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慶に初めて負けた時、私の見立ては正しかったのだと痛感した。
おそらくこの敗戦以降、私は慶に勝つことが難しくなって、おそらくずっとその先勝てなくなってしまうのだろう。と忍田さんに一緒に弟子入りしたあの日から感じていた。
それでも、それでも悔しかったのはまぎれもない本心からだ。




「有馬隊ってA級なのになんか印象薄いよね」
「A級って言っても下位でしょ?ランク戦もたまにしか参加してないイメージだな」

おいおい君たち聞こえてるぞ。と思いながら防衛任務にあたる。
B級上がりたて、結成したての出来立てほやほやの部隊の初防衛任務にはフォローとしてA級の隊員が一定期間つく。
その役目はA級でほぼランク戦に出ない、個人ランク戦もまれに出るくらいの私が隊長を務める有馬隊が請け負うことが多かった。
嵐山隊がよかっただの、どうせなら太刀川隊がよかっただの言われるが、実力が上すぎると手本ににもならないぞ。そもそもフォローするだけで戦うのは基本君たちだぞ、と思いながら渡された資料を見た。

「でも隊長の有馬さんかっこいいよね、なんで女の人なんだろってくらい」
「わかる、めっちゃかっこいい。イケメン」

きゃあきゃあという声まで聞こえてきて、これが実践だと注意してやろうかと無線をつなぐ時だった。
これ実践だぞ、ちゃんと集中しとけよ、と聞きなれた声がしてはっとする。
無線相手を個人に設定してみるとつながったところを見ると、どうやら大学に行くのをやめたらしい慶につながった。

「慶、大学は」
「自主休講にした、単位はまだ大丈夫」
「じゃあ風間さんにも慶のレポートは安心だから気にしなくていいって連絡しておこうか」
「それはやめてくれ」

担当区域内にゲートの開く音がする。
オペレーターの風見に確認を頼めば、モールモッドが三体。
研修するB級部隊の側。弧月を抜きそうになる慶を抑え、これ実践研修。手はギリまで出さないで、というとグラスホッパーで現場に向かう。
そもそも慶が何でここにいるのか、あとで問いただして忍田さんに告げ口してやらねば。

部隊の様子を見に行けばモールモッドに苦戦しながらもダメージは与えられているようだった。
ただ私の顔を見るなり助けてくれると思ったのか気を抜いたのが見えた。その瞬間に一人緊急脱出だ。
それで一気に劣勢になったのに見かねて弧月を抜いた。

ネイバーを片付け本部に連絡をして、深い溜息を吐き出す。厳しい言い方で心折られてな、でも緊急脱出があるからと言え命がけの仕事ってことも肝に銘じてほしい。
とりあえず心を追って学んでくれるタイプだと願いながら残ったB級隊員を見た。緊急脱出した隊の作戦室にも無線をつなぐ。

「まず、私と目が合った瞬間になんで気を抜いた」
「助けてくれると思って・・・」
「馬鹿言わないで、これはあなたたちの実技形式の研修。
私はあくまでフォローについてるだけで、劣勢にならない限り見守る監督。
貴方たちの実力ならモールモッドくらい対応できたから私は万が一に備えて待機していただけ。助けてもらおうだなんて甘い考えがあるなら今すぐボーダーを辞めなさい。」
「そこまで言わなくても・・・っ」
「トリオン体が死なない便利な代替品だと思ってるの?
私たちが当たっている任務は命がけで市民を守る大切な任務だってことを自覚なさい。
自覚がないならそれはB級隊員に必要ないからC級からやり直して。」

まだ中学生が多い部隊だったか、これくらいにしておけばいいだろうか。
どうも指導者に向かないから言葉選びが難しい。東さんに指導者としての教鞭でも取ってほしいが、忙しい人だしなー。と思えば慶がこっちに来るのが見える。
同時に忍田さんから、B級部隊は帰還して反省会をして書類提出、私と慶はそのまま防衛任務に当たってくれと無線が入る。
助かった、私も正直どうフォローしていいかわからない。

「おつかれー」
「慶、大学さぼったの忍田さんに報告しておくからね」
「ちょっ、やめてくれよ!マジで!!怖い!!!」
「なら真面目に行きなよ・・・」
「つーか小百合だって大学こねーじゃん、なんでそんな余裕なんだよ」
「真面目に大学行って、真面目にボーダーしてるからですー」

さっきの子たちの報告書も書かないとな、と思いながら新しく開いたゲートから出てくるネイバーを見据えた。




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