いざ、開戦



マグマが笑う祭壇に、色の無い三橋がただ座している。目の前に立つオルクスの額には、うっすらと汗が浮かんでいた。


「もう少し…もう少しだ…」


呼吸も徐々に荒くなる。高度な魔法を使い続けている為に、君臨者と言えど疲労が溜まってきている様だった。気を抜けば膝を付いてしまいそうになるのを必死に堪えながら、オルクスは魔法を掛け続けた。


「三橋!!」


その時、背後から声が届いた。花井と泉だ。真っ先に到着した二人は三橋の姿を見て愕然とする。まるで人形の様に固まってしまった三橋に、怒りと哀しみが溢れて来る。


「そこまでだ…三橋を返せ!!」


泉が怒号を飛ばすも、オルクスは先程の疲労感を一切見せずに薄く笑った。


「ふふふ…私の部下を突破してここまで来た事は褒めてやろう。だがたった二人で何が出来ると言うのだ?」

「二人だけじゃねーよ」


別の洞窟から、他のメンバーも姿を現した。花井の安堵と歓喜の声が上がる。


「巣山!沖!田島!」


喜びの余り駆け寄るが、メンバーが一人足りない。


「栄口は…?」

「………」

「戦線離脱。大丈夫。命に別状は無い」


上手く答えられずに黙ってしまった田島の代わりに、巣山が答えた。花井は命に別状は無いと聞いただけでも随分安心した様だ。


「さて、本番だな」


泉がオルクスを見据えて指を鳴らす。


「若干メンバー足りないけど…」

「あいつらなら絶対ここに来る。その前に俺達は…」

「お前をぶっ飛ばす!!」


田島の大声で一斉に攻撃が始まった。
初手は巣山。武器をマシンガンに変え、尽きる事の無い弾丸を連射する。次に距離を詰めた田島が正面から槍を叩き降ろした。オルクスはシールドは張らず、その場から横へと飛んで躱した。そして上空で待ち構えていた沖が魔撃を放つ。


「シャイニングボルト!!」

「ミラーウォール」


オルクスは最小限の力で魔壁を出現させた。しかも半円柱型に張ったシールドは魔撃を分散させ、撃ち返した魔撃を沖に命中させた後、10時の方向で待機していた花井にも向かった。


「チッ…、マ・シルド!!」


仕方なく魔壁で防御するものの、オルクスは反撃と同時に距離を詰め、既に花井の懐まで侵攻していた。オルクスは表情一つ変えず、魔撃の体勢を取る。


「サンダーボルト」


この至近距離では防ぎようが無い。花井は咄嗟に身を捻り、体の中心への命中を避けた。しかし左腕だけは間に合わず、栄口が作った義手はいとも簡単に破壊されてしまった。


「花井!!」


倒れる花井に声を荒げ、次に向かったのは田島だった。凄まじいスピードで距離を詰めると、突きを連射する。オルクスは後退すると右手に炎を纏った。


「フレイム・コート」


オルクスは連射される田島の槍をいとも簡単に右手一本で止めてしまった。すると纏った炎が槍を覆い尽くし、炎上する。武器の無くなった田島は為す術も無く、腹に強烈な拳打を喰らった。一度腹をえくられ、内蔵が全て完治していない田島はその場で吐血し、一撃で戦闘不能となった。


「野っ郎!!」


田島の敗北に泉が怒る。持ち前のスピードで懐まで詰め寄ると、拳打を連発する。


「フレイム・コート!!」


咄嗟に花井が補助魔法を掛けると、泉の両手足は炎の蛇に包まれた。炎の拳の連撃にオルクスも片手では対応しきれなくなったのか、今度は左手にアクア・コートを纏った。


「なっ…!?」


両手で違う鎧。しかも一部分だけ。全身に纏うには洞窟内の水分が足りなさ過ぎているが、片手だけなら充分に効果を発揮している。沖も花井も、水谷でもこの使い方は出来ない。実力の差は歴然だった。


「ファイヤーボール」


アクア・コートによって炎の鎧が無効化した泉は、無数の炎の塊の直撃を喰らい、地面に平伏した。


「泉!!」


巣山は武器をハンドガンに変えると、噴火の危険を顧みずパルス砲を放った。しかしその攻撃も、オルクスの魔壁によって無効に終わる。すると背後からブーメランが飛んで来ていた。オルクスは寸での所で躱すが、足元に違和感を覚える。そしてブーメランをキャッチした沖が用意していた魔撃を放った。


「ライトニング!!」


地面に張られた電気の網がオルクスを捉え、沖の合図で発動した。電撃は柱状に立ち上り、ようやくオルクスにダメージを与えられたかと思えた。
だが、オルクスは突然沖の背後に現れた。


「アブソーブ」


先のダメージによって傷を負った沖から、オルクスは信じられないスピードで沖の魔力を吸収していった。足の魔力伝達回路に使っていた魔力まで吸い尽くされた沖は自分の体を支えられず、その場に倒れた。


「サンダーコート!!」


左腕を破壊された花井が電気の鎧を纏い、巣山にも同じ鎧を与えてスピード強化を図る。どの道強力な魔撃は使えない。至近距離まで近付いて直接ダメージを与えるしかない。花井は武器での応戦を試みた。
サンダーコートを纏う事で格段にスピードが増した二人はオルクスに懐に向かって飛び込んだ。花井はフレイルを、巣山はパルス砲を同時に撃ち込む。


「アースクエイク」


するとオルクスは両側に岩石の壁を作り出した。武器も電気を纏っている為、岩に攻撃を仕掛けてもほぼ無効に終わる。オルクスはそのまま岩石を操り、二人の手足を岩石で覆った。

これで5人共が一度に戦闘不能になってしまった。しかもオルクスは力を最小限に、比較的簡単な魔法しか使っていない。実力、経験値、全てオルクスの方が圧倒的に上だった。
オルクスは無表情のまま三橋に向き直る。


「…直にアルトが目覚める。そこで大人しく見ていろ」

「そんな事させない」


オルクスが再び祭壇に目を向けた時、水谷が姿を現した。



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