栄口を見送った2人は、町の入り口から正面にある噴水で待機していた。
ここなら栄口が戻って来た時すぐ解る。
阿部の大剣カッコイイよね、俺も魔法使いてェよ、と他愛のない会話で暫く盛り上がっていた2人だが、ふと、町が静か過ぎる事に気付いた。
地図の印象も確かに小さな田舎町だが、こんなに人は少ないものだろうか。
微かに感じた違和感に、緊張が走る。
そんな2人の前に、1人の青年が現れた。
「貴方達、どこからいらしたんですか?」
「ジュノっていう港町です」
青年に問われ、ありのままを答える。
別段おかしな事は言っていない。
しかし青年は眉をしかめ、何かを疑う様に質問を続ける。
「その前は?」
「俺はカームから」
「オレはずっとジュノに居ました」
更にその前は学校だけどな、と内心思ったが、2人共口には出さなかった。
それでも青年は信用し切れないのか、じっと2人を見つめている。
何を疑われているのか知らないが、睨む様な青年の目付きと態度にだんだん不愉快になってきた2人は、無視を決め込もうとした。
だが、青年の次の言葉で沈黙を破る。
「…異界の者じゃないんですか?」
「知ってるんスか?」
顔を上げたのは水谷だった。
次の瞬間、青年の顔は強張り、そして勢い良く笛を鳴らし叫ぶ。
「異界の者が居たぞーーー!!」
それを合図に、それまで静か過ぎる程だった町が熱気を持ち、町人達が一斉に向かって来たのだ。
これには訳も解らず逃げるしか無かった。
「…っは、…はぁ…、な、何だったの…、あれ…」
「俺が…、知るかよ…!」
町中逃げ回り、建物の上に避難した2人の疲労は限界に達していた。
「栄口ともはぐれちまった…」
「うまく逃げてくれてるかなぁ…」
相手はモンスターではないし、栄口もある程度の武器は持っているので死ぬ様な事はないだろうが、やはり心配である。
「とりあえず休憩しながら様子を見よう」
同時刻の栄口。
彼もまた町人に見つかり、同じように追い掛けられていた。
路地の隙間に身を隠し、脱出の機を伺う。
「あいつらも追い掛けられてんのかなー…」
あっちは2人だし、たぶん阿部が何とかするだろうと予想するも、2人の身を案じる。
「とにかく合流しないと…」
意を決して栄口は走り出した。
更に同時刻。
ここはポロフの裁判所地下。
薄暗い牢屋の石畳にうずくまる少年が1人。
「何でこんな事に…」
今にも泣きそうな声で呟いた言葉は、地下の造りによく響いた。
「時間だ。出ろ」
看守に命じられ、腕にはガッチリと手錠が嵌められた。
30分後、この少年は処刑される。
「なんか騒がしくなってきた…?」
「広場の方に人が集まってんな」
高台から町の様子を観察していた阿部と水谷は、町の異変に気付いた。
「今なら栄口探せるかも」
顔を見合わせ、建物を降りようとしたその時。
「やっと見つけた!!」
まさに今探しに行こうとした張本人が現れた。
「無事だったんだな」
いくらか安堵し、阿部は胸を撫で下ろす。
対して栄口は随分青い顔をしている。
「…どしたの?」
「おまえら、…よくこんな高いトコ平気だね…」
今の自分ならこの高さから着地しても無事なのは解っているが、怖いもんは怖い。
栄口の神経は細かった。
「もうこの町出ようぜ。野宿になるけど、追い掛けられるよりマシだろ」
言って阿部が立ち上がる。
2人も同意し立ち上がろうとした時、広場で聞き捨てならない放送を聞いた。
──これより、異界の者の公開処刑を執り行う──
「「「ハァア!?」」」
思わず声を荒げる。
先程まで追い掛けられていた異界の者3人は合流している。
つまりこれから処刑されるのは、同じ様にこの世界にやって来て、既に捕らえられたチームメイトかも知れないのだ。
「ちょっ、どーすんの!?」
「どーするも何も助けるしかねェだろ!!」
「だからどーやって!!」
広場にはほぼ全ての町人が揃っているだろう。
あの群衆に飛び込むのは、いくら何でも無謀というものだ。
あーでもない、こーでもない、と言い合っている間にも罪人が処刑台に上る。
3人は目の前の真実を疑った。
「「「沖!!!!」」」
そう、地下牢に閉じ込められていた少年は、紛れも無く野球部チームメイトの沖だった。
「何で沖が捕まってんだよ!?」
「知るかそんなの!!」
「どーすんだよ!沖が殺されちゃうよ!!」
屋根の上で揉めている間にも、処刑人はゆっくりと沖に近付いて行く。
「〜〜水谷!何か魔法ねェの!?」
「うぅ〜、出来るかな…」
「何かあるんならやって!何でもいいから!!」
すぅ、と深く息を吸い込み、気合いを入れる。
「解った。他はよろしく!」
水谷は右手に左手を重ね、両手をぐっと伸ばし言い放った。
「スモッグ!!」
瞬間、紫色の煙が辺り一帯を包み込み、広場はパニックになった。
同時に阿部と栄口は処刑台に向かって屋根を一気に駆け降りる。
3人は混乱に乗じて、沖を連れ去る事に成功した。
そして沖を抱えたまま町を出て走り去ろうとした時、1人の老婆に呼び止められた。
「お入り。教会なら安全だ」
町中で追い掛け回された件もあって信用して良いものか考えていると、阿部に担がれたままの沖が口を開く。
「このお婆さんは大丈夫だよ」
沖の太鼓判もあって、4人は教会の中に避難する事にした。
「え〜っと…まず、助けてくれてありがとう。あと、久しぶり」
解放された沖が、はにかみながら礼を言う。
本来なら感動の再会といきたい所だが、生憎それ所では無かった為、タイミングを完全に逃してしまっていた。
「とにかく間に合って良かった。聞きてェ事は山ほどあるけどな」
はーーっと盛大に溜息をついて阿部は足を伸ばす。
ポロフに着いてから走りっぱなしだったのだ。
疲労は相当溜まっている。
それは水谷と栄口も同じな様で、2人共大の字になったりストレッチしたりしている。
「みんな疲れただろう。さぁ、お食べ」
先程の老婆がシチューを持って来てくれた。
疲労もそうだが、空腹も限界に近かった為、4人は有り難く頂戴した。
それから食後に老婆が用意してくれたお茶を啜りながら、かねてからの疑問を投げ掛ける。
「なァ、何で沖は処刑されかけてたんだ?」
それには沖も困惑気味に答える。
「オレにもサッパリ解んないよ…何もしてないのに…」
沖はしゅん、とうなだれてしまった。
「私が説明しようかね」
沖の代わりに説明を申し出たのは先程の老婆だ。
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