指先に香る

「随分手が荒れてるな」
「へ?」

突拍子もなく発せられた言葉が耳に届き、顔を上げて見れば二宮がペンを滑らせる私の手を見ていたことがわかった。
寒くなって乾燥し出すと早い段階でささくれとかが出来てしまうのだが、今年も例に漏れず手が荒れ始めていた。

「ハンドクリームはないのか?」
「まだ買ってなかったな〜・・・買いに行かなきゃ」

毎年気に入って買ってる銘柄があったが、今年はまだ見てないな。
期間限定の香りとかで見かけたらいくつか買って溜めておくのだが、調べてみればまだ今年は発売前だった。
しゃーない、他のやつでも買って代用しようか。などと思っていたら手を取られた。

いつの間にか二宮が使ってるであろうハンドクリームが机の上に乗っていて、それをわざわざ塗り込んでくれているのだと気づいたのは少し遅れてから。
なんというか、なかなかシュールな絵面だと思う。

「・・・なんだ」
「いや、二宮がハンドクリーム塗ってくれる光景って面白いなぁ、って」
「片手だけでやめるぞ」
「すみません、両手でお願いいたします」

深くため息を吐きながら、貸せ、とぶっきらぼうに手を出してくれる。
もう片方の手も差し出すと同じようにハンドクリームを塗り込んでくれる。
普段は取っ付きにくいくせに優しい手つきで労わるように塗ってくれるのはなかなかにずるい。

「これいい香りだね」
「桜のやつだ」
「え、可愛い・・・二宮ってそんな可愛いハンドクリーム使ってるの?」
「・・・」
「すみません、睨まないでください」

こちらとしては意外な一面発見!って感じだったが、不機嫌そうに深くなる眉間のシワに思わず謝る。
でもやっぱり意外だなぁ、二宮が可愛い香りのハンドクリームを選ぶの。

「・・・やる」
「え、いいの?」

手元に置かれたハンドクリームは今使ってくれたやつだ。
うん、やっぱりいい香り。使い心地も悪くない。
早速お気に入りに入ったハンドクリームを手に取ればまだまだ中身は入ってそうだった。

「これまだ中身たくさんあるみたいだけどいいの?」
「元々やるつもりで買ったやつだ、気にするな」

ポカン、としている間に二宮は机の上の勉強道具をまとめていく。
昼遅れるぞ、と言われて慌てて片付けて教室を出たら二宮ははるか先を歩いてる。
いや、ずるい。ずるい!ずるい!!

心臓がバクバクするのも、顔が赤いのも走ったせいにして耳が赤くなってる二宮を追いかけた。



指先に香る


(お気に入りのハンドクリームが変わったことは言うまでもなく)




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