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  魔法の日







「も……限界…」



硬すぎず柔らかすぎず座り心地抜群な革張りの椅子に座って、滅多にお目にかかれない様な高級感漂うアンティーク調の机に向かい何時間経ったんだろう…。

それなのに今オレの視界に映るのは、綺麗にバランスをとりながら積み上げられている書類の山脈。


「はぁ………」


捌いても捌いても減るどころか増えてく一方の仕事量にいい加減うんざりして、溜め息しか出てこない。

時計に目を向けると、日付が変わるまであと30分足らずという時刻にまた溜め息がでる。

よい子は寝静まっているだろうこんな時間に、仕事をしているのはオレだけじゃない訳で…。
超直感というか嫌な予感というか日常というか、きっともうすぐ美人で可愛いオレの恋人がこの部屋を訪れる筈だ。


「十代目、失礼致します」

「………やっぱり…」


無情にもまた、オレの机の上に書類の山を築きに。


「? 何がやっぱりなのですか?」

「ううん何でもない…。隼人、今のオレには君が小悪魔に見えるよ」

「…はい?」


だってさ!この数日間、最愛の隼人がオレの所に持ってくるものといえば、恋人ならではの甘い空気でも、とろける様な睦言でもない、いっそ資源の無駄じゃないかと思われる程の書類だけ。


「もう無理限界!隼人が足りない!仕事出来ない!!」

「……また…貴方は何を仰っているんですか」

「だって最近全然隼人に触れてないキスもしてないえっちだって…」

「仕事中です!」


オレの言葉をすかさず遮るストイックな隼人。
いや、仕事とプライベートを完璧に割り切る君の気持ちはわかるし、尊敬はしているんだけどね、オレだって結構頑張ったと思うんだ。
なので今回は折れません!


「やだ!隼人がご褒美くれないともう動けないし!君がそのままだとオレもこのままだよ?」

「なっ………」


オレの言葉を聞いた隼人は、一瞬濃い皺をより一層濃くさせた後俯いてしまった。

……ちょっとやりすぎた…かな…?
で、でもオレたち恋人同士なんだし、キスくらい…っ


「全く…十代目には適いませんね」

「えっ!?じゃあ…っ!」


顔を上げた隼人は怒りでも呆れでもない、オレだけが知ってる妖艶な笑みを浮かべていて、ぞくりと甘い感覚が背筋に走る。


「じゅうだいめ……」

「えっ、え…はや、と?」


隼人は自分のネクタイを緩めながら近付いてきて、その笑みを携えたままオレの膝の上に乗ってきた。


「当分の間俺が足りないだなんて思わない様に、今日は十代目のを搾り取って差し上げますよ」

「なっ…!?」


いつになく積極的かつ大胆な隼人に、そりゃあもう煽られまくる訳で。
オレの限界まで細く伸びきっていた理性の糸は一瞬で切れた。


「はやとっ……!!!」

「なんて、嘘です」

「えっ………」


本能のままに押し倒そうとしたオレをアッサリ交わした隼人は、いつの間に整えたのだろうスーツをキッチリ着込んでいた。


「はやと…?」

「本日はエイプリルフールですからね。唯一俺が貴方に嘘をついても許される魔法の日です」

「え………えぇえええええっ!!!???」


そう言う隼人の笑顔は本当に綺麗……なんだけど…っ!!
ちょ、嘘って!?
何!?どこからどこまでが!?
もしかして書類を持ってきたところから…


「言っておきますが、書類は全て本物ですので迅速にお目通しの方お願い致します」

「………………」


…何コレ、あんまりじゃない?
気持ちとか身体とか、色々とやるせないんですけどっ!?


「…十代目の明日のご予定は全て午後からですので、明け方までに全て終わらせて頂ければ、今度こそ十代目のお願いを聞いて差し上げます」

「……とかなんとか言ってオレにやる気を出させて、また嘘でしたーってオチなんじゃないの?」

「………0時を過ぎれば魔法は解けるんですよ」

「え?」


隼人の言葉に時計を確認すると、時刻は0時をわずかにまわっていた。

って事は今日は2日な訳で……エイプリルフールじゃ…ない…っ!?


「隼人っ!!」

「俺が眠ってしまう前に、終わらせて下さいね!」


そう言った隼人は耳まで真っ赤にしながら足早に執務室を出ていってしまった。


「隼人………」


あんな事言ってたけど、オレが何時まで掛かろうが絶対に起きて待っていてくれる。
それが昔から変わらない、オレを最も大切にしてくれる隼人という人なんだ。

そう思うとさっきまでのやるせない気持ちなんてキレイに無くなって、仕事へのやる気と隼人への愛しさしか湧いてこない。

きっとソワソワしながらオレを待ってくれている可愛い恋人の元へ一刻も早く向かう為に、


「死ぬ気で終わらす!」


だから魔法の日だか何だか知らないけど、あんな可愛い嘘をついてオレをやる気にさせた責任はとってもらうからね?












「隼人もなかなかやるじゃねぇか」

「なっ、G!テメェ見てたのかよ!?」

「あぁ、一部始終全て見させてもらったぜ」

「〜〜〜〜〜!?」

「でもよ、キス位で仕事してもらえんなら安いもんじゃねぇか。何でしねぇんだよ?」

「…………が…………だよ…」

「あ?」

「俺が我慢出来なくなるんだよっ!!!」

「…………(素直じゃねぇ…)」








end 

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