02

学校を終えて一度帰宅し、制服から私服へ着替えた。
いつもの和服、だと目立ちそうだから洋服を取り出し鏡の前で最終確認する。
髪も結いなおしたし、服も大丈夫。
夏休みに着たネイビーのワンピースとも悩んだが、今日は白いレース地のワンピースに薄いカーディガンを選んだ。
夏休み前に柚由とネイビーのワンピースを選んだ時、迷って買っていたもう1着のほうだ。

鞄にいつも持ち歩いているものと別に勉強道具を入れて家を後にする。
忍田さんが迎えに来るまで、図書館で勉強をしよう。
大学を受験すると決めた以上、今までよりも少し力を入れたほうがいいだろう。と、夏休みごろから始めていた。
それでも大学受験をもとより決めていた生徒よりははるかに遅いスタートダッシュだったが、成績は悪くないし問題はないだろう、というが担任の先生の見解だった。

図書館に到着し、できるだけ人気の少ない席に着座した。
スマートフォンはマナーモードにして、勉強道具を広げた。
時刻は4時を回ったばかりだ。忍田さんのお仕事が終わるまではあと1時間。ちょうどいい時間かもしれない。



予定より少しだけ早く仕事を終え、自宅に帰ると5時ちょうどだった。
さすがにボーダーの服でうろつくのは、と着替えを済ませ車のカギを手にした。
少し早すぎるだろうか、と思いながらもそろそろ着きそうだ、とメッセージを送り、赤信号が青に変わったと同時にアクセルを踏み込んだ。

図書館に到着して少しするとお待たせしました、と駆け寄ってくる二階堂が見えた。
慣れた様子で助手席に乗り、シートベルトを締めるのを確認し車を走らせた。

「少し夕食には早いが、行きたい場所はあるか?」
「行きたい場所・・・」

時刻は夕方6時前。少し夕食には早かった。
込み合う前に行くのも手ではあったが、今回は店を予約してあるしその心配もない。

「でしたら、プラネタリウムに行ってみたいです。」
「プラネタリウム?この時間まだやってるのか?」
「はい、さっき図書館でチラシを見て。
9月に見れる星の解説と神話とかを紹介してるみたいです。」

上映時間もそんなに長くなく、ちょうどいい時間帯のものがいくつかあった。
じゃあそれにしようか、とハンドルを切る。

プラネタリウムを併設する科学館に到着すると時間も時間だからか人は多くなく、余裕があった。
上映チケットを購入し、入場すると大きな投影機とドーム型の天井が迎えてくれる。

室内の照明が落とされ、上映が始まった。
ゆっくりとした時間が流れると不意に睡魔が襲ってきた。
ここ数日少し忙しかったな、と思い返しながらふと横を見ると真剣な顔で見上げる二階堂が映る。

きれいな顔をしているな、とぼんやり思いながら少しの間見つめたが、どうやら気づいていないようだった。

普段見せる姿も、水族館で見せた顔も、お祭りで知った二階堂も、かんざしを受け取った時も、全部きれいだった。
少し、深く踏み込みすぎただろうか。
でも距離を置くには遅すぎた気がする。

自覚していいのだろうか。いや、だめだ。
15も年下なんだ。大切な人の娘さんなのだ。

彼女の未来を思うなら、身を引くべきは明確だ。

わかっていてなぜ、あのとき手を引いてしまったのだろう。
青い世界、少し効きすぎた冷房の感覚、年相応の二人。
割って入るべきじゃなかったのに、なぜ。

カクン、と体が落ちるような感覚がくる。
あぁ、このまま少し眠ってしまいそうだ。

もう少しだけ、横顔を見ていたかった。
だが瞼が重くなってきてしまった。
意識がぬるま湯につかっていく感覚がして、緩やかに思考がほぐされる。
あぁ、きれいだな。と何度目かの感情が浮上しながらそっと眠りについた。



「・・・さん、・・・ださん、忍田さん」

優しく名前を呼ばれながら体をゆすられた。
目を開けて少し、ぼやける視界の中、明るい光と二階堂が見えた。
そこから覚醒は早く、プラネタリウムの上映が終わってしまい、二階堂の前でずいぶん寝ていたのだと理解した。

「すまない、二階堂」
「いえ、でもやっぱりお疲れなんじゃ・・・」

気を使わせてしまった。しかも15も年下の保護対象者にだ。
保護者代理としてこれほど情けないことがあるだろうか。

「終わってからどれくらい経った?」
「5分くらいですよ」

なら予約した店にはちゃんと間に合うな、と少し落ち着いた。

「眠気覚ましにコーヒーだけ飲ませてほしいんだが、いいだろうか?」
「もちろんかまいませんが、やっぱり帰って休まれたほうがいいんじゃ・・・」
「大丈夫だ、気を使わせてすまなかったな。」

二階堂はやはり気にするだろうか。いや、気にしてるな。
うっかり寝てしまうなんて気が緩んだのだろうか。それでも心配させてしまったことは悪いと思う。
自動販売機で二階堂にはいつも飲んでいるお茶を、自分にはブラックコーヒーを買いぐっと飲み干す。

行こうか、と空き缶をゴミ箱へ入れて二階堂に向き合う。
また少し心配げな顔に、もう大丈夫だから、と声をかけた。

予約した時間が少し近くなってきた。
営業部長である唐沢さんに勧められたお店で、気負わずに行けるからと言われたトラットリアだ。

浮足立つ気持ちを抑えながら二階堂に、おいしい店らしいぞ、とほほ笑んで歩き出す。
口の中のコーヒーに苦さが、少しだけ冷静にさせてくれた気がした。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -