03

防衛任務を終えて時間を確認すると正午を少し過ぎたころだった。
今日は休日で時間もあるから、と立てていた予定を確認して本部を出ると目的地まで向かった。

休日の街の賑わいは不思議と心地よく、不思議と足取りも軽くなる。
道中で昼食も取り、目的のお店にたどり着くと店の前でそっと息を整えた。

「やぁ、こんなところで珍しいね」
「・・・唐沢さん」

整えた呼吸が無駄になった。
そんな顔をしていたのだろうか、唐沢さんには肩をすくめられた。
さぁ、どうぞ。と店の扉を開けてくれる。入るのに少し緊張しているがばれている。
何を言ったわけでもないが一緒に入店してくれたのは正直ありがたかった。

「女子高生が老舗紳士服居るのもなかなか不思議な光景だな」
「わかってるくせに白々しいですよ」
「あぁ、すまない」

少し笑って、忍田さんの誕生日だろう、と切り出す。
初めて入る紳士服店は落ち着いた雰囲気で、長年培ってきただろう技術や落ち着きのある空気感は自分の年齢層にはないものだった。
家柄上、和服を着る機会が多くて紳士服には疎いから余計に別世界に感じる。

「めぼしはついてるのかい?」
「オーダーメイドスーツのチケットにしようかと」
「それはやめておいたほうがいいな、おすすめはしない」

ぽかん、としてしまった私を見てあぁ、なるほど、と納得した様子だった。
テーラーの方がカウンター越しに見ているが、唐沢さんは少し待ってと目線を送ってこちらを見た。
様子を見るにこの店は唐沢さんの行きつけだったのかもしれない。

「おすすめしないいくつかの理由がある。
まず本部長はほぼボーダー制服を着ていてスーツを着る機会が少ない。
オーダーメイドスーツは今の体形に合わせて作るものだし、手入れをしていくことも必要になる。」
「作っても着用する機会がなければ意味はない、ってことですか?」
「そう。せっかくいいモノを作る店の自信作だ、クローゼットにしまっておくのはもったいない。
私みたいに外回りの営業をするような人間にはいい武器になるが、忍田さんに限って言えば今は必要がない。」

言われてみればそうだな、とうなずくと次に理由だ、と歩き出す唐沢さんの後を追った。
大きくはないがゆとりのある店内をゆっくり歩くと良い布地がたくさん目に入った。

「一応君が現役女子高生だ、ってことだ」
「・・・それって関係あります?」
「結構あるかな。
君はいいとこのお嬢さんだし、防衛任務でお給料もそれなりにもらってるから実感はないだろうが、普通の女子高生はまずプレゼント選びにそこまでの予算はかけない。
オーダーメイドスーツの相場は一着約4万円。これがフルオーダーになるともっと高くなる。
「普通の女子高生」がアルバイトでもらう金額を考えるとずいぶん高い買い物だ。」

ちなみにこの店のオーダーメイドは最安値でも5万円からだ、と言われると少々予算を高くとりすぎていたように思えてくる。
理解が早くて助かるよ、と言いながら足を止めてこちらを見ると綺麗な布地がいくつか置かれていて、テーラーの方がカウンター越しに待機していた。

「でも君は普通の女子高生ではないし、物を見る目も培われているから妥協案では納得しないだろう。
だから折衷案を提供させてもらおうかな。」
「折衷案?」
「ネクタイとネクタイピンなら渡しやすいと思うよ」

この店のネクタイの価格は1万5千円前後、ネクタイピンも高くてもネクタイよりは高くない。
最初の予算よりははるかに安いし、渡しやすいものになる。
まぁそれでもなかなか高いほうだけどね、と言われたがこのあたりならと納得した。

「唐沢さんの提案っていうのにめちゃめちゃ引っかかる以外はいい案ですね」
「心外だな」

仕上がったスーツを取りに来たついでだよ、と伝票を渡しながら笑う。

「あぁ、そうだ。
気が向いたらネクタイやネクタイピンを贈る意味を調べてみるといい。それじゃあ本部で」

大きな紙袋を片手に店を後にする唐沢さんに一礼だけして布地に目をやる。
ネクタイのデザインは細かく指定できるそうで、布地だけじゃなく縫い糸の色、種類、縫い方、刺繍も入れられると案内される。
悩みぬいて注文し、引き取り時に必要な伝票をもらったのはそれからしばらくだった。

ドキドキするな、まだまだ先の話なのに。

後日、気まぐれで調べた贈り物の意味を知って渡しにくくなるのは別の話。




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