04

目の前で泣いてる子供がいた。

哲くんとはぐれて、すぐくらいだ。
小さい男の子だ、どう見ても迷子の。

「だいじょうぶ?」
「おねーちゃん、だれ?」
「・・・正義の味方かな、泣いてる子はほっとけないの」

しゃがんで視線を合わせると泣いてる男の子の顔がよく見える。
誰と一緒に来たのか、どこではぐれたのか、ゆっくり聞いて少しずつ落ち着かせる。
昔迷子になった時、お兄ちゃんもこうしてくれたな、と頭をなでると少しづつだけど泣き止んでくれた。

「おねーちゃん、君のパパを見つけられないけど探してくれる人を知ってるから一緒に行こうか?」
「ほんと?」
「うん、ほんとだよ。おねーちゃん正義の味方だから嘘つかないよ」

とりあえずお祭りの主催がいるテントに送り届け、泣き止んだ強い子にはプレゼントだよ、と頭に着けていたヒーローのお面をあげる。
さて、早いとこさっきの場所に戻らなきゃ、とテントを出てすぐだ。

「あ、これ私も迷子だ・・・」

人混みでどっちから来たかわからない。困った。
そうだ!電話だ!とスマホを取ったがタイミングよく電源が死んでいた。
うっそだぁ・・・、でも連絡取れない以上戻らないと・・・。と歩き出せば急に不安が押し寄せる。

あぁ、ここ最近、隣にはずっと哲くんがいてくれたもんな。と今ここに居ないヒーローを思い浮かべてちょっと寂しくなった。
哲くんを待ってから送ってあげてもよかったのに、早く何とかしてあげないとって焦っちゃったのは昔の自分みたいだったからだ。
あぁもう、少し落ち着かないとなぁ。

落ち着こう、と人並みから外れて一息つくと視線の先に嫌な影が見えて心臓が止まった気がした。
見間違えるはずはない、うそ、どうして。といつかの記憶がよみがえってくる。

「おねぇさん可愛いね、一人?」
「えっ」
「あれー?顔色悪いよ?お兄さんたちが介抱してあげるよー?」
「あっ、のっ、ごめんなさい!」

絡んできた人たちも怖くて押しのけて走り出すと、もう本当にどこにいるのかわからなくなってしまった。

人は居ないし、暗い場所。
花火の音が聞こえ始めて、打ちあがる時間になったことをそこで知った。

「どうしよう、哲くん・・・」

とにかく暗い場所が怖くて歩き出せば段差があったのか思い切り転んでしまう。
足が痛い、あぁ鼻緒まで壊れてしまった。草履が機能しなくなって、とうとう歩くこともできなくなった。

パニックになるな、と身を縮め抱きしめるように腕を回しても恐怖しか感じない。
ただ、ただ、怖い。木の陰で見たあの人が来たらどうしよう、さっき絡んできたお兄さんが来たら?
何もできないし、怖いし、どうしよう。

「春菜!」
「っ、哲くん・・・?」

花火が上がって一度明るくなる。
花火の手前、そこにはヒーローがいた。

立ち上がれないままでいるとそのまま抱きすくめられ、よかった、と安堵の声が鼓膜をゆする。
ふれあう体温が心地よくて、回された腕に安心して、思わず抱き返してしまう。
少しして哲くんの体が震えて、次に噴き出すように笑う。怒られるかと思っていたから以外で体を離して顔を伺ってみた。
笑いすぎてちょっと泣いてて、落ち着かせるように深く息を吐き出して、

「・・・お前ほんとに手ぇ放すと迷子になるんだな」

と、頭を軽く小突かれる。

「お、怒らないの?」
「あれはどうしようもないだろ・・・まぁ俺はお前んとこの兄貴にぶん殴られるな」
「大丈夫だよ、黙っておくから。ほら共犯者だよ」
「だな。でも一人でどっかいくのはやめてくれ。」
「ごめんなさい」

パニックになってしまって周りが見えなくなって正常な判断がつかなかった。
今すぐには無理でもちゃんと改善しようと決めつつ立ち上がろうとすると足ががくんと抜けるような感覚。
あぁ、そうだ草履が壊れてしまったんだった。

「ちょっと捕まってろ」

それを見た哲くんが素早く横抱きにする。
あたりを見渡して、とりあえず近くのベンチに座らされると、目の前に哲くんが片膝をついてしゃがんだ。
わぁ、すごい様になる。ヒーローっていうか王子様・・・はちょっとメルヘン過ぎるかな。
でもなんだか贅沢をしている気分だった。

「足出せ、鼻緒壊れてるし怪我もしてるだろ」

怪我をした足を哲くんが射的で当てた手拭いで固定して、壊れた鼻緒も応急処置で固定してくれる。
手際が良くて見とれていたら花火の明かりで真剣な哲くんの顔が見えて、心臓がさっきと違う意味で止まりそうだった。

「春菜?」
「哲くんって、ほんとヒーローみたい」

私が勝手にピンチになったのに、ちゃんと助けに来てくれた。
颯爽と現れて、救ってくれる。かっこいい、ヒーローみたいだ。

大きな手が頬を撫でて、親指で泣きそうだった目の淵をなぞる。
抗えない引力のようなものを感じる。それとも重力だろうか。
法則に従って、収まるべき場所へ収まるようにそれは重なったように思えた。

胸の奥が暖かくて、幸せだなぁ、なんてのんきに感じながら。
今はただ与えられる幸福を思いきり抱きしめた。




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