり大きく感じなくなっていた。


「おばちゃん、そいつどこに居るかわかる?」

「あんた達、アレと戦おうってのかい?悪いこた言わない、やめときな。死んじまうよ」

「大丈夫ですよ。じゃなきゃ俺達、ここに来た意味無いっスから」


一通り治療を終えた花井が話に入る。


「それにおばちゃん、そいつ倒さなきゃずーっとこんなトコで暮らさなきゃいけないんだぜ!」

「この洞窟もいつ見つかってしまうか解りませんし、何とかしてみます」


2人が明るく言うと、女性も眉尻を下げて答える。


「そうかい…すまないねぇ。ありがとうね」

「おー!ゲンミツにぶっ倒してやる!!」


田島は拳を掲げ意気込んだ。












モンスターの居場所を聞いた後、花井は洞窟の最奥と入口の両脇に赤い棒を突き刺した。


「花井、何?ソレ」

「魔法自動維持装置。栄口と西広の傑作第3号」


田島はハテナマークを沢山浮かべているが、つまりは使った魔法を術者が居ない状態で持続させる装置だ。
飛空艇の自動運転の応用らしい。


「マ・シルド」


花井は洞窟全体にシールドは張った。
リミット付きではあるが、これで万が一モンスターの攻撃がこちらに届いてしまっても心配は要らない。


「さて、行くか」


2人は雑木林を抜けた所にある荒れ地に向かって歩き始めた。
モンスターはそちらの方向から現れたらしい。
その場所へは小1時間程で到着した。


「見事に何もねーな…」


辺りは草木も見当たらず、ゴツゴツとした岩だらけの土地。

これだけ見え透いた場所なら背後から急に襲われる事はないだろうが、油断は禁物だ。
一瞬の判断ミスが命取りになる。

花井はもう1つ道具を取り出した。
それは碧い手の平サイズの珠。


「今度は何だ?」

「小型魔力探知器。簡単に言えばレーダー」


西広が花井と巣山を見つけるのに使った道具の、リメイク版だ。
探知出来る範囲は狭まるが、花井でも扱えるよう改造してもらった。

周りの気配にも細心の注意を払いながら、2人は荒れ地を歩く。

そして30分程歩いた頃、レーダーの色が紅い危険信号に変わる。
強い魔力を持ったモンスターが近くに居る証拠だ。


「近いぞ…田島、気を付けろ…!」


田島の目の色も変わる。
この目はバッターボックスに入った時と同じ。
凄まじい集中力だ。

完全に戦闘モードに入った田島の視線が、ついに敵を捉えた。


「いた…!」


敵とはまだ200メートル程の距離がある。
だが、それでも突き刺さる様な魔力が2人に届く。
強さとは体の大きさではない。
冷や汗がこめかみを伝う。

そしてモンスターもこちらに気付いた様だ。
激しい雄叫びを上げ突進して来る。
しかし、2人が左右に分かれて戦おうとした時




モンスターが消えた。



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