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  十年願







「はーい、それじゃあみんな配った短冊にお願い事書いて飾って下さーい!」



今日七月七日という日を祝して毎年ボンゴレでは内輪だけの小さな七夕パーティーが催される。

勿論イタリアに七夕の習慣は無いのだが、血生臭い世界に身を置く部下達に、この日だけはボスの為ボンゴレの為でなく、自分自身を思い願って過ごして欲しいというボンゴレ十代目ボス、沢田綱吉の僅かながらの願いからだった。




パーティーもお開きになり、誰もいなくなった会場に綱吉は一人訪れていた。


「あ、この緑の派手派手なやつランボのだ。……ふはっ、ガールフレンド百人出来ます様にって、小学生かよ」


綱吉は誰もいなくなったこの会場で、皆の願いを乗せた大きな笹の葉を眺めるのが好きだった。
笹を飾る色とりどりの短冊、それに込められた様々な想い。
皆の為にと発案したのも本心だが、綱吉自身、大切な人たちの願いを守り抜く覚悟を再度心に刻み、幸せを願う大事な日だった。
そして、もう一つ。

“ボンゴレの繁栄”

各々に好きな願い事を書いている中に一つだけ、こんな日にまでもボンゴレの事を願う短冊が一枚。


「はは、隼人は変わらないなぁ」


赤く彩られた紙に書かれた十年間変わらないそれは、綱吉の部下にして有能な右腕、獄寺隼人のものだ。
獄寺は根っからのマフィアで、綱吉がボンゴレ十代目ボスになる事を誰よりも望んだ人物。
そして誰よりも近くで綱吉をずっと支えてくれていたのも獄寺だった。
そんな彼の事だ。
ボンゴレの繁栄=綱吉の為だと思って書いているだろう事も綱吉は知っている。
しかし、全くもって獄寺らしいその願いが、彼の本当の願いでは無い事も綱吉は知っていた。


「じゅ、じゅうだいめ?」

「やぁ、隼人」


会場を訪れた獄寺は先客を確認すると、慌てて右手に持っていたものを後ろ手に隠した。


「な、何故十代目がここに?」

「んー?今日は七夕だからね、願い事をする為と、」


そう言葉尻を切った綱吉は挙動不審な獄寺の元に歩み寄って、言葉を続ける。


「素直じゃない誰かさんの願いを聞き届ける為、かな」

「っ!」


獄寺の本当の願い、それは ー


「オレたちは…少なくてもオレは、絶対にきみを離さない」

「ーーっ…じゅうだいめっ…知って…」


十年前の今日、綱吉は何も知らない獄寺に織り姫と彦星の伝説を話した。
とても仲が良く愛し合っていた二人は、それ故に仕事を疎かにしていた為神の怒りに触れ、離ればなれにされてしまい一年に一度、七月七日の日に唯一会う事が出来るのだ、と。
そんな話を聞いた時の獄寺の顔が綱吉は今でも忘れられない。
切なそうな、けれども何かを決心した様なそんな表情だった。
その当時は獄寺の真意がわからなかったが、今ではわかる。
それから毎年毎年この日に獄寺が何を願っているのかも。


「うん。そして今日も自分の短冊をすり替える為にここに来たって事も知ってる」

「うっ……」

「全く隼人は素直じゃないんだから」

「す、すみません…」


そう言いながらも綱吉はひどく幸せそうな笑みをこぼす。
そして綱吉は真っ赤になって俯いてしまっている右腕を抱きしめた。
獄寺のあの時の表情の意味も、素直に願い事を書けない理由も、全部全部オレたちの為なのだと、そう思うと愛しさが溢れて止まない。


「ね、隼人。さっきも言ったけど、オレは誰がなんと言おうと絶対隼人を離さないよ。例えそれが神様でも」

「ーっ……はい…」


神だなんて、実在して本当に立ち向かってきたら適うものでは無いのかもしれないけれど、それでもそう言う綱吉の気持ちは本物だった。


「だからもうこんな悲観的な事書かないの!どうせ同じ様な意味なら"ずっと十代目と一緒にいられます様に"とか"十代目と結婚出来ます様に"とかさ!」

「………ふふっ、はい。次からはもっと貪欲に十代目を貪る願いをする事にします」

「ははっ、うん!どんな事でもいいよ。隼人の願い事は織り姫でも彦星でもないオレが叶えてあげる」


それから獄寺が隠していた最後になるであろう願いが綴られた短冊を二人で笹に飾り、寄り添いながら会場を後にした。




"奴らの様になりませんように"

十年間願われたそれが、叶うと知るのはまだまだずっと先の話だ。








end 

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