VSドンメル一家



「てめぇえ!!!!」




栄口は男の胸ぐらに掴み掛かった。

突然の怒号。
初めて見る栄口の剣幕に泉も一瞬たじろぐ。




「あの町でどれ程の人が悲しんだと思ってんだ!!」




ポロフの老婆の、悲しげな顔が浮かぶ。




「許さねーぞお前ェ!!」




途端、栄口の体から蒸気が立ち昇る。
同時に首輪がパァンと音を立て砕け散った。

これには盗賊達も驚いたが、


「まァ待て。どーやったのか知んねぇが、大人しくしねぇとコースケの首輪爆破しちゃうよ?」


ん?とリモコンの様な物を見せつけ制止しようとする。
だが栄口は泉の首輪に手を当てると、蒸気は首輪を包み同じ様に砕け散った。

盗賊達はギョッとし慌てて武器を構える。
栄口は恐ろしい程の剣幕で盗賊達を睨みつけている。

そして飛び掛かろうとする栄口を、泉が止めた。


「泉!!放せ!!」

「バカ落ち着け!!武器もねーんだぞ!!」


栄口の持っていた武器は取り上げられ、今の2人は完全に丸腰だった。
それでも向かって行こうとする栄口に耐え兼ね、泉は鳩尾にボディーブロウをかました。




「い…ずみ…」




気を失った栄口を抱え、泉はアジトを逃げ出した。












翌朝。

宿を出発した3人は教会へ向かう。
クレイオを貸して貰う交渉をする為だ。
阿部はやけに自信ありげだが、沖は緊張の面持ち。
水谷は阿部に任せきっていて、何も考えていなさそうだ。
そして宿を出て教会へ向かおうとした、その時。




「阿部!!!」




栄口を抱えた泉が現れた。


「は!?お前ら、何で!?」

「話すから、とりあえず宿」


ここまで全力で走って来たのだろう。
息は上がり苦しそうだ。












「それだーー!!」


泉の話を聞いた水谷が叫んだ。


「そうだよ、ポロフで聞いた話だったんだ!!」


善良な異界人が教会の宝を持ち出す。
ポロフで聞いた老婆の話と、盗む訳ではないが、これから宝を持ち出そうとする自分達の姿が重なっていたのだろう。

あースッキリ、とでも言いたげな水谷を無視し、泉は続ける。


「ポロフで何があったか知んねーけど、その話聞いた途端栄口がキレちゃってさ。丸腰で向かって行こうとするから、仕方なく寝てもらった」


泉を除く3人はポロフでの一件がある為、なかなかにショックな話だったが、それ以上にキレた栄口が想像出来ない。
泉が手に負えないのだから、相当だろう。

4人は決して栄口を怒らせない事を誓った。




「でも…さ、ぶっちゃけ泉も解放されたんだし、このまま進むのもアリだよね?」


どーかな、と提案するのは沖だ。


「でもオレ許せねーよあいつら!一泡吹かせてやりたい!」


珍しく好戦的な水谷。


「同感。起きたら栄口も同じ事言うと思うぜ」


同意するのは泉だ。


「まぁ、クリストーンも手に入れなきゃだし、栄口の荷物も取り返さねェとな」


どっちにしろ舞い戻るしかねェな、と言うのは阿部だ。


出来れば争い事は避けて通りたい沖だったが、ポロフで世話になったお婆さんを思い、戦闘を決意した。


「じゃ、決戦は明日って事で」


一行はそれぞれ作戦を練った。












翌日、5人がアジトである洞窟に着いた時、盗賊達は相変わらずどんちゃん騒ぎをしていた。

金ヅルと人質には逃げられたが、さして気にしている様子は無い。
盗賊にとっては酒を飲み毎日を楽しく生きる事の方が大事なのだ。


今日、この日までは。








「たのもぉおーーーーーー!!!!!!」








なんと一行は正面から乗り込むつもりだった。




「お頭ァ!あいつら戻って来やしたぜ!!」

「ほぉう?いい度胸じゃあねぇか。適当に相手してやっか」

「へい!!」




盗賊団の人数、約50人。
対する一行は5人。
ノルマは一人頭10人。




戦闘、開始。












盗賊達が出て来ると、5人はバラバラに散った。
味方を攻撃しない為だ。
予想通り、盗賊達はノルマの数で追って来る。




沖の場合。


ある程度味方と距離を取ると、沖は振り返り両手を広げた。
すると沖の両手はブゥン…と光り出し、そして言葉を放つ。


「ロック!」


盗賊の数人に光が絡まり、沖の言葉通り手足をロックした。

更に残りの盗賊にブーメランを投げつけ、返って来た武器を器用にキャッチする。

沖の独壇場だった。




水谷の場合。


水谷はまだ近接戦闘用の魔撃を覚えていない為、敵と距離を取らねばならない。

取った戦法はヒット&アウェイ。

時々盗賊が投げて来るナイフはロッドで防御しつつ、1番得意とする光の矢を放ち、また逃げる。
地味だが1番安全な戦法だ。




栄口の場合。


栄口はとにかく走り回った。
木に飛び移っては走り、走っては飛び、ひたすら走った。
タンカを切った割に戦おうとしない栄口に、盗賊達がイラつきを覚え始めた頃、体の異常に気が付いた。

追って来た全員が宙に浮いたまま、体が動かなくなっていたのだ。


「動けないっしょ?」


盗賊達が固まったのを確認した栄口は1本の小瓶を取り出し、ニッコリと微笑んだ。

栄口は罠を張っていた。
目に見えない程に細いが、束になればジェット機すら止めてしまう糸を栄口の通ったルートに張り巡らせ、自分だけはうまく糸をすり抜け走り回っていたのだ。




「覚悟しろよ?」




栄口は小瓶を投げ、走り去った。
瓶が岩に当たって砕け、中の液体が空気に触れた瞬間、

巨大な爆発音が響いた。




泉の場合。


泉はまだ職業診断をしていない上に、武器も無く魔法も使えない。

だが素手で大男数人を倒した実績が語る通り、今現在は肉弾戦を得意としていた。
元々の肉体の素早さもあり、スピードは一行の中では断トツでトップだろう。
盗賊達が投げて来るナイフも器用に躱わし、確実に1人ずつ仕留めて行った。




阿部の場合。


一度盗賊の団体を1人で相手し、殺されかけた阿部だが。
今は狭い船の上で狙い撃ちにされる事もなく、ジュノでの戦闘に比べ人数は半分。
負ける理由など皆無だ。
阿部は大したダメージを負う事も無く圧勝を収めた。



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