聖地



古代種の都。

一行がアルテスに向かう気満々で飛空艇に戻ろうとしている所を、ルナが制止した。


「…待て。そなたらに渡しておく物がある」


そう言って立ち上がると、こっちだ、と言って更に森の奥へ歩き始めた。
一行はとりあえずルナについて行く。

そして半日程歩いた頃、巨大な神殿に到着した。


「此処は聖界の君臨者、ヘリオスの神殿だ」


ルナはそのまま中に入って行く。
全長10m程もあるルナがとても小さく見える程、巨大な神殿だ。

更に神殿の奥へ奥へと進んで行くと、宝物庫に到着した。
宝物庫といえど、そこに置いてあるのは金銀財宝ではなく、古代の武器や防具、果ては兵器や謎の道具まで保管してあった。

そして、これら全てがヘリオスのコレクションであったと言う。


「そんなん貰っていいんスか!?」

「構わぬ。好きに使うが良い」


皆がおぉ〜、と歓声を上げている中、一際目を輝かせている2人が居た。

西広と栄口である。


「これ!これスゲェ!!何で出来てんだろ!?」

「凄い…古代にこんな高性能な兵器があったんだ…」


2人共、職業柄である。
今ではすっかり板に付いてしまったようだ。
感激の余り顔が崩れている。


「あのさ、アルテス行くの1日だけ待ってくんないかな!?」


提案したのは栄口だ。


「ここにある物で、相当アイテム造れると思うんだ」


絶対役に立つから、と西広も言う。

どっちにしろ、西広がいなくては飛空艇の操縦者が居ない。
一行は神殿内部で一晩過ごし、翌日アルテスに向かう事にした。

そして翌日、完成したアイテム達を見て驚く。
2人は全員の武器と腕輪型の魔法防具に、乗り物まで一晩で造り上げたのだ。


「仕事早ェなー」

「さすがだねー」

「なー、この乗り物っぽいのいっぱいあるけど何?」


水谷がタイヤの無い大型スクーターに似た乗り物を指差して問う。


「これはね、魔力で動く2人乗りフライヤー。小回りも利くし、空も飛べるよ。三橋が居る所は飛空艇で入れない場所らしいから、途中からこっちに乗り換えて行くんだ」

「オレらの最高傑作!」


ニッと2人して得意げに笑う。
流石としか言いようがない。
1日待った甲斐はあった。

一行は準備万端で、改めてアルテスへと向かった。












そしてアルテス。

三橋は神殿の中央にある、小さな塔の中でうずくまっていた。

1ヶ月前、扉を開いたのかと迫られた後、少年はオルクスと名乗り、この世界の歴史と、自分の中にアルトの魂の結晶が入っている事を三橋に説明した。

神の御力を受け入れ、更に自我を保っている事実。
オルクスにとっては計算外の事だったが、三橋にとっては更に衝撃だった。

選別を終えて三橋は2ヶ月もの間眠り続け、この塔に移されてから1ヶ月が経過した。

アルトの結晶が入っている三橋の肉体を弱らせる訳にはいかないらしく、三橋は衣食住と更には美容まで全てが保証されている。

ただ、誰も三橋に話し掛ける事は無く、増して笑う事も無い。
オルクスに命じられた仕事をこなし、直ぐさま部屋を出て行ってしまう。

三橋は孤独だった。
時々訪れるオルクスが今や唯一の話し相手だが、三橋はどうにもオルクスを好きにはなれなかった。

時間が経てば経つ程寂しさは募る。
皆に会いたいと願っては涙を流す。
三橋はそんな毎日を繰り返していた。

すると三橋の居る部屋の扉が開いた。
オルクスだ。


「…思い出したか?」


まただ。
オルクスは会う度に同じ事を尋ねる。
三橋が精神的に弱ってしまえば、徐々にアルトの魂が勝り、アルトが三橋の肉体を支配すると読んでいるのだ。

三橋もそれを知っていた。
オルクスが自分を殺すつもりなのも、優しくしてくれるのは、アルトという人の為の肉体だからという事も。

優しい声色とは裏腹の、冷ややかな目が三橋は苦手だった。
オルクスの質問に、三橋はいつものように黙って首を振る。


「……そうか…」


いつもなら、オルクスは少しでもアルトの魂に呼び掛けようと昔話を始める。
だが、今日は少し違った。

一つ溜息をついて、そのまま出て行ってしまったのだ。

どうしたのかな、と少し気にはなったが、あまり考えるのは止めておく事にする。
あまり混乱すると、ボロが出てしまう。




本当はアルトの魂が目覚めつつあったのだ。




三橋は毎日夢を見るようになっていた。

その夢の中の世界は、この世のものとは思えない程に幻想的で美しく、架空の生き物とされてきたドラゴンやペガサス、ユニコーン、体が土で出来ている巨人など、様々な幻獣達が平和に暮らしていた。

夢の中にはオルクスも出て来て、自分を弟と呼ぶヘリオスの姿もあった。
アルトの記憶が、三橋の夢として表れたのだ。

三橋はぼんやり外を眺めた。
このままアルトの魂が目覚めたら、自分はこの世から居なくなってしまうのだろうか。
やはりもう、皆と野球は出来ないのだろうか。

三橋はただ静かに涙を流した。

そういえば、夢の中でも随分泣き虫だった気がする。

幻界では、そんな自分をいつも優しく宥めてくれた幻獣がいた。
顔は鬼のようだが優しい目をしており、体は紅く背中に炎を纏い、自分の5倍はあろうかという巨人。

名は、確か…








「イフリート───……」








直後、三橋の体は強烈な紅い光を発し、


空が、割れた。



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