Birthday of the brand new future.

今年もこの季節が来てしまったが、とお誕生日おめでとうございます何て書かれたショップのダイレクトメールをみて思う。
お誕生日おめでとうございます、とか祝う体を保ちながら、実際は10%OFFになるだとかその程度でさぁ足を運んでお得にお買い物して下さいと言わんばかりだ。

そういえば最近忙しくて服や雑貨を買えていない。
流石に何年も同じ服を仕事着として着回すのも気が引けてきたところだ。

よし、次の休みは買い物に出かけよう。
働き詰めでお金を使う暇のない社畜の貯金をここぞとばかりに使ってやる、なんて決めながらカレンダーの次の休みに目印を赤いマーカーで書き込んだ。

しかし人生とはなかなか上手くいかないもので、午前中に職場からの電話でたたき起こされたかと思うと、まさか午後から数時間会議に出てくれときたのだ。
ふざけんな、休暇は社会人の権利であり義務だぞ、なんて思うくせに私は結局職場に着いてしまったのだ。
挙句仕事を断りきれず、会議後も仕事を追加でこなし終わる頃には日が沈みかけていた。

今日は買い物して、出来たら映画も見たかったし、あとスイーツも食べ歩きたかったなぁ、なんて思いながら退勤処理を行い会社を出た。
すると目の前に黒塗りの車と見慣れた顔が待っていて、向こうもこちらに気づいたのか吸っていたタバコを持ち歩きの灰皿に入れて手を軽く降った。

「克己?克己も社畜してたの?」
「まさか」

だよね、仕事残すタイプじゃないし、仕事を押し付けられるタイプでも無い。
だとしたらおそらく我社の営業のエース様は休日にも関わらず仕事と同じようにスーツで決めているとは、なかなか悲しい休日を過ごしてると見えた。

早いけど夕食でも、と助手席のドアを開けられる。
断るな、とでも言いたげでまぁ今日の予定は全部潰されたわけだから断る理由もない。
招かれるまま座りなれた助手席に座ると運転席に克己が座り、エンジンを掛けた。

「で、なんかあったの?」
「食べながらゆっくりと思ってたんだけど?」
「問題の先延ばしなんて珍しい、余計気になる」

克己は自分にとって有利じゃない限り問題の先延ばしにはしない。
相手に時間を与える行為、と言うよりは自分のために先延ばしにしているように感じたのは間違いではなかったようで克己は信号で車を停める度小さく息を吐き出した。

「引き抜きの話があった」

やっと覚悟を決めてそう口にしたのは4回目の赤信号だった。
珍しい話じゃない。克己の営業実績や営業の仕方などは他社からも一目置かれていたし、何度も引き抜きの話はあった。
しかしこうして引き抜きの話をされたのは初めてで、少しだけ息が詰まった。

「そっ、か。どこ?引越しするとか?」
「三門市だよ。まぁ市外にも営業に行くことにはなるだろうけど、住まいは三門市に置くことになる。」

なら遠距離になるか、別れるか、だ。
三門市はそう遠くはないが、私はこの通り社畜一号として認識されてしまったし。付いていくのは難しいだろう。
というか、ついて行っていいのだろうか。
克己とは長い付き合いだけど、ココ最近はちゃんとデートしたりも無かった。
正直、自然消滅したのかなと思ってしまうくらいには互いに忙しかった。

きっちり別れてしまうのだろうか、だとしたら三十路手前で仕事しか取得のない彼氏無し結婚予定無しになるのか。
ってなると、また遠慮なしに仕事を押し付けられるんだなぁ。

「結婚しよう」
「・・・・・・・・へ?」

なんだその間抜けな顔、と横目でちらっと見てすぐに前を向く。
アクセルをゆっくり踏んで車が走る。外はいつの間にか夜だ。

「ついて行っていいの?」

弱気なんて珍しい、と先ほどのお返しとばかりに言う克己は確信を得ていた。
現に、克己の車はディナーを楽しむお店の駐車場ではなく女の子が一度は憧れる某アクセサリーショップの駐車場に綺麗に止まっている。

願望が未来に変わる瞬間を今体験しているのかもしれない。
だからこそ少しばかり怖くなった。
本当に私でいいのだろうか、なんて考えもしなかったことだったのに、いまさらそんなことを思うのだから結構弱っているのかもしれない。

「ついてこい、とか言うべきなんだろうけど。
名前に歩いていてほしいのはいつだって隣だ。ついてこいとは言わない、一緒に来てほしい。」

それなら、だとしたら、私もおんなじだ。

「一緒がいい、一緒に居たい」
「・・・知ってたよ」

とりあえず目に見えた事実から作りに行こう、と車を降りる。
ショップのロゴが見える店構えは白を基調にどこか神秘的な空気を感じる。
心臓が止まりそうだった。

「引き抜き先に行こうと決めたのが今さっきだったからまだ買ってないんだ、一緒に選ぼう」
「選んでいいの?」
「名前の好みは把握してるけど婚約指輪になると自信がない」
「なんかかっこつかない克己珍しい」
「おもしろがるな」

こつん、と指の節で軽く小突かれるが、全然痛くないしむしろ愛おしさが増した。
いつの間にか休日出勤に駆り出されたむなしさなどどこかに飛んでしまっていて、いらっしゃいませ、と柔らかく出迎えられた店内で幸せってこんな感じなんだと思いながら頬が緩んだ。





Birthday of the brand new future.



(結婚するんで退社します、と言い放った時の上司の顔が面白おかしかったことはおそらく一生忘れない。)




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