San Valentino |
「獄寺君おはよ!」 「お、おはようございます!」 「今日も寒いねぇ〜」 「そ、そうっすね!」 と……とうとうきやがった。 San Valentino。 手作りをプレゼントすると決めてから、不本意だがGに指導してもらい漸く出来たバレンタインチョコ。 後は十代目に差し上げるだけ。 だが…… 「獄寺君どうしたの?」 「いっ、いえ!」 わ、渡せねぇ……! イタリアは贈り物をして愛を囁くなんて日常茶飯事だが、日本は違う。 ハズいっつーかなんつーか… しかも日本では女共の行事だ。 男の俺がチョコなんて渡して、果たして本当にキモがられねぇだろうか…… 「ん?なんか獄寺君、甘い匂いが…する」 「っ!?」 いや、大丈夫だ。 十代目がそんなお人じゃねぇっつーのは、誰よりも俺が一番よく知ってんじゃねぇか。 十代目に差し上げるんだ! 「十代目!あ、あのっ!!」 「ん?」 「きょうはっ……ーー」 「お!ツナに獄寺!おはようなのな〜」 「あ、おはよう山本!」 「……………」 「お?獄寺どうしたぁ?」 「……こんの…野球バカがぁあっ!!!」 朝、あの空気が読めねぇ野球バカに邪魔されてから今だに十代目にお渡し出来てないままだ。 休み時間の度に包みを持った顔も知らねー女共が大群で押し寄せてきやがるわ、昼休みは委員会だのなんだのと先公の野郎に十代目が呼び出されるわで、なんだかんだ渡せないまま、放課後になっちまった…。 だが野球バカは部活があるし、女共もいい加減諦めたのか、今呼び出された奴を最後に校内にはもう姿はねぇ。 今度こそお渡しするんだ。 十代目に、俺の気持ちを。 「じゅうだい…っ!!」 女に呼び出された俺を教室で待っていて下さっている十代目の元に行くと、十代目以外誰もいないと思っていた教室にはもう一人いた。 笹…川…… しかも笹川は手に何かの包みを持ってる。 今日は世界中で愛を囁く事を許された日だ。もしかしなくても笹川が持ってるものは一つしかねぇ。 ……やっぱり十代目には笹川がお似合いだと思う。 男で、可愛げがなくて、十代目よりも背が高い俺なんかよりもずっと、貴方に渡すチョコを持つのに相応しい。 そう思うのに、 「十代目っ!」 「っ!?獄寺君!?」 咄嗟に声が出た。 そっちじゃない、俺を見て下さい。 でもそんな事言える訳もねぇ。 何も言えず黙ったまま突っ立っていると、笹川が何か十代目に告げてから、 「それじゃぁ獄寺君、頑張ってね!」 「……は?」 そう言って教室を出て行った。 ……頑張る…?何をだ? 「獄寺君、」 「あっ、は、はい!」 笹川が言った事に気を取られていると、いつの間にか近づいていた十代目の顔が目の前にあった。 「俺の事呼んだよね?なに?」 「あ…いえ、それは…その……」 いくらチョコを渡したくても、俺の事を見て欲しくても、あの光景を見た後では流石に渡せねぇ… 「いえ…すいません何でもないんです。帰りましょうか」 「…………」 そう言うと、一瞬十代目は怖い顔をされた。かと思うとすごい勢いで顔を引き寄せられキスをされる。 「んっ…ふ、じゅ、ら…いめ…」 情けねぇ事に、十代目とのキスは未だに慣れない。十代目のと俺のが交わってるってだけで、頭が真っ白になって溶けちまうんじゃねぇかって思う。 暫く身を任せていたら、唇を離された十代目と目が合った。 「獄寺君、俺に何か言う事あるんだよね?言って?じゃないと離さないよ?」 大空の様に透き通っていて何もかもを飲み込み、何もかもを見透かす様な目。 俺はこの目に弱い。 「……今日は…valentine dayです」 「うん」 カッコ悪りぃ姿なんて見せたくねぇのに、 「十代目は本当に素晴らしい方です。お優しくてシブくて…そんな十代目を女共が放っておく訳ありません」 「…………」 十代目を困らせるなんてぜってぇしたくねぇのに、 「…でも嫌です」 「え?」 「十代目にチョコを渡すのも、愛を囁くのも、俺だけじゃないと嫌ですっ…!」 止まんねぇ。 「わかってます、俺なんかより十代目にお渡しするチョコを持つのは笹川の方がどう考えても相応しいと!それでも嫌です!」 「ごくでらくん…」 「十代目には、俺のだけを受け取ってほしいんです!!」 ………言っちまった…。 ありえねぇなんだこれ…。 十代目に俺なんかが、こんな一方的に気持ちを押し付ける様なマネして、最低じゃねぇか。 恋人としてだけじゃなくて、右腕としても失格だな。 十代目のお顔を見るのが怖い。 怒ってらっしゃる?それとも呆れて… 「はは、安心したぁ…」 「………え?」 あ、安心…? 最悪な展開を想像していた俺にとって、予想外な十代目の言葉に顔を上げると、今度は優しく引き寄せられ再びキスをされた。 「ん……じゅうだい、め…?」 「俺さ、実を言うと獄寺君からのチョコ、期待してたんだ。でも、何か言いたそうにはしてるんだけどいつまで経ってもチョコくれないしさ。そしたら獄寺君にとってバレンタインって大した行事じゃないのかなって、だんだん不安になってきちゃって」 「じゅうだいめ…」 「でも、やっぱりあるんだよね?俺に、バレンタインチョコ」 「…っ……はい」 「ありがとう!すごい嬉しい!!」 まさか十代目が、俺なんかのチョコを待っていて下さったなんて… 「それに俺、誰からもバレンタインチョコもらってないよ?京子ちゃんのは断った。もちろん義理だけど、それでもやっぱり俺は獄寺君のだけが欲しいから」 部下で男で右腕で、そんな俺からのチョコを欲しいと言って下さる十代目は、やっぱりお優しくてシブくて格好良くて、 「大好きです…じゅうだいめぇ……」 「うん!俺も大好きだよ獄寺君!」 「開けていい?」 「は、はいっ!」 そう言うと喜んで下さっているのか、十代目は笑顔で包みを開けていく。 しかし外包みを開けた瞬間十代目の手が止まった。 「え……もしかして、手作り…?」 「は、はい!あ、で、ですが安心して下さい!ちゃんとGの野郎に毒味させましたから!」 …とは言いつつ、不安で仕方ねぇ…。 十代目はお母様の美味しいお料理で舌が肥えているだろうし、何より俺は、あのアネキと血が繋がってるしな…。 「ふぅん…あれ?このカード……あ!生チョコだ!食べていい?」 「ど、どうぞ!」 先ほどの俺の返答に、十代目は顔を苦くされたが、中身を見た瞬間顔が綻んだ。 そして一つ摘んで口に運ぶ。 「…………………」 「…………美味しい!」 「っ!!本当ですか!よかったです!!」 よ、よっしゃあっ!!! 十代目に美味しいと言って頂けた! 「あぁーあ、折角の獄寺君の手作りチョコを食べれるのは、世界で俺だけだと思ったのに」 「え…あ、えと、すいません!」 「…なんて、少し悔しいけど、Gさんじゃ仕方ないよね。教えてもらったの?」 「はい…」 「すごく美味しいよ!獄寺君の手作りが食べられたんだもん、Gさんにも感謝しないとね!」 十代目…… 「実は…もう一つ、Gに教えてもらった事があるんです」 「ん?」 俺は失礼かと思ったが、十代目がお持ちになっている自分が作った生チョコに手を伸ばす。 「え?獄寺君?」 俺の行動の真意がわからないのか、きょとんとしたお顔の十代目を見ながら手にもったチョコを口にくわえる。 そして、 「ごく…っ!!んっ…ふ…」 「…はぁ…んん…」 十代目の唇に自分のを重ねる。 くわえていたチョコを十代目の口の中にいれ、お互いの熱で溶かしていく。 すると元々柔らかい生チョコはすぐに溶けて、口内中が甘くなる。 「ふぁ…ん、…美味しい…ですか?」 G曰く、この方法が一番うまく食えて、気持ちが伝わるらしい。 最初聞いた時は、んな恥ずかしい事死んでも出来るか、と思ったが、今は羞恥より何より十代目に伝えたい。 「ん……うん、甘くてすごい美味しい。もっと」 「はい…」 また自分の口にくわえて十代目の口に運ぶ。 そして甘いチョコを分け合う。 それを何度も繰り返す。 「はぁ…ん、十代目…好きです、大好きです」 「っ!!…俺も…獄寺君が大好きだよ。ね、もっとチョコと獄寺君、ちょうだい?」 「はい…」 お渡ししたチョコが無くなるまで、俺と十代目は時間も忘れて甘いチョコに浸かっていった。 「そういえば、チョコと一緒に入ってたメッセージカード、あれイタリア語?なんて書いてあるの?」 「っ!?そ、それは…秘密…です」 「えぇー!なんでだよー!」 「もうこれ以上伝えるのは恥ずかしくて無理っす…」 「えぇ〜」 "vicino a te, Il mondo sembra sempre bellissimo." ー貴方の傍にいると、 世界はいつでも美しくみえますー |
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