ヘリオスの神殿、栄口専用作業室。
森に自生する豊富な薬草達のおかげで、栄口は今までよりも効果の高い回復アイテム作りに夢中になっていた。
「傷を治すのは一通り出来たんだけどな〜…」
うーん、と唸る栄口。
「水谷は魔力の最大値高いからいいけど…沖とか巣山は魔力尽きたら困るよなー…」
栄口は頭を抱えていた。
俗に言うHP回復アイテムなら薬草さえあれば作れるが、魔力の回復アイテムは薬草では作れないのである。
「そーだ!オレの魔力溜めとけばいいんだ!」
パッと頭上に電球を浮かべ、思い付いてからは早かった。
栄口は森にある湖の純度の高い水を魔力と馴染む様に更に精製し、自分の魔力を水に溶かし込んだ。
そうして出来上がったのがMP回復アイテム。
満足げに液体を瓶に詰めていると、作業室の扉が開いた。
「栄口ーメシ出来たぞー」
泉だ。
「あれ、もうそんな時間?」
「おー。もーみんな集まってんぞ」
「今日の当番誰?」
「花井と沖」
「良かったー…」
あからさまにホッとする栄口。
そんな栄口の様子に、泉はちょっとムッとして言う。
「悪かったな料理とか出来なくてよ」
実は前日の料理当番は泉と阿部だった。
そして2人が食卓に並べたのは、大量の魚の丸焼き。
オンリー。
森でサバイバル生活をしているのだから贅沢は言わないが、森にはもっと食材もあるし飛空艇には調理器具も揃っている。
少し工夫すればいくらでも料理出来る筈なのだが。
男の料理と言えば聞こえはいいが、栄養的によろしくない料理しかしない2人はその日から料理当番から外されたのである。
「オレ泉と阿部を組ませたのがまず間違いだったと思うんだ」
「仕方ねーだろクジ引きなんだから」
泉は思う。
栄口は案外失礼な奴だ。
「片付けるからちょっと待っててー」
そう言って散らかした作業台を片付け始める栄口。
「今日は何作ったんだ?」
栄口の手元を見ながら問い掛ける泉。
栄口はふふーん、と得意げな表情で出来上がったばかりの小瓶を見せる。
「新作!魔力回復アイテムー!!」
某猫型ロボットの真似をしながら小瓶を掲げる。
栄口のボケなのか何なのかは解らないが、新作が完成した事で随分と上機嫌な様だ。
「へー、エーテル?」
ボケはともかく泉が作品に感心していると、栄口は口をあんぐり開けて呆けている。
泉が何だ何だと思っていると、凄い勢いで栄口が反論する。
「違うよ!魔法の聖水だよ!」
「ハァ?MP回復アイテムはエーテルだろ?」
「違うって!泉ドラクエやった事ないの!?」
「オレFF派だもん」
「邪道!」
「どこが!」
「これは魔法の聖水なの!」
「エーテルだろ!」
「聖水!」
たかがアイテムのネーミングで揉める2人。
というか、今までのアイテムの名前は良かったのだろうか。
どうでもいい事で暫く言い合う2人だが、何故かどっちも譲らない。
そこで再び部屋のドアが開いた。
「オーイもーみんなメシ待ってんぞー」
あまりに遅い泉を呼びに来たのは阿部だった。
2人はキッと阿部に振り向く。
「阿部はMP回復アイテムっつったら何だと思う!?」
「エーテルだよな!!」
2人の剣幕に阿部は一瞬たじろぐが、話題はかなりどうでもいい。
「何、それで揉めてんの?」
阿部は呆れ気味に溜息をついた。
「魔法の聖水だろ!?」
「ぜってーエーテル!!」
バチバチと視線の火花を散らす栄口と泉。
阿部はそんな2人を見て、ふう、ともう1つ溜息をついて口を開いた。
「MP回復っつったらアレだろ。魔法のクルミ」
阿部の答えはあまりに予想外だった。
キャンキャン言い合っていた2人も思わず黙る。
が、
「クルミじゃねーじゃん!コレどー見ても!!」
「思いっ切り固体だろソレ!!」
「画面上では液体なんだよ!!」
ついに阿部まで交じっての言い争いに発展した。
仲良き事は美しきかな。
3人の幼稚な言い争いは、待ち兼ねた花井のゲンコツによって幕を閉じた。
*****
まさかの聖剣派・阿部氏。
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